MaaSの小さな一歩(とさくらの戦略)

小田急がMaaSのサービスを開始したというリリース記事を見て、そのバックグラウンドを調べている。そもそもの小田急のサービスというのは例えばこの記事。

ここで提供されるサービス内容は、正直言えばしょぼいと思う。私の勤務地のある新宿エリアだと、箱根そば(小田急系立ち食い蕎麦屋さん)で30日間毎日食べられるチケットが買える、とかなんだけど、まあちょっと使う機会はないかな、というところである。

このサービスを実現しているMaaSのプラットフォームはMaaS Japanというもので、1年前くらいから小田急がフィンランドの MaaS Global社と組んで準備していたものである。この5月にはその基盤を使うアライアンスを交通インフラ系各社と組んでいくという記事も出ている。

蕎麦のチケットでは大して心動かないが、このMaaS Global社がフィンランドのヘルシンキで行政と組んで実施しているサービスというのは結構インパクトあるものだ。それは公共交通機関のサブスクリプションサービスである。月額いくら、という料金を支払うと、鉄道やバスやタクシーに都度精算することなく乗ることができる(回数上限あり。乗り放題になるプランもある)。これが、都度精算するより安く乗れるのだ。

すでに現在、SUICAなどによって精算を統一化することはかなりできている。しかし定額料金で乗り放題というインパクトは相当なものだろう。しかも、SUICAエコシステムに含まれていないような、カーシェアであるとか自転車のシェアなんかもシームレスに使えるようになる(という世界を目指すのがMaaSサービスの意気込み)。

また、MaaSというのは料金精算だけでなく、ユーザの利用状況をリアルタイムで把握可能ということから、オンデマンドで適宜サービスを利用可能になるという側面もある。駅を出たらタクシーが待ってたり、シェアリングの自転車が予約できていたりするわけだ。そういう利便性の向上も魅力である。

そういう世界が来ることがわかっているから、交通インフラ系各社が今すごい勢いでMaaSの整備を進めているわけだ。具体化した最初のサービスが蕎麦のチケットだとしても(しつこい)、これは大きな世界につながる小さな一歩なのだ。

交通系サブスリプションが進行していくと、駅の改札などがいらなくなってくる。すでにSUICAが普及することで駅の券売機はずいぶん少なくなり券売機のあった場所には売店などができていたりと駅の様子はだいぶ変わった。ここで改札自体がなくなってくるとまた駅は大きく変わるだろう。
(先日出張でドイツのベルリンに行ったのだけど、ベルリンは電車やバスは統一チケットで一度バリデーションすると有効時間内乗り放題というシステムで、駅には改札がない。乗り降りは楽だし駅はすっきりわかりやすい構造でとても快適だった。)

ユーザ視点から目を転じて事業者視点で考えると、MaaS実現の鍵は、実体サービスを持っている企業によるデータ流通とAPI解放なんだと思う。実体サービスとそのデータを持っていることが強いのだ。それがあるから、そのデータ・接続性を提供することで、外から利用者を引き込むことができる。今はまさに、そのことがわかっている企業が雪崩を打って倒れてきている時なんだろうと思う。

翻ってさくらは、インフラサービス提供者としてどんなことができるだろう。MaaS基盤をさくらのインフラの上で動かしてもらえれば万々歳だが、今のところそれはできていない(MaaS Japanのシステムをどこで動かしているか知らないけど)。その他、実体サービスを持っている企業がデータを用意してそれを公開したい(MaaSに参加したい)と思った時に使ってもらえるようなインフラサービスを提供するということができれば良さそうだ。ソフト・ハード両面から攻める必要がある。企業が使いたいと思う信頼に足りる堅牢なインフラ基盤の用意と、MaaSをやるのに親和性の良いシステムやソフトパワーの用意だ。
こうやって調べて知見を貯めていくことも、ソフトパワー構築の一助になっていることを願う。

MaaSについてはこれからも継続的に調査検討を進めていく予定です。

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