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老人ホームの実況短歌集~入居者の生活の様子を短歌で伝える~


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はじめに

 私は昭和九年(1934年)生まれの90歳になる老人で、老人ホームで暮らしています。ホームの公式分類名は「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住と略称)」といい、ここは2カ所目です。
 実際に2カ所の老人ホームで暮らした経験者として、分かったことや感じたことを、文字化して記録し、後続の人たちに伝えたいのです。後続の人たちとは子や孫たちだけでなく、誰でも必ず老いるのだから、誰でも後続の人となります。今の少人数家族や社会構造の中で、自宅介護に固執するなら、家族は失職や過労などの苦境に立つし、家族がいなければ孤独死となるでしょう。
 文字化は説明文ではなく短歌にし、文芸的な響きを持たせることにしました。
 建前としてはこうだけど実際はこうだという実際の状況を伝えたいのです。例えば老人ホームは「豊かな語らいを楽しめる所」「穏やかで静かに暮らせる所」「自分らしく自由に暮らせる所」として表明され、一般の人もそう思っていますが、そうはなりません。また施設側は「高齢者の方々の自立支援やご家庭への復帰も、ご家族の皆様のご協力のもと支援させていただきます」などと表明していますが実際は家庭復帰などまれなことです。
 老人ホームにいれば安心安全だし、心穏やかに暮らしているだろうと家族や周りの人は思うでしょう。だが安心安全ではあっても、心穏やかではなく、不満や不愉快な思いは結構あるのです。その辺のところを伝えたいのです。
 昭和の頃、農繁期の託児所が出来ました。やがて会社や事業所で働く人が主流の時代になると全国に保育所 (託児所) が出来ました。高齢者増加の時代が来ると託老所が必要となり、老人福祉法や介護保険制度が整備され、老人ホームなどの老人施設が建設され、運営する事業所が全国に出来ました。それまでは、親の老後は子や孫など家族が見るものでしたが、社会全体でみる方向に変わったのです。これは家族や老人が救われる素晴らしいあり方で、まさに文明社会のあり方であり、老人を大事にし敬う敬老社会の姿だと思います。
 最近は「家族代行サービス業」という企業もうまれました。また、家族がいない独り身の老人も増えつつあります。それを支える企業でもあります。

短歌集

老いたりと云えども飾る身繕い フロアに集う女性入居者 2023/9/2/土
 褐色や黒色系の洒落た服を着て、首輪や指輪や耳輪や腕輪などつけてフロアに集まる。

サ高住 当初のもくろみ外れたか グランドピアノは物置台  2023/9/15/金
 音楽による憩いの場にするつもりだったのだろう。エレクトーンもあったが撤去された。 

口だけはまだ達者な老女たち 食事の時のさえずり聞こえ 2023/9/17/日
 老化した耳には何を言っているのか聞き取れず鳥たちのさえずりのよう。甲高くはないが。

死ぬまでの短い間の預かり所 老人ホームはそういう所 2023/9/18/月
 託児所とか保育所が先に社会に出来たが今は託老所が必要となった。国も支援している。

人の死は家庭にあっては一、二度で ホームにあっては幾度も見る 2023/9/19/火
 老いて病んで死にゆく様子を家庭で見るのは祖父母ぐらいだが老人ホームでは幾度も見る。

秋彼岸おはぎを食べて手を合わす 老人ホームの窓の夕日に 2023/9/20/水
 秋彼岸はおはぎを持って墓参だが行けない。ホーム長がおはぎを作り部屋にとどけてくれた。

いそいそと老醜たちの世話をする 明るい笑顔なんと高貴な 2023/09/21/木
 皺だらけ、シミだらけ、皮膚たるみ、腰曲がり、汚く醜い老体を嫌がりもせず介護に介助。

マイペース院内館内増殖中 挨拶もせず視線も交わさず 2023/09/21/木
 病室内でもホーム内でも殆どの人が挨拶もせず顔も向けなくなった。近頃の風潮だ。

談笑の場となる筈の集いの場 会話が出来る人は少なし 2023/09/22/金
 耳が衰え口が衰えているので談笑の場とならずテレビ視聴や手芸や塗り絵の時間となる。

浴室は女性職員に手を引かれ 幼児気分でそろりそろりと 2023/09/24/日
 浴室の床は滑りやすいから怖い。頭も体も洗ってもらう。幼児に戻った気分だ。

着る脱ぐも髪をとかすも爪切るも 三人がかりでまるで殿様 2023/09/24/日
 これはデイサービスでのこと。費用は介護保険から八割。国の制度は私を殿様にしてくれた。

それぞれの事情を抱えた人たちが いのち愛しむ老人ホーム  2023/09/24/日
 皆、身体的事情、家庭的事情を抱えて、お迎えが来るまで、残された命を生きている。

サ高住  施設の名称同じでも やってることは大いに違う 2023/09/24/日
 今いる所は酸素と尿の管を着けたままの人も受け入れるが前の所は入れなかった。また、介護型のサ高住か、住宅型のサ高住かの違いもある。

人々の会話雑談聞き取れず 空気が読めず早々に去る 2023/09/25/月
 聞きとれないと人柄も読めない。読めないままの交流は危険なのでさっさと退散。

歩行時はいつも付き添う人がいて殿様みたい けど やや鬱陶し 2023/10/02/月
  老人だからと思わず殿様だと思えばいい。だが元気だからだ。やがて有難いと思うだろう。

難聴でボケてないのにボケとなる「難聴ボケ」と私は名付ける  2023/10/03/火
 頭はボケてないのに聞こえないからボケのようになる。私がそうだ。疑似認知症だ。

ガリガリもボッチヤリもいてそれぞれに 不調抱える高齢者たち 2023/10/05/木
 肥満は良くないと言われているが、高齢になればどちらでも不調が来るようだ。

寝たきりで物も食わずに長らえる それはだいたい女性入居者 2023/10/06/金
 女性は脂肪あるから食わなくとも持つし、筋肉質でない分エルギー消費が少ないから持つ。

料理の日 調理をするのは女性群 あら懐かしや昭和の風景 2023/10/07/土
 昭和の頃の人寄りは、女は調理、男は薪割りや酒飲み。料理の日とは館内行事のこと。

男より女が多い老人ホーム 夫先立ち妻生き残るから 2023/10/12/木
 厚労省の統計では2022(令和4)年の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳。

終末は楽に終えると思ったら やっぱり我慢の老人ホーム 2023/10/14/土
 ホーム暮らしは一人暮らしより楽だが我慢が多い。人生に楽園はないと改めて思う。

学校っぽいディサービスのプログラム 元教員の我はなじめず 2023/10/15/日
 一斉体操、食前の「頂きます」、倫理読本輪読会、なんか嫌なんだけど、ま、やるか。

日本は老人の数、世界一 満足度は低いほうとか 2023/10/16/月
 国が調査した統計では老人の数は世界一で満足度は低いと出ている。

ホームでは子ども返りの入居者の 集団接種を上手にさばく 2023/10/17/火
 加齢による難聴、弱視、ボケ、車いす、よた歩きなどを職員総動員でサポートしコロナ感染予防接種を無事完了。

目を閉じてじっと動かずそのままで瞑想居士の老人ホーム 2023/10/18/水
 瞑想居士とは座禅を組むような人のことだが、そう見えるだけで、気力低下の姿かも。

職員の正規臨時の違いなく 同質目指す介護の現場 2023/10/21/土
 学校もそうだ。臨時教員も正規教員もやることは同じだ。病院も、いや、どこもだ。

マイペース人様のことそしれない 耳目衰え我もなりゆく 2023/10/25/水
 聞こえないから会話が出来ない。自分のペースでやるしかない。ごめんね。

おやつ出るホーム暮らしのお楽しみ 午後の三時はお菓子がひとつ 2023/10/26/木
 おやつはお楽しみのひとつ。ただし饅頭などが一個だけ。お茶もつく。

やっしゃねえ顔をしている入居者が 混じる集いの老人ホーム  2023/11/08/水
 やっしゃねえとはつらいという方言。五体不満足、体調不良の人が何人もいる。  

収入がなければ施設に入れない 自宅で朽ちるを救う道あり 2023/11/12/日
 地域包括支援センターや生活保護課の窓口に相談すると救済の道はあるそうだ。

幼児並み言うこときかず判断できず 支援に困るホームの職員 2023/11/13/月
 高齢になっても幼児並みの振る舞いしかできない人もいる。一見は普通なのに。

ボケがきて館内徘徊よたよたと 職員あわてて 駆け寄り誘導 2023/11/15/水
 元大学教授が自室に戻れない。視覚的にも知的判断力も五歳児レベルに戻ったみたいだ。頭がいい人もボケるのだなー。

九十年生きた人生その中で ホームの暮らしが一番豪華  2024/6/18/火
○週三回も介助付き入浴。
○週三回もマッサージ師による全身マッサージ。
○週三回も身体機能訓練師による筋肉トレーニング。
○栄養士献立によるバランス食の上げ膳据え膳。四季折々の行事食。
○職員による部屋の掃除と片付けと衣類の洗濯。
○空調の効いた室内環境と館内環境。
○病院、商店等への送迎や付き添い。
○医師や看護師の訪問診療。
○職員による体温、血圧、血中酸素の毎日測定と室温確認兼安否確認。
○職員やスタッフの細やかな気配りと対応。
 こんな暮らしは今まで無かった。経費は安いが一番豪華な暮らしぶりだ。でも、さびしいけどな。 

高齢者問題に関する豆知識

○ ボケと認知症の違い
 ボケは加齢に伴う精神変化の通俗的な表現として、認知症は医学的な言葉として使われる。ボケる(惚ける)はもうろくする(耄碌する)とも言われる。
○ 聴覚情報処理障害(Auditory Processing disorder, APD)
 人の声やテレビの音や周囲の音はほぼ普通に聞こえるのだが、何を言っているのか言葉として聞き取れない。知らない外国語を聞くような感じ。その程度は音源と耳との距離が関係しており、耳元で話せばよく分かる。だから電話の話はよく聞き取れる。
○ つんぼ
 子どもの頃の昭和初期、耳の遠くなった爺さんをつんぼと言ってバカにした。ボケているように見えたからだ。だが、よく聞こえなければトンチンカンな受け答えになるので、結果としてボケた状態となる。医学的に言えば認知力はあるのだが、聴力劣化による認知の低下で、疑似認知症または認知症もどきとなる。疑似認知症も認知症もどきも医学用語ではなく菊池嘉雄の造語である。
○ 寡婦と寡夫 (かふとかふ)
  寡婦とは夫と死別し再婚していない女性のことで未亡人と同義語。寡夫は妻に死に別れて再婚しないでいる男性。「男やもめ」などともいう。老人ホームは寡婦が多く寡夫が少ない。寡夫 < 寡婦。
○ 親を捨てるのが罪でないなら
自宅で親の介護をし、疲れ果て、自分も生きる元気をなくし、「もし、親を捨てるのが罪にならないのなら捨てたい」という書き込みをネットで見かけるようになった。この人たちは親の介護で離職したり転職したりし、結婚もあきらめて自分の人生にも希望を失っている。主に息子より娘が多いようだ。

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