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ジャパンウォーズ8 竹島たそがれ

【神武東征編】エピソード8 竹島たそがれ


さて、狭野尊(さの・のみこと) (以下、サノ)たち天孫一行は、竹島(山口県周南市平野)の丘陵に行宮(あんぐう)(仮の御所)を設(もう)けて滞在していた。

竹島への道
平野1
平野と微明
行宮

「記紀(きき)」には書かれていないが、この地に立ち寄った一行は、半年ほど滞在したと伝わっている。

ここで椎根津彦(しいねつひこ) (以下、シイネツ)が解説を始めた。

シイネツ「ここから先は、うちも水先案内ができないんやに。そこで、今後の方針を定めるために、半年ほど滞在したのではないかと・・・。」

サノ「作者の考えか?」

シイネツ「御意! じゃっどん、うちも瀬戸内の海については、隅々(すみずみ)までは分かりもうさぬ。不得手(ふえて)にござりまして・・・。」

サノ「崗(おか)まで案内してくれただけでも助かった。恩に着るぞ。」

シイネツ「かたじけなしっ。」

そこへ、小柄な剣根(つるぎね)と息子の夜麻都俾(やまとべ) (以下、ヤマト)が解説に加わった。

剣根(つるぎね)「なお、行宮についてですが、現在は、神上神社(こうのうえじんじゃ)となっておりますぞ。」

ヤマト「地名は下上見明(しもかみみあけ)といい、境内には御腰掛石(おこしかけいし)なども残っておりまする。かつては、神社の下の里あたりまで海だったみたいですね。」

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神上神社拝殿
神上神社御腰掛石

その後、サノは、今後の進路を決めるため、同神社の近くにある、四方を見渡せる山に登った。

見渡せる山

山頂に辿り着き、遥か彼方を眺めていると、急に四頭の熊が現れた。

サノ「なっ・・・なんじゃ!」

四頭の熊は、サノを見ると地に伏(ふ)し額(ぬか)づいた。

恭順(きょうじゅん)の意を示してきたのである。

この熊は、荒くれ者や未開の地の人間のことではないかという考えもある。

シイネツ「この出来事をもとに、山は『四(よ)ツ熊(くま)の峯(みね)』と名付けられたんやに。現在の四熊ヶ岳(しくまがだけ)のことっちゃ。その後、四熊ヶ岳は神聖な場所とされ、数十年前までは女人禁制だったそうやに。」

四熊ヶ岳

とにもかくにも、山の頂(いただき)から四方を眺めつつ、今後についての事前打ち合わせがおこなわれたのである。

出席者は、下記の通り。

サノ、彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと) (以下、イツセ)、稲飯命(いなひ・のみこと)、三毛入野命(みけいりの・のみこと) (以下、ミケ)、天種子命(あまのたね・のみこと)、五十手美(いそてみ) (以下、イソ)、味日命(うましひ・のみこと)、大久米命(おおくめ・のみこと)、興世姫(おきよひめ)、シイネツ、手研耳命(たぎしみみ・のみこと) (以下、タギシ)、剣根(つるぎね)、日臣命(ひのおみ・のみこと)、ヤマトの十四名である。

サノ「安芸国(あき・のくに)(今の広島県西部)に行くのは当然として、そのあとはどうするべきか・・・。」

興世(おきよ)「安芸の人たちに稲作技術を伝えるのでは?」

サノ「それは既に決まったことじゃ。彼(か)の地は、まだ陸稲(りくとう)らしいからな。」

大久米(おおくめ)「それでは、水稲耕作(すいとうこうさく)にするための灌漑技術(かんがいぎじゅつ)も伝えないとダメってことですね?」

天種子(あまのたね)「せやな。広い土地なら、何年もかかるやろうな。」

イツセ「それと同時に、あの勢力にも接触せねばなるまいな。」

ミケ「あの勢力? どの勢力っちゃ?」

稲飯(いなひ)「あほう! 出雲(いずも)に決まっとろうが!」

イツセ「まあまあ、稲飯。ミケも読者のために、とぼけたんやかい(だから)、許してやれ。」

ミケ「そ・・・そういうことにしておいてくんない(ください)。」

イツセ「出雲を治めておる、伊佐我(いさが)殿に使者を送り、協力を要請するんや。」

サノ「出雲は協力してくれるでしょうか?」

稲飯(いなひ)「我々の動きについて、出雲が、どう受け止めているかにかかっちょるな・・・。」

イツセ「まあ、それは追々、分かることであろう。」

ヤマト「イツセ様・・・。ほかに、何か必要なことは?」

イツセ「船もぎょうさん(たくさん)必要やじ。」

日臣(ひのおみ)「それはどういうことっちゃ? 船を作って何をするんです?」

イツセ「これからは、当然、戦(いくさ)も考えられる。大きい船に“ひとかたまり”やと、すぐに負けてしまうかい(から)、船団を作らにゃならん。」

味日(うましひ)「本当に戦になるんでしょうか?」

イツセ「そうなった時のために、支度(したく)だけはしとかにゃな。」

剣根(つるぎね)「場合によっては、新たに、人を集めねばならぬかもしれませぬな。」

イソ「人はどうとでもなるでしょうが、船は如何(かが)いたしまする? 木材をどこから調達するか・・・。」

イツセ「そこなんやが、伊予二名島(いよのふたなのしま)(今の四国)に駐在しておる、小千命(おち・のみこと)にお願いして、木材を調達してもらうんが、よかち思うんやが、どうやろ?」

サノ「オチかぁ! 久々に会いたいのう!」

イツセ「その、オチに何とか報(しら)せを送り、木材調達を頼みたいんやが・・・。」

シイネツ「す・・・すみません。オチって誰ですか?」

ミケ「わしらの遠い親戚っちゃ。ひいばあちゃんのお父さんの末裔(まつえい)やじ。」

稲飯(いなひ)「大山祇神(おおやまづみのかみ)の末裔っちゅうことや。」

シイネツ「ひいばあちゃんって、木花開耶姫(このはなのさくやひめ)ですよね?」

サノ「じゃが(そうだ)。簡単に言えば、富士山のことじゃ。行ったことはないがな・・・。」

イツセ「まあ、とにかく、シイネツに代わる水先案内人を見つけ出し、小千(おち)のもとに使者を送らねばな・・・。」

シイネツ「水先案内人に関しては、うちにお任せくだされ。海の民の一族衆に、手配をしておりまする。」

サノ「仕事が早いな。」

タギシ「父上・・・。新たな水先案内人が見つかるまで、しばらく時がかかりましょう。とりあえず、我々は安芸の地に向かっては?」

サノ「うむ。そうしよう。では、出航の準備にとりかかれっ。」

こうして、竹島の「たいらの里」を去り、一行は安芸国(あき・のくに)に向かったのであった。

この地を去る時、サノはこう言ったという。

サノ「どこに行こうと、我(われ)の心はここにある。我を祀(まつ)れば、この地の守り神になろうぞ。」

村人「そこで創建(そうけん)した神社が、冒頭に紹介した神上神社(こうのうえじんじゃ)じゃ。二千年後も、ちゃんと祀っておりますから、御安心くだされ。」

サノ「解説かたじけなしっ。皆(みな)も達者(たっしゃ)でな・・・。」

村人たち「サノ様も、皆さまも、お達者でっ!」×多数

サノ「では・・・船は海を行け。わしは陸を行く。」

イソ「我が君だけ、陸を行かれるんですか?」

サノ「竹島の伝承では、そう語り継がれておるのじゃ。海の難所である周防灘(すおうなだ)を避(さ)けたとも考えられるな。」

ミケ「しかし、この物語では、船で赴いたことにさせてもらうじ。というのも、このあとで烽火伝説(のろしでんせつ)という伝承があるんや。」

サノ「烽火? それはどういうことです?」

それは一行が広島湾(ひろしまわん)に入った時に起こった。

安芸へ

タギシ「もう少しで安芸の地ですぞ、父上。湾から岬のように突き出した森が見えまする。あそこに上陸いたしまするか?」

サノ「そうしようぞ。」

興世(おきよ)「あれは・・・あれは何でしょうか?」

イツセ「なんや?」

興世(おきよ)「あすこから・・・向こうから怪しげな煙が・・・。」

サノ「なんじゃ? すごい量の煙ではないかっ。」

怪しい煙

空高く昇る煙を見据えながら、一行は安芸の地に辿り着いたのであった。


つづく

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