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書きなぐりのーと

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いわゆるエッセイみたいな雑文です。思いついたこと、気になっていること、昔から考えていること、あったこと、なかったこと、「どうでも話だけど誰かに聞いてほしい話」を書きなぐってます。
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#思い出

一目惚れの話

たまたま人からもらって一度だけ食べたお菓子の味が忘れられないのに、どこのなんというお菓子なのかさっぱりわからない。しかも、その人とは音信普通になってしまって、もはやそのお菓子を探す手がかりが何もない。 そんな経験、ないだろうか。 別にお菓子でなくても構わない。誰かに連れていってもらった裏通りの洒落たバーでもいい。運転中にFMで流れていた曲でもいい。自分の心のど真中に一瞬で突き刺さったのに、それっきり再会できないままの、いわば一目惚れの恋の相手とでもいおうか。 実はぼくにも

おまえは人間のクズになる、と言われた話

小学4年生のとき、学校で写生大会がありました。 学校のそばの海を見下ろす高台にみんなで移動して、そこから見える景色を描くんです。 天気が良ければ、日の光を反射してキラキラと輝く明石海峡、そこを行き交う船、そしてその向こうには淡路島という、なかなか絵になる景色なんです。でも、残念ながらその日は梅雨真っ只中の6月下旬。今にも雨が降り出しそうな曇天でした。そもそも、なんでそんな時期に写生大会を設定したんだ。 画板に画用紙を挟んで(いま思ったけど、「画板」って懐かしいですね)、鉛筆

娘の弁当を6年間作り続けた話

我が家の一人娘が中学生になった2008年4月から、高校卒業の2014年3月までの6年間、ぼくはほぼ毎日娘のお弁当を作り続けた。 きっかけは娘の中学校の入学式の数日前の夜、妻との何気ない会話。「あの子が中学に入ったら毎日お弁当が要るね」という話になった。そこで、ぼくが迂闊にもうっかり口を滑らせたのである。 「おれ、弁当作ろっかな・・・」 「は? そんなできもしないことを(失笑)」 「なにっ・・・できるし。作るし。」 うちの妻は「守れもしない約束をする男」が大嫌いなのである

タクシーの運転手さんに「がんばって」と言われた話

会社勤めを辞めて、独立して今年で13年目になる。 フリーランスになってからいろいろと変わったことはあるが、そのうちのひとつが「タクシーに乗る機会が増えた」ことだと思う。 決して贅沢をしているわけでもなければ、ましてやセレブぶっているわけでもなく、単純に時間節約が最大の理由だ。大阪は縦横に地下鉄が走り、JR環状線がぐるっと周りを取り囲んでいるものの、意外とアクセスの悪いポイントがある。東京に比べて小さな街なので、そういうところに行くにはタクシーに乗るのが一番手っ取り早い。会社員

ぼくは人生の半分を損しているという話

食べ物の好き嫌いが多いという自覚はない。 生魚・生肉・臓物類・貝類。 絶対に無理なのはこれくらいなのだが、人に言わせるとこれでも十分好き嫌いが多いことになるらしい。 たしかに、刺身(要するに生魚)が食べられないとなると、いろいろと困るのも事実だ。それなりにちゃんとした和食を食べに行けば、必ず出てくるお造り盛り合わせ。アレが食べられないってだけで、なんだか「ダメなヤツ」「お子さま」感が半端じゃない。おまけに、たとえキレイなおねえさんと仲良くなっても「こんどいっぺん新地で寿司で

ヒッチハイカーを乗せてあげた話

人生でやりたいことのひとつに、「ヒッチハイカーを拾う」というのがあった。あった、と過去形で書いたのは、実は昨年の2月にこれが実現したからである。 昨年の2月中旬、新型コロナウイルスの脅威が徐々に実感を伴い始め、世間が浮足立ち始めた頃のことだ。 委細は割愛するが、その日の夕方、小雨が降る中をぼくは阪神高速神戸線を車で大阪に向かって走っていた。途中、神戸は三宮にある京橋PAに立ち寄ってトイレを済ませ、煙草を一本吸って再び車を走らせ始めた。 ふとPAの建物の方を見ると、その軒下に