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JW17 六つ目と別れの時

【神武東征編】エピソード17 六つ目と別れの時


吉備(きび:今の広島県東部と岡山県)に入った狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行は、高島宮(たかしま・のみや)の八つの候補地について解説をおこなっていた。

前回は五つまで紹介したので、今回は六つ目以降の紹介である。

ここで水先案内人の宇津彦(うつひこ)と目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)、そして前回からゲスト出演をしている小千命(おち・のみこと)(以下、おちやん)が解説の続きを語った。

宇津彦「我々は、ついに岡山県に入りました。」

一同「おかやまけん?」×15

宇津彦「岡山県の笠岡市(かさおかし)です。ここに、高島(たかしま)という島があるんですが、ここも宮の候補地となってます。この地には、高島神社(たかしまじんじゃ)が建立されております。」

高島神社1
高島神社2
高島神社3
高島神社4
高島神社5
高島神社拝殿
高島神社説明版

おちやん「これで、六つ目じゃな。」

宇津彦「宮を建てた地は、王泊(おおどまり)と呼ばれています。」

王泊

おちやん「天津神(あまつかみ)に捧げる水を汲んだ真名井(まない)もあるみたいじゃな。」

大久米(おおくめ)「山頂で吉凶を占った神卜山(かみうらやま)もあるっす。」

神卜山1
神卜山2
神卜山石碑
真名井と神卜山
高島の真名井

ここで、一代目こと椎根津彦(しいねつひこ)(以下、シイネツ)が補足説明を始めた。

シイネツ「高島の近くには、稲積島(いなづみしま)があるっちゃ。この島の名前は、我が君が稲を積んで蓄えていたことから名付けられたそうやに。」

稲積島

おちやん「中(なか)つ国(くに)に向けての準備を進めつつ、吉備(きび)の人々に稲作を伝播しとったんじゃな。」

大久米(おおくめ)「稲を蓄えるとは・・・兵糧のことっすね?」

おちやん「兵糧を蓄えるということは・・・。」

大久米(おおくめ)「戦(いくさ)の気配がしてきたっすね。」

シイネツ「戦ですか?」

この展開に、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)と長兄の彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと)(以下、イツセ)が喰いついた。

タギシ「父上、ついに戦を想定せねばならなくなってきたのですな。」

サノ「じゃが(そうだ)。」

イツセ「タギシよ。よだきい(面倒くさい)などと言ってはおられぬぞ。」

タギシ「イツセの伯父上、わしも子供ではありませぬぞ。それくらい分かっておりまする。」

サノ「されど・・・。もうそんなところまで来たのじゃな・・・。そろそろとは思っていたが・・・。」

イツセ「どうした? サノよ。」

サノ「別れを申さねばなりませぬ。」

おちやん「そうじゃな。わしもそろそろ帰ろうと思っとったんじゃ。岡山まで来てしもたからな。」

サノ「いや、おちやんのことではない。」

おちやん「えっ? ほんじゃけんど、わしもそろそろ・・・。」

サノ「確かに・・・長きの間、『げすと出演』してくれた、おちやんには感謝しておる。されど、我(われ)が言っている『別れ』とは、おちやんのことではないのじゃ。」

おちやん「わし以外に、別れる者がおるということか?」

宇津彦「えっ? 僕ですか? まだ大丈夫ですよ!」

サノ「宇津彦でもない・・・。別れねばならぬのは・・・。」

イツセ「サノ?」

サノ「そ・・・それは、汝(いまし)じゃ。」

サノの視線の先にいる人物は、側室の興世姫(おきよひめ)であった。

興世(おきよ)「えっ? 私ですか?」

サノ「そうじゃ。戦の気配が濃厚となってきた今、汝(いまし)を連れて行くことは難しい。」

興世(おきよ)「確かに、戦の気配が起こるまで同行すると誓いましたが、まだ敵対する勢力は出て来ておりませぬ。もうしばらく、このままで・・・。」

サノ「汝(いまし)の言うことも分かる。じゃっどん、これからは戦を想定し、調練などもおこなうことになる。みな、荒々しくなるであろう。そのようなところに汝(いまし)を置いておくわけにはいかぬ。汝は対岸の地に移れ。」

興世(おきよ)「た・・・対岸の地に・・・。やはり、戦は避けられぬのですか?」

サノ「考えてもみよ。『記紀』には何も書かれてはおらんが、中(なか)つ国(くに)の饒速日(にぎはやひ)殿に、文の一通や二通は送っているはずじゃ。いい返事が貰えていないからこそ、我らは武装して、中つ国に向かうのではないか?」

興世(おきよ)「そうですね。平和の使者が武装して来訪するなど、聞いたことがありませぬ。では、最初から戦をするつもりで向かわれるので?」

サノ「その通りじゃ。だからこそ、汝(いまし)を連れていくことは出来ぬのじゃ。」

興世(おきよ)「分かりました。そういうことならば、私は諦めましょう。足手まといとなり、我が君を苦しめるようなことはしたくありませぬ・・・。」

サノ「分かってくれるか、興世!」

興世(おきよ)「どうして否(いな)と申しましょうや。私の望みは、我が君が大業を成就させることにござりまする。この地にて、武運長久を祈っておりまする。」

サノ「よくぞ申してくれた。これで、胸のつかえが下りたぞ。」

おちやん「夫婦の会話の最中に申し訳ないんじゃけんど・・・。」

サノ「ああ、おちやんも今回限りの出演であったな。」

おちやん「うむ。わしも伊予二名島(いよのふたなしま)にて武運長久を祈っておるぞ。」

サノ「吉報を待っていてくれい。」

おちやん「承知仕った。」

こうして、おちやんは伊予二名島こと四国に帰っていった。

次回は、興世姫の居住した地を含め、高島宮の八つの候補地のうち、残りの二つを紹介できればと思う。

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