【五島紀行1】旅を決めるまで

2015年12月21日。11日後にはもう年が明けているというのが信じられないまま、1月に土日出勤が何回かある事が決まる。つまりはどういう事か。平日にその分振替休暇が取れるという事だ。いつ取ろうかカレンダーを眺める。この時点で業務が比較的空いているのは月末だった。ちょうどいいからどうせなら土日と続けて連休にしてしまおうか。軽い気持ちで振替を設定する。恐らくこの時期なら後から業務が立て込んで周囲に過重な負担をかける事もそれほどないだろう。カレンダーの下の方に綺麗に休暇の文字が並んだ。これだけ日数があればどこかに行けるな、とふと思いつく。思いついたら、ぶわっと一気に体温が上がったような気がした。そうだどこかへ行こう。そうしよう。最後に一人旅をしたのは2013年の10月だった。久しぶりに旅に出よう。旅する事が目的の旅をしよう。はやばやとこの連休の過ごし方を決めた。どこがいいかな。密かにわくわくしながら仕事を終える。普段は優柔不断なくせにこういう時ばっかり決断が早い。

そこから、いくつか候補を思い浮かべる。2年前に行ったのは白川郷だった。今度は雪の時期に行ってみようか。それともずっと行ってみたかった沖縄の竹富島に今度こそ行ってみようか。あれこれ行き先を考えてみた。これだけ長い休みなら遠いところにも行ける。その時、突然思い出した。数年前、家族と親戚で連れ立って長崎の五島列島を訪れた事があった。不思議な縁での旅で、見た事がないくらい美しい海と、とても綺麗な古い教会があった。島の人々の多くがクリスチャンで、食べ物が美味しくて、出会う人が皆優しいところだった。もう一度行ってみたいという憧れのような気持ちを、そういえばずっと持ち続けていたんだった。あの時見たこうもり天井(この呼び方を知ったのはずっと後になってからだった)と色とりどりのステンドグラスの聖堂をもう一度見たい。あの後五島について色々と調べて、教会の建築家や五島の宗教史なんかについても興味を持っていた。閃いたら「行きたい」という欲求が止まらなくなった。よし、五島に行こう。あの時も行き帰りに大変な時間を要した。行くだけで難儀なところだ。このチャンスを逃したら次はいつ行けるかわからない。五島しかない。完全に心は決まった。

そうと決まれば急がなくてはならない。一ヶ月前を過ぎたら飛行機代は跳ね上がる。航空券が少しでも安いうちに取ってしまいたかった。12月22日の帰宅後、早速ルートを調べてみる。前回と同じ行き方で、あの時の行程をなぞってプラスアルファになるような旅にしたいと何となく最初のコンセプトを決めた。日程は連休をフルに使って1月27日(水)から1月31日(日)まで。4泊5日あればきっと満喫できるだろう。細かい事は後から決める事にしてまずはルートを検索する。つい2、3日前に福岡への出張で自宅〜羽田間でリムジンバスというものを初めて利用したばかりで、これがとても快適で移動も楽だったので今回も最寄のバス停を出発点にした。到着地は前回と同じ、上五島の有川港。佐世保港からの高速船が信じられないくらい小さくて、揺れに揺れて大変だったなぁ、と懐かしむ。同乗していた現地の人達は皆平気な顔で寝入っていた。酔い止めも効かずに船員さんから袋をもらい、港に着いてからもトイレに駆け込んで真っ青な顔のまま出発したっけ。私は元々すぐに乗り物酔いするたちで、この時の船は本当に辛かった。それでも島の魅力の方が断然勝っていた。やっぱり行かないなんていう選択肢はなかった。あの時と同じ思いをしてでも絶対に行く、と決意は固かった。五島に行く。この事が私の中で物凄く強く太く位置付けられたような気がした。この旅を心の支えにしよう。そんな風に思った。

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