私が本名でデビューできない理由

　と言っても今のところ何かしらの媒体でデビューするアテはなく、「デビューも決まってもいないのにそんなこと言っても仕方ないだろ！」というご意見もあるかもしれないが、とりあえず「もしデビューすることになったら……」と仮のお話としてお聞きいただきたい。
　私は現在「木屑問屋」という名前を名乗っているが、これはnoteを開設したその日のノリで適当に付けた名前であり、「ネットで活動する時には絶対この名前にするんだ……！」みたいな思い入れは全くない。別の日にnoteを立ち上げていたらきっとまた全然違う名前になっていたと思う。
　ネットで活動するにおいて本名でやるかペンネームでやるかという選択がまずあると思うが、「あんまり個人情報を晒してもなぁ……」という理由でここは迷わずペンネーム一択である。
　しかし仮に小説家としてデビューする場合、ここはなかなかの迷いどころである。もしそういう日が来るとすれば、私は自分の本名で勝負したいと思っていた。そう、あの日までは……。
 
　皆さんはご自身の本名をグーグルとかで検索したことはあるだろうか。
　私はある。
　自分はまったく有名人ではないので検索結果に自分の情報が現れるワケがない。だから正直調べる意味はない。「これはこれでまた別の意味で自意識過剰かな～どうしようかな～」となんとなく居心地が悪い気分になり検索する前はだいぶモジモジしたが、これも一つの経験と思い「ええいままよ！」と検索ボタンをクリックした。
　私の名前（本名）は「これは絶対に他の奴とカブらないな…」という珍しいものではない。そのためか、同姓同名の別の人の情報がズラズラと表示されてきた。
　会社で偉くなってインタビューを受けている人もいるし、なんだかセンス良さげなアーティストもいるし、本名でSNSをやっている一般人も出てきたが、どれもこれも私と同じ名前で「パラレルワールドの自分」を見せられているようで頭がクラクラしてきた。
　そしてAmazonの「本の検索結果」がヒットした。
　私（と同じ名前の人）の著作は４冊あった。
　著作が４冊！　自分のように１冊も本を出せていない人間もいるというのに、このスコアは実に大したものである。
　本を出すことに憧れを持っている身としては、ワクワクしながらそのタイトル群を見た。そして愕然とした。
　何故ならば、どれもゴミみたいなハウツー本だったのである……。
　恋愛モノ（しかも男側から女性にモノ申すタイプのヤツ）が２冊、話術モノが１冊……（あと１冊については特定を避けるために伏す）。
　焦ってAmazonレビューを確認すると、好意的な感想もわずかにあるものの「あまり得るものがなかった」「ゴミみたいに寒いダジャレが３行に１回くらい出てきて読みづらい」「センスが不快すぎて打ち捨てた」と“ここはヤフコメ欄なのか！？”と他のレビューではあまり見たことのないレベルの辛辣なコメントで満たされており「パラレルワールドの自分よ、しっかりしろ！」と慟哭したくなった。
　そう、Amazonレビューを見るまでもなく、自分でも絶対書店では手に取らない、取りたくないタイプの本だったのである。自分と同じ名前、という共通点が無ければ絶対に辿りつくことのない本たちであった。
　４冊も本を書くということは本当にすごい。とは思うが、尊敬するのは「本を出した」という業績の１点のみであり、失礼千万を承知で言うとこんな本でデビューしたくないし、したところでなんにもならないです……。
　そして彼の著作はあまり好評ではないのか2017年を最後に本を刊行していない。ただ、今まさに絶賛執筆中であり、満を持して600ページ超えの大作（しかもハウツー本）を世に問う可能性もあるが……。
　そしてここで最初の話につながってくる。
　私が仮にとんでもなく素晴らしい小説を書いて本名でデビューしたとする。
　そしたら！　そいつと同じ名前だから！　そのゴミみたいな本の同じ作者と混同されるのである！　だって同じ名前なんだから民衆どもは「同じ人なんだな～」と思うに決まってる！　だっていつの世も大衆というのは愚かだから！　永遠の愚か者たちなのだから！！
「あ～この人の小説最高に面白かったな～。他にも本書いてあるかな～。おっAmazon見たら他にもあるじゃん！　えっ……何コレ……、全部読みたくないタイプの本なんですけど……。Amazonレビューもただのヤフコメじゃん……。さっき読んだ小説のこともなんか気持ち悪くなってきちゃった、……うん、焚書しよっ❤」ということで全国で焚書推進運動が広がり、私の本は物理的に燃え盛り、私の作家人生はここで終了するのである。
　だから今後どんなに素晴らしい作品を書こうとも、その４冊の検索結果がこの世から抹消されない限り、私が本名でデビューすることは100京パーセントもあり得ないのである。
　ていうか他の同姓同名のパラレルワールドの自分たちもこの事実に早く気付くんだ！　我々のいとしい本名はすでに汚染されている！
　この想い、届け！！