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生まれ変わったらプロバスケットボール選手だった件

俺の名前は日丼にちどんコタロー。プロバスケットボールチーム「横浜ビートル・セイラーズ」の社長をやっている。

「やれやれ。今日も赤木がコメント欄に不満を書き込んでるよ」

チームの公式SNS投稿に毎度のように不満を書き込む有名なフォロワーだ。俺は嘆息しPCを閉じた。厳しい言葉に落ち込むが、言ってることはあながち間違いではない。
チームは毎年のように残留争いを繰り広げ、今季も全日程の半分が終わった時点でいまだ3勝しかあげられていない。いい選手を獲得したいがなにせお金がない。

「あ~あ、空から3億円ふってこないかな」

俺はつぶやいた。すると3億円はふってこなかったが床に1枚の宝くじが落ちているのを見つけた。俺は冗談半分でその宝くじの当選結果をネットで検索する。

「うおおおおおお!!!!10億円あたっている!!!やったぁ」

なんと1等10億円があたっていた。俺はさっそく社員を呼び出しこの僥倖を伝えた。

「社長やりましたね!」「すごいです」「やったぁ」

みんなとても喜んでいる。俺もうれしい。

「この10億円をチーム強化費にあてる。これで残留争いからオサラバだ!」

歓喜の雄たけびをあげたその刹那、部屋の中にいるはずの俺はなぜか突然雷にうたれた。そして俺は死んだ。


目をさますと俺の前に美女がたたずんでいた。

「・・・ここ・・は? 俺はいったいどうなったんだ?」
「あなたは雷に打たれて死にました。まあ、私の操作ミスなんですけどね。プークスクス」

何だろうこの娘。初対面なのに何だろう。

「私はマリン、雷の女神です。前任のアクアから引き継ぎ想いを遂げることなく死んだ人たちの転生を手助けしています。あなたは本来は死ぬことはなかったのですが、私の不注意で雷を落とす場所を間違えて・・・プークスクス」

ひどい話だがこれも俺の運命だったのだろう。俺はこの理不尽を受け入れることにした。ひとつだけ悔いが残るのが「ビートル・セイラーズ」を常勝チームにすることができなかったことだ。ただ、あの10億円があれば残った者たちでチームを再建してくれるだろう。

「マリン、一つ教えてくれないか? 俺が死んでチームのみんなは落ち込んでいるかと思うが、なんとか頑張ってくれているか?」
「えーっとですね、ああ、大丈夫そうですよ。宝くじの10億円でチーム強化して優勝目指すって意気込んでいます」

よかった。俺がいなくなって大変かと思うが後はみんなにまかせた。

「なんか、10億円を元NBAのドラフト1巡目2位指名の長身選手と、前年度に優勝したチームのヘッドコーチを招聘するのに全ツッパするってGMが言ってますよ」

「いますぐやめさせろ。ああ、なんてことを・・・」



理由はわからないが失敗する未来しか思い浮かばなかった。だが死んだ俺にはもう何もできない。

「そろそろ転生の手続きをしてもよろしいですか? 今回は私のミスもありましたので、転生するにあたり、あなたの願いを一つかなえてあげましょう」

願い・・か。俺の願いは一つしかない。「横浜ビートル・セイラーズ」を常勝チームにすることだ。経営者としてはうまくいかなかったが、生まれ変われるというのなら、スーパープレイヤーになって自らの手でチームを勝たせたい。

「願いは決まった。転生後の俺に唯一無二のバスケットボールスキルを授けてくれ」
「かしこまりました。転生後のあなたに類まれなるバスケ能力を授けましょう。したっけ!」

マリンのその言葉を最後に俺はふたたび深い眠りに落ちた。


目をさますと天井の蛍光灯が見えた。どうやらここは病院の産婦人科で俺は生まれたての赤ん坊らしい。驚いたことに前世の記憶をもったままでいた。運動機能や言語機能は0歳児のそれだが、俺は50年間生きてきた知識をすでに得ている人生二まわり目ともいえるチート状態だった。

「まあなんて可愛らしい。あなたはカームラ、結城ゆうきカームラよ。よろしくね」

母親と思われる女性が赤ん坊の俺に語りかける。結城カームラというのが俺の名前なのか。両親のどちらかは外国の人なのだろうか。いい名前じゃないか。
看護師さんたちの会話や流れているテレビ番組から、今は俺が死んだ2024年からさかのぼること22年の2001年5月2日ということがわかった。過去に転生したというわけか。
それと母親が俺が生前に推していたアイドルだということも判明した。

しばらくして俺はマリンとの約束が守られているかどうか確認することにした。

「バブー(ステータスオープン)」

そうつぶやくと、俺の目の前にいくつかの数値が浮かび上がった。

結城カームラ
○タイプ:ポイントガード/シューティングガード
○アジリティ:SS
○ハンドリング:SS
○シュート能力:S
○パス能力:SS
○フィジカル:A
○身長:C
○バスケIQ:S
○ファンサタイプ:塩
○好きな食べ物:無し

よし。申し分ない能力だ。身長には恵まれないみたいだが、これならスーパープレイヤーとなれるだろう。


この日から俺のあらたな人生が始まった。目指すは「横浜ビートル・セイラーズ」のβリーグ制覇だ。


転生した俺は順調にバスケ界でスタープレイヤーとしての人生を歩んできた。高校では天才バスケプレイヤーとしてその名を轟かせた。
卒業後すぐに横浜ビートル・セイラーズの一員となり、プロバスケの世界でも無双した。新人賞も総なめにし同時にMVGも受賞した。本来ならMVPのところ、「結城カームラはもはや単なるバスケプレイヤーではない。彼は神だ」とβリーグのチェアマンがつぶやいたことから、あらたにMost Valuable God=MVGが俺のために用意された。

「これで横浜ビートル・セイラーズを常勝チームにすることができる。かつての俺が果たせなかった夢を、生まれ変わった俺がかなえる時がきた」

転生した俺は、ついに22歳となり、かつての俺が雷にうたれて死んだ2024年2月を迎えていた。

今日はβリーグ屈指の強豪チームである千葉ゲッツとの対戦。ピック&ロールやターン&リバースをたくみに用いる常勝チームだ。俺の兄である天才プレイヤー結城トガピもいる。
世間では天才バスケプレイヤー同士の「結城対決」で多いに盛り上がっている。横浜ビートル・セイラーズにとってもこの試合が今季の分水嶺となる。

生まれ変わってプロバスケットボール選手になった俺。今日が転生人生の踏ん張りどころだ。

「やってやろうじゃないか」

俺は静かにつぶやいた。

さあ、試合開始だ。





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