見出し画像

2017年ベストまとめ

今年に入っての大きな変化として、音楽のことを全く語らなくなった、ってのがある。
そんなこともあって、ツイッターはサブカルRTアカウントみたいになっていて嫌な感じがするんだけど、そういう方向性でスタイルを変えて消えていくのも悪くないのかもしれない、と思い始めている。
といいつつ、たまには音楽のことを語ってもいいのかなと今年のベストを書いてみることにした。

Impetuous Ritual - Blight Upon Martyred Sentience

Portalのメンバーがやっているデスメタルバンド。
何をやっているのかわからないけど、とにかくすごい。
何をやっているのかわからないけどすごい、という感覚はTeitan BloodのDeathに通ずるものがある。
1曲目が激情感あるドゥームデスナンバーなところはDead CongregationのGraves Of The Archangelsを連想させる。
作風は違うとはいえ、この2作が頭をよぎる時点で最高なんです。
このアルバムは曲もフレーズを覚えられないくらいカオティックでブルータルなんだけど、それはデスメタルの苛烈さの極北を表現した結果なんだと思う。
それをPortalに通じる整合感と知性でまとめ上げて、ノイズではなく音楽として再現している。
Portalをはじめとするオセアニアのバンドは知的でありながらアンダーグラウンドに根ざしていてミュージシャンではなくアーティストとしての気質を感じる。
インターネットの進化によって音楽から地域性が失われてしまったけど、オセアニアにはそこにしかない個性が残っていて地域単位で注目していい場所だと思っている。


Pallbearer - Heartless

Pallbearerが登場した時に、「メタルの新たなスタンダードになる」って思ったんだけど、そんな感じにはならなかったようだ。
クラシックは否定しないし、むしろ重視する人間だけど、Pallbearerを聴くと昔にしがみついててもしょうがないんじゃないかと思えてくる。
現代的な重さと惨めな気持ちを刺激する泣きのツインリードのアンサンブルはメタルの過去から今を凝縮してアップデートさせているように感じる。
Black Sabbathの古典からデスメタルを通過し、メタルの中心から横へ外れないまま現代へ音をアップデートさせるって相当にすごいことだと思う。


Sannhet - So Numb

Sannhetがどういうバンドなのかよくわかっていない。
インストのシューゲイザーなんだけど、その捉え方もあっているのかすらわからない。
ブルックリンのバンドなので、あっち方面のブラックメタルバンドと関連があるのだろうか?
正直、インストである必然性が感じられなくて、女性ボーカルを入れたら今の10倍は売れると思う。
でも、クセになって聴きたくなる不思議な魅力のある作品。


Rope Sect - Personae Ingratae

Iron Bonehead Productionsからリリースされたデスロックバンド。
Iron Bonehead Productionsはウォーブラックメタルなんかの苛烈なメタルバンドをリリースするレーベルなんだけど、ウォーブラックメタルとデスロックという文脈だと、アメリカのカルトなブラックメタルバンドVonのメンバーが後に始めたSixxを思い出す。
そう思って聴くと「Sixxと区別がつかんな」というくらい似ている。
暗い気持ちだけど激しい音は聴きたくないという時、Joy DivisionやThe Smithsなんかのニューウェーブ以外の選択肢として重宝した。
ロックの暗さの表現をこれまでとは違った側面から楽しむきっかけになった作品。


Fetid - Sentient Pile Of Amorphous Rot

今年の前半、やたら海外で話題になっていたから試しに聴いてみたらぶっ飛ばされた。
リリースは現在アメリカで間違いのないデスメタルをリリースする最も信頼できるレーベルHeadsplit Recordsから。
「これは買わねば!」と思いつつ、注文するタイミングを見計らっていたらソールドアウトで買い逃して落ち込んでいたところ、今度はデンマークのExtremely Rotten Recordsがヨーロッパ盤をリリースすることになった。
Extremely Rotten RecordsはUndergangのメンバーが運営しているレーベルで、ここのリリースも間違いのないものばかり。
そして先日、アルバムは20 Buck Spinからリリースするとアナウンスされた。
今、間違いのないアメリカとヨーロッパのレーベルがリリースした(する)バンドということで何も考えずに聴いていいし、知ってるフリすればトレンドに乗れると思う。


Mortiferum - Altar Of Decay

ヨーロッパ盤のテープをFetidと同じくExtremely Rotten Recordsからリリース。
ドゥームデスは好きだしdiSEMBOWELMENTは好きなんだけど、楽しみにしていたSpectral Voiceがなぜかあまりピンとこなくてハマれなかった。
「もうデスメタルを聴けない体になったのかもしれない」と諦めていたんだけど、この作品は一聴してどハマりしたから、何か決定的に違うものがあるのかもしれない。
Spectral Voiceは良くも悪くもDark Descent Records的整合感と美が強調されたサウンドで、Mortiferumはブルータルさと腐臭が強調されたサウンド、という違いがあると思う。
重いドゥームデスでブラストビートも併用するサウンドといえばdiSEMBOWELMENTだけど、MortiferumにはRippikoulu的悪さのようなものを感じて、そこがよかったんだと思う。


Incinerated - Lobotomise

自他共に認めるMortician崇拝バンド。
とはいっても、肉体的でモッシュを意識した悪めなスローパートは現代的でただのMortician崇拝とはわけが違う。
デスメタルがオールドスクールデスメタルとブルータルデスメタルに分かれ、それぞれがそれぞれの枠組みの中で極端なスタイルを追求しているのが現代。
現代のオールドスクールデスメタルとブルータルデスメタルの定義の中でMorticianがどこに属するかを考えると難しい。
肉体的なスローパートはブルータルデスメタル的であるけど、裏拍のブラストビートを中心としたスタイルと「腐臭」を感じる暗さはオールドスクールデスメタル的。
現代のデスメタルは過去のどのバンド、どのスタイルを発掘するかも一つのトレンドになっているけど、極端さを求める現代においてMorticianはある意味盲点で、それを異様な盛り上がりを見せているオーストラリアのデスメタル/グラインドコアシーンが「発見」したというのは、当然の結果のように思う。
Morticianとは考えず、ブルータルなブラストビートと悪めのモッシュパートのコンビネーションスタイルと考えた場合、そのスタイルはFoetopsyを連想する。
Hatebreed的といえるこのスタイルがFoetopsyの登場で一つのスタイル、トレンドになるかな?と思ったら定着しないで消えていったことを考えると、様式的なメタルというジャンルの中では合わないのかもしれない。
現代はあらゆるスタイルが掘り起こされ、古臭い、ダサいという概念が消えつつあるな、なんて思っていたけど、意外とそんなことはなく偏っていることを教えてくれた作品。


Relinquished - Paranoiac Hell

デスメタルにオールドスクールという冠の付くサブジャンルが登場したということはニュースクールが生まれたわけで、その「新しい」の概念がブルータルデスメタルだった。
ブルータルデスメタルという概念を発見したバンドがいたからジャンルが生まれたわけで、その元祖が一般的にSuffocationといわれている。
じゃあ、そのSuffocationを現代から振り返った場合、新しいか?といわれると、明らかに古い。
そして、ブルータルデスメタルの極端なスタイルの一つにスラミングデスメタルがあるけど、初期のスラムと現代のスラムではリズムが違う。
ブルータルもスラムも発見されて間もない頃と表現が確立された現代ではスタイルが違い、発見されて間もない頃のスタイルはオールドスクールに属するんじゃないか?という微妙な立ち位置にあるように思う。
その「表現が確立される前の新しい」をいいとこ取りすることで新たな新しいを生み出したといえるのがこの作品。
オールドスクールが好きでプライドがあるけど、そこから派生で生まれた間もない頃のブルータルな感覚も好き、というのはわかる気がする。
「新しい」の感覚も時代の後方になれば古いに属する、というのはなんだか哲学的である。
何でもかんでも極端にスタイルが定義化される現代で、生まれて間もない頃の鈍臭さをあえて再現するというのは面白いし、やはりあの時にしかできなかった何かってあるよなって再確認させられた。


Heinous - Gore From The Gutter

今年、数年ぶりにゴアグラインドブームを巻き起こすきっかけとなった作品。
1曲目の冒頭から完璧で理想的なゴアグラインドで熱いものを感じる。
「ゴアグラインドなんてボーカルがピッチシフター使っただけでグラインドコアと同じでしょ?」と思っているあなた、それは違います。
ゴアグラインドにはグラインドコアとは違ったグルーヴ感というのがある。
結局、それはCarcassの1stにたどり着く。
あのアルバムは聴きとるのが難しく何をやっているのかわからないけど、「Napalm Deathとは違う何か」というのは確実にあった。
デスメタルを俯瞰して見た場合、Carcassの2ndは何者でもないおかしなデスメタルなんだけど、1stで表現してた「何か」を拡張してメタルの強度を強めたのがあの作品で、そのCarcassの根底にあった「何か」こそがゴアグラインド(及びゴアメタル)の真髄なんだと思う。
その「何か」を独自に解釈したり拡大解釈したのがゴアグラインドの歴史。
この作品はCarcassの1stをベースにしたクラシックなグラインドコアをベースとしたものだけど、コアでクラシックでありながらモダンにアップデートされていて古臭さは感じない。
Carcassの持っていた「何か」が凝縮されている。


Raw Noise Apes / SxOxTxE ‎– Untitled/Escape From The World Of Stone

去年あたりに、コアなグラインドファンの間で「SxOxTxEがやばい」と話題になっているのを聞きつけて、流れに乗るしかないと野次馬根性で聴いてみたらすごくてぶったまげたのが始まり。
すごいといっても、そのサウンドはクラシック。
コアでピュアでクラシック、でもモダン。
グラインドコアが差別化を図ろうとすると、「モダン」という何かが付随してグラインドコアの爽快感を犠牲にするのが常だと思っている。
グラインドコアの新たなスタイルを確立した代表的なバンドにNasumがいるけど、個人的には全くノリきれなくて好きになれなかった。
オリジナルだしすごいことをやっているのはよくわかるんだけど、グラインドコアに求める何かとは明らかに違っていた。
だから、グラインドコアの本質と時代を同時に求めるバンドとしてInsect Warfareを待たなければならなかった。
一度、Insect Warfareでクラシックとモダンの両立したサウンドを体感してしまうと人間わがままなもので、そういうものを求めがちになってしまう。
2000年代にクラシックなスタイルをベースとしたバンドで満足したのはStoma、Super Fun Happy Slideくらいで「やっと来たか」感。
「Napalm Deathと違いがわからない」と思ったあなた、気持ちはわかる。
でも、そうじゃないんだよ。
Raw Noise Apesはロウでヘビーでブルータルなグラインドコアでなかなか聴きごたえがあった。


Vomi Noir / Halitosis - Envies De Meurtre / Straight From The Garbage

去年、SxOxTxEのテープと一緒に前情報なくHalitosisのテープを購入したんだけど、「今ってゴアグラインド、こんなことになっているのか!」と驚かされた。
ゴアグラインドも「モダン」化と共にクラシックなグラインドコアのスタイルを捨て、別物の何かに変化していった歴史がある。
ゴアグラインドの変化は、それはそれで面白くて追ってはいたんだけど、追うことをやめる決意をさせるほどのに自分の中でノリきれない何かになったように思う。
気がつけば、Dead InfectionでもLast Days Of Humanityでもなく、CarcassのReek Of Putrefactionに回帰していたのは最高というしかない。
Halitosisが本命だったんだけど、Vomi NoirもHalitosis並みの壮絶なゴアグラインドで嬉しい誤算。
Vomi Noirを聴いていて、「この芋くささ、Carcassの1stっぽい!」と思ったらCarcassのカバーだったんだけど、全然違和感ないしそれも含めて最高。


Pregnancy - Demo

2013年にリリースされたデモの音源化。
これは個人的にとても衝撃的な音源だった。
ゴアグラインドにはゴアグラインドが生み出した独特の芋くさいもっさりとしたリズム、モッシュパートというのがある。
クセが強すぎて好きになれない人というのはいると思うし、それに挑戦するのもゴアグラインドを楽しむ一つの道だったりする。
この芋くさいリズムは鈍臭いブラストビートとセットで、それがある種のわびさびだったりする。
それらをこのバンドはキレのあるリズムで再構築して表現しているように思う。
Last Days Of Humanity meets Cock And Ball Tortureといえそうなスタイルで、キレのあるリズムで表現するとこんなに格好いいんだ、とわかってはいたけど誰もやらなかったから新たな発明になっているのが新鮮な驚き。
オーストラリアのバンドで、オーストラリアのグラインドコアシーンのヤバさというのがよくわかる。
この音源はWater TortureなんかをリリースしているNerve Altarが音源化しているところもポイントが高い。


Nihility - Imprisoned Eternal

日本ではニュースクールといわれているスタイルが海外では90s hardcoreなんていわれていて言葉の定義が難しいんだけど、今はそれの時代の針が少し動いて90s metalcoreなんて言葉も出てきたから、もう何が何だかわからない。
そんな90s hardcoreのリバイバルが世界的に盛り上がっていて、意外にもイギリスがその中心地だったりする。
そのイギリスから登場してぶったまげさせられたのがNihility。
ハードコアのメタル化というのは、肉体的なリズムのブルータルデスメタル方面へ変化していくのが常だったんだけど、何故かこのバンドはオールドスクールへ振り切っている。
この動画を見るとダサいルックスのギターのTシャツがDead Congregationで驚かされる。
そう考えると、このバンドが持つブルータルなオールドスクールデスメタル感というのは、今のオールドスクールデスメタルのトレンドともいえるIncantation感だったりして、そんなチョイスするハードコアバンドいるの!?とぶったまげる。
オールドスクールデスメタル特有の引き摺るようなリズムを中心としながらも、ハードコア特有の肉体的でブルータルなリズムも随所に散りばめられていて、これはハードコアサイドの人間にしか作り出せない発明だよな、って気にさせられる。
10年代はメタルの方が時代の先を進んでいて、ハードコアは遅れている、というよりは時代に逆行している印象だった。
90年代にハードコアがメタルを発見して再構築したわけだけど、Nihilityは10年代に同じことをやってのけたように思う。
そういう意味で、ハードコアの時間の針がほんのすこしだけだけど動いたと思えて嬉しい。
ここから新たな流れがきてほしい。


Una Bèstia Incontrolable - Metamorfosi

ここ数年、ハードコアを追うのをやめているんだけど、理由として時代の逆行を強く感じるから。
リバイバルともいえるし、昔を、古いを発見したともいえる。
しかし、それが良いか悪いかはまた別。
「それ、今やる必要ある?」と思えるものばかりで聴いていてつまらない。
その一方で、ハードコアで面白いのはクラシックなスタイルだとも思っている。
これ、ある意味で同じだけど、全く違う。
誰がやるのか、どこでやるのか。
クラシックなスタイルを時代に流されず守り続け発展させていた人たち、シーンというのはある。
それをリバイバルとはいわない。
そして、保守的でコアな人たち、シーンの中からこそ新しいスタイルや表現が生まれるんじゃないか、という予感があったし、それは本当のことだったんじゃないかとUna Bèstia Incontrolableを聴いて思う。
「新しい」を発見すると、表現の中心だった「古い」からいかに離れていくかの競争が始まる。
新しいの競争の果てに中心から離れすぎると、そこには新しいではなくシラけが待っている。
新しいの際果てには新しいは無いということ。
そうなった時、どこから新たな新しいが生まれるかといったら、コアな部分じゃないかと思う。
新しいと対極的なコアで保守的な部分にこそ新しいを生む源泉がある。
この作品をリリースしたLa Vida Es Un Musはコアで保守的なハードコアを時代に流されずにリリースしてきたレーベルで、クラシックだと思う作品をリリースする一方でUna Bèstia Incontrolableをはじめとする新しい何かを感じさせるバンドをリリースしている。
速くないとハードコアではない、と思う一方で、これもハードコアだよなと素直に思う。


Cryptic Void - Into The Desert Temple

グラインドコアは時代を代表するスタイルというのがその時代ごとにあったと思う。
個人的な解釈をさせてもらうと
Napalm Death → Assuck → Nasum → Insect Warfare → Full Of Hell
な感じ。
これは単純に80年代、90年代、00年代、10年代を代表するグラインドコアは何か?って考えた時の基準で人気や影響力は特に考えていない。
10年代はFull Of Hellだよなあ、って思いつつも、スタイルの個性やインパクトを考えると、個人的にはCryptic Voidなんじゃないかなと思っている。
デスメタルに通じる重厚感をグラインドコアが持つ爽快感を損なわずに表現するスタイルは、これまでモダンという差別化をしてきたグラインドコアバンド達がしてきた失敗を克服しているように思う。
そういう意味で、Cryptic Voidのグラインドコアには新しい何かを感じる。
ただ、新しい何かを時代を代表するバンドの基準と考えるとWVRMの存在を無視していいのかな?という疑問が出てくる。
Cryptic VoidとWVRMは知名度や影響力として考えるとFull Of Hellよりはるかに見劣りするから、時代の代表はやはりFull Of Hellでいいのかなというモヤモヤとした結論。
この作品がRSRからリリースされているというのはとても重要なことだと思う。


Eyedress - Manila Ice

フィリピンのアーティストで何者なのかよくわかっていない。
そもそも、この音楽がどんなジャンルなのかもよくわかっていないので、このアーティストをきっかけに掘り進めることができずに困っている。
bandcampのタグを見ると「rap」があって「ラップぅぅぅ〜!?」ってなるんだけど、そういわれてみるとそんな気になってくる。
実際、YouTubeで動画を見たら真面目にラップしていて、もしかしたらラッパーなのかもしれない。
その一方で、別の動画ではポップなシューゲイザイーな曲を披露していて何が何だかわからない。
真面目にラップをやったり真面目にシューゲイザーをやる感覚はすごく日本っぽいなって感じるんだけど、そう考えると、このアーティストはごった煮のアジア的ポップカルチャーを表現しているのかもしれないと思えてきた。
一昔前なら日本から出てきそうなアーティストだなって思うと、日本はもうそういう国ではないんだなって悲しい気持ちになってくる。
日本人はアイドルとのクロスオーバーを頑張ってください。


今年は自分でもびっくりするくらいグラインドコアを聴いていた年だった。
パワーバイオレンスじゃないぞ、グラインドコアだ。
そういえば今年はパワーバイオレンスがあまりパッとしない年だった。
記憶にあるのはCave StateとConcussiveのスプリットくらい。
デスメタルも印象に残らない年で潮目が変わったのだろうか。
来年、何を聴いているのか全く予想がつかない。
もしかしたら音楽を聴いていない可能性もある。
今年のまとめとして「便利と楽しいは違う」。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?