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きくよし病床短歌

令和三年十月二十六日から一ヶ月ぐらいずつ仙台市内の若林病院内科に四回も入院した。

菊池嘉雄87歳から


① 高齢の希望の星になるつもり つもり砕けて病床に伏
故、日野原重明医師は104歳まで活動し高齢者の希望の星だった。私もその星になるつもりだったが、病に冒され、つもりが砕け散ってしまった。

② 点滴の落ちるしずくを見つめつつ 過ぎ来し方とこの先思う
「点滴の落ちるしずくを見てるだけ何も出来ないつらい毎日」。少年時代から現在までの人生を振り返り、これから先どうなるのだろうとあれこれ思い煩う。

③ 栄養素すべて含んだ液あれど 食はやっぱり噛み噛みゴックン
点滴の栄養液もメイバランスという飲み物も全ての栄養素が含まれている。が、それだけでは胃腸の機能が回復しないし、食った気がしない。

④ おにぎりをおいしく食べる夢を見た  食い気あるならまだ生きるかも
病院の給食は柔らかく調理した流動性の特別食で、それを毎日食べているからこんな夢を見たのかもしれない。

⑤ お向かいさん飲まず食わずの約十日 意識もうろう転室転床
どこへ行ったのか。集中治療室か看取り室か。

⑥ 太一君パーキンソンに罹患した  ガンバレ太一 ガンバレ嘉雄
太一君は元教師仲間。パーキンソン病は難病。私のリューマチ性多発筋痛症も難病。太一君はかって拙作曲「ガンバレ次郎」を評価し使ってくれた。だからガンバレ太一。共に耐えよう。

⑦ 冬の夜や隣のベッドも腰痛老人 話たいけど夜がさえぎる
四人部屋で他に二人もいるし、夜のことだし、やめておこう。

⑧ 絶望と希望が交互に沸き起こる  痛みと快が交互に来るたび 
痛いときは俺の人生終わりだなと思う。痛みが消えた時はいろんな希望や欲が出てくる。

⑨ 医師白衣 前ボタン外してる  みんがみんな なぜなんだろう
医師、看護師、看護補助員、検査技師、リハビリ指導員、清掃作業員、等々いるが、それぞれの色のユニホームを来ている。医師は白衣だが前ボタンを外している。四つの病院みんなだ。

⑩ 朝が来て長い一日思うとき 気持ちが沈む病床の夜明け
夜明けなのに、一日のスタートなのに、ベットの上の一日を思うと憂鬱になる。

⑪ 「偉いね」と孫みたいな看護師に ほめられ喜ぶ我は老人 
私の孫娘も看護師。病院の若い看護師に「お通じありました?」ときかれた時答えられるようにカレンダーに毎日ウンチの有る無しを書いておいたのがほめられた。

⑫ 髭がのび鼻毛ものびて爪ものび あ々生きているなと思う病床
頬をなでると髭がざらついている。鼻毛も鼻腔から出ている。手指を見ると爪ものびている。それを見て「生きているからのびるんだ」と生きていることを実感する。

⑬ 点滴の針の刺しかえ幾たびも 痩せ衰えた血管探して
若い頃は浮き出ていた血管が見えなくなった。それで思う。ふくよかな女性やお相撲さんも血管が見えない。点滴や静脈注射はやはり難しいのではないかと。

⑭ 四人部屋 次々患者が入れ代わる 我変わらずにひと月あまり
四日で退院した人もいる。およそ十人ぐらいが入っては出ていった。私はいつなのかなー。

⑮ 針さして生き血吸い取る吸血鬼 いやいや優しき乙女看護師
人の中指ほどの細長い管に四本、血液をとる。寝ている私に看護師が前かがみに寄って来ると、吸血鬼が血を吸いにかぶさって来たかのような連想が一瞬脳裏をよぎる。

おもりつけ足の上げ下げ40回 私の苦手なリハビリ励む
私は体育系ではなく文化系で運動とか筋肉トレーニングは苦手だったが、やるしかないので午前に30分、午後に30分、指導員の指示のもと毎日やる。結構しんどい。

⑰ 目覚めれば何やら心身爽快で 病気平癒の希望の夜明け
病気というより廃用症候群という使わないことによる筋肉萎縮のための身体不調だった。薬も使わず、栄養を摂り、筋トレを繰り返してほぼ元に戻った。

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