見出し画像

夜《時刻不明》

 世間から青春と呼ばれる、あの千紫万紅の景色、喜怒哀楽の暴風雨。そこから無疵で目覚める人少なく、それ故に魅力的な季節。だが私の心は盲目の泉、何をしても快楽の波紋は広がらず、その水面は恐ろしく冷たい。幸いにも心優しき友人たちがいて、彼らはそこに酒精を注いでくれたが、私の虚無感は深まるばかり。それを見て為す術なしと断言し、俯き、私のもとから去っていく、彼らの悲壮な後ろ姿を見ても、依然として私の心は動じない。
 だが或る日の夜、花々とともに眠ろうと思い、疲労困憊の身体に鞭打ち、絶望する精神を騙しながら、隣町の菖蒲園に向かった。そしてそこにたどり着くと、私は広大な花壇の中心に横たわり、紫陽花に囲まれながら、棺に眠る死者のように目を閉じた。すると眠るが早いか、異様な光景が次々と眼前に広がり、やがて私の前に不気味な泉が現れた。それは私が盲目の泉と名付けたものに違いなく、全く動かないその水面は、今にも凍ろうとしていた。しかし突然、鋭利な刃物がゆっくりと天から落ちてきて、それは躊躇うことなく泉を深く突き刺した。すると驚くことに、如何なる刺激にも反応しなかった、あの盲いた水面が微かに揺らいだ。しかしそれによって我を見失った泉水は、途端に血の如き緋色に染まるのだった。

 清棲樫貴

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?