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今日の点群データ #32 真夏のEnjoy Incubus!

所謂なろう系漫画って特に刺さりもしないのに何であんなに流し見してしまうのだろうか。不遇な現世からの異世界への転生とチート能力、そして美女たちとのハーレムというガチガチのフォーマットが、人々には痛快で魅力的なのだとろうか。フォーマットと言えば、序盤に主人公を襲うも返り討ちにあって逆に手籠めにされ、以降は色々と主人公の重要なパートナーになるサキュバスをみていると、ふとインキュバスのことを思い出した。インキュバスとはサキュバスの男バージョンである。しかし僕が思い出したのは夢魔でも淫魔でもなく人間の、カリフォルニアの5人組ロックバンドである。

インキュバスとは?

夢魔・淫魔と聞くと日本ではヴィジュアル系だったり、マリリン・マンソンやミスフィッツみたいな化粧ゴリゴリな感じを受けるかもしれない。しかし実際はVo,Gt,Ba,BrにDJのいる5人組のゴリゴリなミクスチャー・ロックバンドだ。このバンドの特徴はVo.ブランドン・ボイドのイケメンっぷり。この世代のミクスチャーバンドはライブ時に半裸(たまに全裸)になるイメージがあるが、ブランドンも例外なく半裸でパフォーマンスをする。この部分だけはかろうじて淫魔とも言えなくないが、歌唱力やバンドの演奏技術も秀逸。特に音楽性はアルバムごとにどんどん変化し時期ごとにまったく違う顔が見られるのも大きな魅力。そんなバンドを聴き始めてから20年経った真夏、聞いて欲しいアルバムの順に紹介しよう。

『Make Yourself』

最初に奨めるすれば、2ndアルバムである「Make Yourself」だと思う。理由はインキュバスの音楽はノリ最重視のゴリゴリなミクスチャーから、リフレインを多用した哀愁漂うメロディアス路線にどんどん変化しているので、全体的にメロディーが強くてノリが良くキャッチーな曲が多いこの時期が、このバンドの導入には聴きやすいからだ。M1「Privilege」みたいなゴロゴリミクスチャー曲もあればM8「Drive」、M11「I Miss You」みたいなメロウな曲もある。そしてM6「Stellar」やM12「Pardon Me」のような、静と動のダイナミックな展開という次作ので見せる進化の片鱗を見せている曲もあり、彼らのキャリアの分岐点に立つアルバムであることがわかる。

当時CD-Rに焼いてカーオーディオで爆音でM7「Make Yourself」をかける。Aメロで「F〇〇k You!!」と抑圧から一気に解放される感じがマッチしていた。


『S.C.I.E.N.C.E.』

続いてはここからデビューアルバム「S.C.I.E.N.C.E.」を聴いてほしい。まず目につくのは何とかならなかったのかというジャケット。メンバーの知り合いだというこのオヤジは、歌詞カードにも出てくる何ともダサい内輪ネタ。当時20歳そこそこだった彼らの若気の至りであろう。

M1「Redefine」からガンガンたたみかけるゴリゴリのザ・90年代カリフォルニア・ミクスチャー・ロック。でもM2「Vitamin」やM3「New Skin」なんかは最近も演奏されていたりする。

ここまで遡ると、ノリ100%でビジュアルはKoRn、声はレッチリやん。

でもM9「Summer Romance」は、打って変わってラテン乗りのセクシーな曲。ハッキリ言ってゴリゴリミクスチャーの他の曲とはちょっと異色で浮いている。


『Morning View』

このアルバムで彼らバンドの本当のオリジナリティーにたどり着いたんだなって思う。#1『Nice To Know You』〜最後の『Aqueous Transmission』まで、どの曲もピースフルな雰囲気は、この時代の彼らしか出せないのではないか。レッチリで言う『Californication』的な、セールス的にも音楽的にもこのバンドのターニングポイントとなったアルバムで、あっちがプールなら俺らは海だぜみたいなジャケットのセンスも格段に進化している。

当時地方の高校生だったということを強調したいのだが、それはこのバンド最大のヒットとなっているこのアルバムの存在をスルーしてしまっていたから。CDショップで見落としたのか原因は思い出せないが、このアルバムを聴いたのは結構遅くて、『A Crow..』よりもずっと後だった。

このバンドの代表曲。ギターの心地よいいけど切ない不思議な感じのリフレインで静かに始まって、サビで一気に盛り上がる。これまで色んな音楽性の変化を見せてきたけどどこか浮き足だった感じでもあった。

『A Crow Left of the Murder』

続いてからは発売順に聴いていく。このアルバムのタイトルはガガガSPのオラぁいちぬけた的なイメージだろうか。今、改めてディスコグラフィーを俯瞰してみると、前作となる『Morning View』の成功で新たな方向性に自信をつけて、M4「Take Shows on Mute」に象徴されるような、メロディアスな方向に明確に転換した一枚だったんだなと思う。それまでのアルバムと比較しても、勢いというよりはジワジワと所謂「スルメ盤」的な魅力がある。

僕がインキュバスと出会ったきっかけの一曲。当時ライブでは1曲目の定番だった。静かで不気味なノイズから徐々に盛り上がる、イントロの緩急で一気に引き込まれた。

このときはブランドンのイケメン全盛期だな。。。

『LIGHT GRENADES』

『S.C.I.E.N.C.E.』からフォローした身から見ると、メロディアス路線に思いっきり振り切ったなって思う一曲。前作の『A Crow...』がスルメ的な魅力があるのに対し今作はフックの効いた聴きやすい曲が多い。個人的にはレディへの虹を聞いた時みたいな雰囲気だな。

ジャケのデザインはまあ、どうだろう。今発売していたら、きっと彼の国に怒られそう。。


語る場の少ないスルメバンド

2000年代初頭。地方の高校生だった僕にとっての音楽体験は、月刊の音楽雑誌や友達がダビングしたスペースシャワーTV、漫画のBECK。そして当時通っていたTSUTAYAのCDコーナーにある、店員さん手作りのおすすめコメントだった。音楽や映画に人と違う趣味を求めがちだった当時の僕は、まだ誰も見つけていないインディーズや洋楽のバンドを開拓し、友達が部屋に来た時に何気なくかけて「お!?」って気づいてもらうのが楽しみだったのを覚えている。そんな当時の僕がたどり着いた、ハマったけど周りにハマった人がいない、語る場のないバンドがインキュバス。レッチリやリンキンパークと比べると来日公演は少ないし日本の知名度も高いとは言えない。僕自身はインキュバスを知っている人に会ったことがないし。。。アメリカでの立ち位置は全米No.1をとっていたり、今でもアルバムを出せばそれなりにヒットするベテランバンドといったところらしい。

音楽の話で「スルメ盤」スルメと言うと、ジワジワと聴けば聴くほど深みが出て長い間愛聴できる作品を指す。インキュバルにもスルメ盤と呼ばれるものは存在するのだが、それだけでなくキャリアを通じて常に音楽性の変化を続けてきたことによる、バンドとしてのスルメ要素もあるのだ。

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