見出し画像

史緒ちゃん 03

長い長い、お気持ちツイートだった。
サトウちゃんがようやくウイハについて反応したかと思ったら、長文のツイートが流れてきた。
わざわざ、一番最初のツイートに「これはただの自分のお気持ちだから、うざいと思ったら無視してください」と書いてあった。それがまるで、自分に向けられて言われているような気がした。

ウイハの行為を今まで知らなかったこと。
今回とても驚いたこと。
正直、ウイハの行動はお金をもらって活動している人間としては未熟だと思う事。
その理由。

大人っぽい、正論が並べられていく。
「そんな風に割り切れてりゃ、こんなに荒れてないっつーの」

自分を含めて何人の【リル】のファンが、不安な気持ちでパブサしていると思っているんだ。やっぱり彼女は、何も分かってない。
真っ暗にした部屋の中は、静かすぎる。ベッドに横たわり、スマホでツイッターを見ることがやめられない。画面から放たれる光が、目に突き刺さる。
心臓だけがバクバクと音を立てていて、自分の身体が生きていることだけを、強く感じる。
あぁ今日は眠れそうにない。
ついさっき飲んだばかりの眠剤の効き目を遠ざけているのは、自分自身だと分かっていても辛い。暴れまわりたい衝動を誤魔化すように、ベッドに拳を叩きつけた。
スマホが勝手に明るくなる。ツイートが更新されたようたらしい。

  最後に。私は【リル】のことを、何も分かっていないのかもしれない。
  なんとなく今は【リル】の曲も聞けない。話題も避けたい。
  【リル】だって普通の女の子だけど、アイドルだし。
  上手にファンに夢を見せて欲しい。
  そう思う人が【リル】にとっていらないなら、私はさよならする。
  
さよならする、の文字だけが浮かんで見えた。
彼女はきっと、ファンを辞めると決めたらさっぱりと辞めるだろう。
サトウちゃんは眠剤に頼らなくても眠れるタイプの人だろうし、【リル】がなくても生きていける。
あたしと、違って。

枕に顔をうずめた。なんとなく湿っぽい匂いがする。喉の奥が少し痛い。誤魔化すように、唾を飲んだ。


いつの間にか眠っていた。14時。いつもの時間。
昨日のサトウちゃんの呟きに、いくつかハートマークがついていた。
あたしは、反応していない。

コンカフェの仕事は今日は休み。【リル】のことを忘れる時間が少しでも欲しい。
思いつくことは、【Uあい】用の配信をすることだけだった。
配信のためにおしゃれをする。かわいい恰好はそれだけで強い。

「かわいいワンピース、赤いリップ、それだけで最強の主人公」

無意識で呟いたワンフレーズは、【リル】の歌詞だった。
その前にとりあえず、ウーバーイーツでご飯を食べよう。

配信はいつも通りだった。
独り言おじさんが来て、少ないヲタクが来て、盛り上がるでもなく盛り下がるでもなく。
1時間はあっという間にすぎて、延長はしなかった。

また、ツイッターを開こうとする指先に、DMが届く。
【しゅがーちゃん】からだった。

お前はもっとできると、教えてください。