不成忍ノ者

袖がぼろぼろの使い古された着物と、これまたぼろぼろの風呂敷を背負った出で立ちで、多助は街道を喜々として歩いていた。

上背がある。
筋骨逞しく、重さを感じさせる体躯ではあるが、その足運びは端から見ても軽かった。
終始上機嫌であろうその顔は、街道の木々や空行く鳥、足元の草木に向けられ、兎角忙しない。
何がそんなに楽しいのか分りかねるが、感情を隠しきれていない様に映る。

多助は非常に目立つのだ。


やがて多助は、沢山の人、店で賑わう宿場町へと辿り着いた。

多助は、目に移る全てのものに興味を示し、あれやこれやと声を掛けては尋ねて回っていた。

そんな中、人だかりを見つけた。

多助は興味津々に近付くと、その人々の視線の先には、睨み合う男達がいた。

「てめえが先に仕掛けてきたんだろ?あぁ?」

吠える男達。
身なりから察するに、浪人の類であろうか。

対峙しているのは、背を真っすぐに伸ばした青年だ。
整った身なり、腰に差した刀。
身分がしっかりしている者の様だ。
がなり立てる男達を必死になだめている。

多助は、すぐ隣りで騒ぎを見守る老人に何事か尋ねた。
「大声出してる男達が茶屋で随分と騒いでたらしくて。それを止めさせようと彼が声を掛けたら怒っちまってね」

一際大きな悲鳴が人の輪から聞こえた。
視線を男達に戻すと、男の一人が刀を抜いている。
後退る青年に滲み寄る粗暴な男達。

男の刀が青年へと振り下ろされた。

が、その刀は男の眼前で止まった。

多助の手が刀の柄を掴んで阻害している。
つい先程まで多助と話していた老人は目を丸くしていた。
老人だけではない。
刀を抜いた男も、その眼前で立ち竦んでいた青年も、同様の顔をしていた。

多助は、はっとした顔を見せ、両者を見やり、
「喧嘩は喧嘩で留めて置くのが良いですよ、ね?」
と言った。が、当然それで収まりがつく状態でもなく。

「なんだぁ?お前ぇ」と、男達がにじり寄って来る。

「そうなっちゃいますか?」
多助は男達をぐるりと見やると、青年に向き直り、
「したらば、御免」
と言い終わった次の瞬間には青年を肩へと担ぎ上げ、脱兎の如くその場を走り去った。

あっという間に遠ざかる多助の姿。
残された者達は只々唖然と、その遠退いていく背を見ていた。

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