【五島紀行10】三日目 20160129 教会巡り後半エトセトラ、夕食へ

有福教会→頭子神社→大平教会→新上五島町観光物産協会


希望の聖母像を出発してからおよそ1時間半。中通島から若松島を東西に突っ切って、小さな小さな漁生浦島にようやく差し掛かる。ここを越えれば上五島最西端の有福島はもう目の前だ。漁生浦島はあっという間に通り過ぎてしまうくらい小さかった。いよいよか、と思った時、目の前の景色に目が飛び出るかと思った。地図では漁生浦島から有福島には橋がかかっているように見えたが、目の前のこれはどう見ても橋ではなく、防波堤がそのまま海の向こうに伸びていて有福島まで渡るようになっている。五島列島と一口に言っても島の至る所でずいぶん様相が違う。やはり、来てみないと分からない事はたくさんあるものなのだと改めて感じた。

ようやく辿り着いた有福教会は、iPhoneのGoogleマップで示されたポイントには存在していなかった。「有福教会」と書かれた看板だけが建っていて、そこから先にはいくら目を凝らしてみてもアスファルトの道路がない。一応コンクリート敷きにはなっているものの、これは冷水教会前の道路よりも更にはっきりとした「堤防」だった。地図上では道がない事になっている海際ギリギリの場所に、軽自動車一台分くらいの堤防が伸びている。凄い場所にあるんだとしみじみ感じながら教会へ。やはりこの集落にも通い続ける信者の方々が何人かはいて、今でもこの教会を守りながら日々ミサを行っているのだろう。有福教会も道路から少しだけ坂と階段を昇り、海を見下ろせる所に建てられていた。一番の僻地だと思った焼崎教会を超えてるな、と、階段を昇ってすっかり切れた息を整えながら思った。

有福教会から目と鼻の先のはずの頭子神社、辺りをしばらくうろうろしてみても見つからない。やはり地図上には存在しない事になっている所に伸びている道路沿いには小規模な集落が広がっていたが、何せ人通りは全くのゼロだった。少し離れたところで工事作業中の人達の姿が見えたが、彼らは地元の人だろうか。彼らに訊いて果たして分かるだろうか。どうしようかと思っていると、たまたま地元の方が通りかかった。旅ですっかり見知らぬ人に声をかけるのもかけられるのにも慣れつつあった。「かしらこ神社はどこでしょうか」と尋ねると、相手は首を捻り、話が通じない。もう潰れてしまった神社なのかと思ったが、諦めきれずに「頭に子供の子って書く…」と続ける。すると「あぁ、つもりこ神社の事ですね」と返された。つもりこ!それは読めない。無知を詫びて、一人で向かおうとするとその方は笑顔で案内してくれた。とても優しい方だった。

矢堅目の塩本舗に出向かなかったら絶対に行く事ができなかった頭子神社。鳥居に使われている石は頭ヶ島のキリシタン墓地の墓石と同じく非常に古びた色をしていた。一礼してから鳥居をくぐる。くぐってすぐの地面に「頭子神社」と書かれた石板が放置されていた。鳥居に冠されていた先代の石板だろうと思われた。普通ならある狛犬がない。境内までは長くて狭い石段が伸びていた。お賽銭箱もない、こぢんまりした神社だった。神妙な気持ちでお参りした。もしかしたら今はもう、普通の神社としても、キリシタン神社としてもその役目を終えているのかもしれない。カクレの人達が信仰を守りながらこの神社に通っていたであろう年月の事を思った。それは一体どんな日々だったのだろう。どんな風にして彼らはその信仰を守り続けていたのだろう。

大平教会を回り終えて、今日のスケジュールは完了した。宿までは約1時間で帰れる。まっすぐ帰ると17時過ぎには宿に着けてしまう。昨日一昨日と比べるとさすがにちょっと早い。明日一日予定がぽっかり空いてしまったので、観光物産協会に行って相談してみる事にした。専門家集団に訊けば何かいいアイディアをくれるかもしれない。

観光物産協会は有川港の目の前の綺麗な木造平屋建てだった。ガラスの引き戸を開けて中に入る。明日一日丸ごと空いてしまったので何かないかと相談する。できれば時間のかかるものがいいとリクエストしてみた。協会の職員さん達が顔を見合わせる。地図やらパンフレットやらを色々と出してくれた。その中で、椿油の搾油体験はどうかと提案された。確かにHPでも紹介されていたのを事前に見た。スルーしていたけれど、せっかくだからやってみたい。本当なら1週間前までの予約が必要らしいけれど、工房に電話をかけてくれ、無事に予約を取る事ができた。良かった。これで明日の予定がひとつ決まった。

ついでなので厚かましくももうひとつのキリシタン神社、山神神社の所在地についても訊いてみた。観光物産協会の職員さんの中で山神神社の事を知っている人が一人だけいた。カクレキリシタンは本当に隠れ潜んで200年の時を過ごしてきた人達なので、観光物産協会がキリシタン神社の存在や所在地を把握しているかどうかは賭けだった。その職員さんが、大きくて分厚い地図を持ってきて広げて見せてくれた。ここは明後日回る教会の目の前だった。良かった、明日じゃないけれどここも回れる。ほくほくした気分でお礼を言って観光物産協会を後にした。

宿に戻ると、すっかり夕食が揃っていた。今日の夕食は、丸ごとアジフライ、ヒラマサのお刺身、皿うどん。せっかく長崎に来るのに5日間のうち一度も皿うどんを食べられるチャンスがないと諦めていたのでこれは嬉しいメニューだった。女将さんにその事を伝えると「うちの皿うどんでよかと?」と笑われた。昨日明太子を分けてくれた彼は周りの皿うどんを見て頭を抱えている。会話に聞き耳を立てていると(と言っても斜め前に座っていたので普通に聞こえたのだが)、どうも甲殻類アレルギーらしい。皿うどんにエビが入っているので食べられないと嘆いていたのだった。「皿うどんなのに…」としみじみ悔しそうだった。笑い事じゃないけれどみんな笑っていて、悪いとは思いつつもつられてつい吹き出してしまった。食べたかったんだなぁ、皿うどん。美味しいもんね。

明日の搾油体験は9時に予約が取れた。とはいえ1時間くらいで終わってしまうらしいのでその後何するか。教会巡りは明後日でコンプリートする予定だから明日回ると更に予定が狂う。これまで回ったところで気になるところをもう一度回るか。さてどうしよう。

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