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めんどくさい大人が宇宙小戦争を観た感想

こどもたちが観たいと言うので観に行った「ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」。劇場版に相応しい、クオリティの高いアニメ映画でした。が、どうにも引っかかってしまって苦しかったのでここで吐き出させて下さい。映画をこきおろす目的ではないです。アニメーションも音楽も声優さんたちも素晴らしかった。ただ、私がめんどくさい大人だっただけだと思います。


宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)あらすじ

実は未見&未読でした。公開当時挿入歌だった武田鉄矢氏の「少年期」は記憶に残っているのですが。

知らない人のために一応あらすじを。

のび太たちの所へ小さい宇宙人・パピが故郷ピリカ星で起こったクーデターから逃れてやってきます。(パピたちピリカ星人はシルバニアぐらいの大きさ)のび太たちは折しもミニチュアジオラマを作って映画製作(スネ夫の指揮)をしていた所。スモールライトで自分たちも小さくなり、ミニサイズの宇宙人パピとジオラマやしずかちゃんのドールハウスで遊んで交流を深めます。が、独裁政権側はパピを追って地球までやってきます。捕まえられたしずかちゃんを救出してうまくまいたものの、パピのお姉さんが人質になっていることが発覚。ドラえもん達はパピたちを救うためピリカ星へ行き、改造したラジコンの戦車で戦い、独裁政権を倒しましたとさ、めでたしめでたし。

なのですが!!

本当に戦争が起きている今観るととても絵空事とは思えず、フィクションなんだから目をつむったらええやんという部分に目をつむることが出来ませんでした。

①暴力…暴力は全てを解決する!

ドラえもんの面白さって、タイムマシンで過去に戻って歴史を改変したり勇気と知恵で大人の醜い部分を打ち負かしたり、力じゃなくて知恵やヒラメキで解決するところかなあと思っていたのですが、なんかどうも今作は暴力…暴力は全てを解決する!な結末だった気がして。ドラえもんの道具には人を傷つけるものはないのですが、結局今回はドラえもんの道具を利用して武器(ラジコンの戦車を魔改造した)を開発してるんですよね。そしてこちらには巨人というアドバンテージがあるので巨大化すれば無敵なのです。最後の戦闘シーンでは敵側が無人戦闘機&無人戦車であることを確認してからぶっ壊してましたが(原作では確認してなかった)人殺しじゃなきゃいいって問題でもない気が。

②逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ

パピを助けに行こうぜ!って熱くなるジャイアン、のび太、しずかちゃんに対して、なんで僕らがそんな恐ろしいことに加わらなきゃいけないんだ…ってしり込みするスネ夫。そりゃそうだ、知らない星の戦争に加わるのに「パピを助けたいから!」ってだけじゃ、ねぇ。事の重大さがよくわかっているのはスネ夫だけなのでは。それに対してジャイアンが「のび太でさえ行くって言ったのにお前は何をビビってんだ!」的に圧力をかけ「わかったよ、行けばいいんでしょ!」としぶしぶ参加するスネ夫。ダメでしょうこの構図は。このシーンは原作にはないシーンでした。スネ夫の心情をわかりやすくするための改編なのでしょうが、同調圧力、絶対ダメ。パピが最後に「地球の友から学んだこと」として「自分に嘘をつかないこと」って言うのですが、これに矛盾が生じてしまうし。スネ夫は行くべきでは無いと思っているし、のび太は恐ろしさで足が震えている。素直になろうよみんな。嫌なことからは逃げていいんだよ。

③何もしないで死ぬぐらいなら戦って死ぬ

「自分にしか出来ないことがある」ということを支えに己を鼓舞して頑張るドラえもん一行。スネ夫はラジコンの改造が得意なので、改造&メンテで力を奮うのですが敵機襲来に怯んで隠れてしまう。そんなスネ夫を見てしずかちゃんは説得するでもなく、無言で立ち去り自分は戦車に乗り込んで出陣して行きます。スネ夫はその姿を見てしずかちゃんだけ行かせるわけに行かない!と自分も出陣するのですが…

ここで見損なったわ!とも言わず、自分だけ行くしずかちゃんはとてもできた人だと思うのですが、今読んでいる「戦争は女の顔をしていない」に出てくる女の子たちの姿と重なってしまってダメでした。

しずかちゃんは「私だってこわいわよ、だけどやれるだけのことをやるしかないじゃない」と言います。

「戦争は女の顔をしていない」の中で戦争体験を語ってくれた彼女たちは無理矢理戦場に駆り出されたのではなくて、みんな私も前線で戦いたい!!と熱望して、断られても何度も訴えて前線に行ってるんです。何故そんなに前線に行きたいのか。「大切な人を守りたい」「このまま何もしないで待っているなら戦いに行きたい」「どうせ死ぬなら戦って死にたい」なんですよね。ドイツが憎いとか思想がどうとかじゃなくて、愛情とか友情とか優しさがトリガーになって戦場に向かう。炭治郎が「優しすぎる人は時に自分の命を顧みないから心配だ」と弟に言われたのと重なります。大切な人のためなら人は自分の命を捨ててしまうのかもしれない。でも、私も私もでみんながそうなってしまったら泥沼化は避けられないのでは。怖いよってみんな逃げていいんだよ。みんな怖気付いて、逃げようよ。

④政治は難しい

独裁政権=悪、パピたち=正義というのが大前提でのび太たちは行動していますが、めんどくさい大人なので、いや待って!と思ってしまいました。もちろんヒトラーやプーチンは悪いことしてます。もちろん悪いのですが、完全な悪ってある?見方を変えてみたらどう?何故そうなったの?そいつを倒せば万々歳なの?

原作を読むとパピたち宇宙人は映画より異質な存在(小さいしなんか人形っぽい)として描かれている気がするし、ノリもジオラマSF映画の延長で星を救おうぜ!ぐらいな感じがするのでそこまでウエッとならない。更に原作ではパピと行動する時間が短いしほとんど語らないので結局何を考えているのか分からないままでしたが、映画では共に行動し、話をして、そして最後にパピが国民に向かって語るシーンが作られています。パピ達の造形は原作を活かしつつ、手や顔が少し人間に近くなっています。より感情があり、人間的(人間じゃないけど)に描かれている。

という色々な改変もあり、今この政情というタイミングなのでやれー悪を倒せ!って気持ちになれませんでした。異質なミニチュア宇宙人の戦争ごっことは思えず…いやほんとにめんどくさい大人の意見なんです。

救いは、人民が独裁者を追い詰めるシーンの改変でしょうか。原作では独裁者に石やレンガを投げて棒を手にして追いかけているのに対し、映画では武器を持たない人たちが迫った結果独裁者は観念してこれまでか、とうなだれるシーンになっていました。現実だと独裁者なんか捕まえられたら血祭りだろうし、残党狩りなんかが始まったりするのだろうと思うと素直に喜べませんが、きっとその辺を考えて変えてくれたんだろうと思います。ありがとう。

⑤2021の感覚に改変

「2021」と題しているだけあってちゃんと現代的感覚に改変されているところは流石だなと思いました。しずかちゃんにやたらと女の子の役割を押し付けたりしなかったり(原作ではお人形で遊びたがるしずかちゃんに対してSFの戦闘シーンをやりたいのび太という構図があった)しずかちゃんのお風呂シーンも、小さくなったら牛乳風呂に入れる!っていうお風呂好きの願望が叶ってよかったと思いました。かわいいねしずかちゃん。

冒頭でもいいましたがほんとにアニメはクオリティが高くて最高でした。パピの新しい造形も現代的でかわいくて良かった。藤子・F・不二雄先生的な宇宙人・宇宙船なんかのデザインをちゃんと活かしつつ今風にしていてかっこよかった。ギャグとシリアスのテンポもよかった。処刑シーンでパピが落ちる所のカメラワークにしびれたし、戦闘シーンの板野サーカス的な演出もかっこよかった!最後に流れる髭男もピッタリ合っててよかった!

嬉しい悲しいどっち

正しい間違いどっち

って分かってるわね髭男…その通りよ…。

こども達は「誰も死ななかった」「悲しい別れがなかった」と笑顔でした。なるほどそういう見方もあるね。リルル…大丈夫だよリルルは天使のようなロボットに生まれ変わって地球にきっと来…

おっと話が脱線してしまった。

長々と失礼しました。めんどくさい大人の宇宙小戦争の感想でした。

藤子・F・不二雄先生の、戦争も暴力も反対という思いを元こどもも今のこどもたちもちゃんと受け取って、つないで行けたらステキですね。誰も傷つけ合わず、自分や人の命を大切にできる、逃げてもいい世界になりますように。

3/28追記:

ママたちが知らないところで世界を救うような大冒険をしちゃう、そして弱くてちっぽけな僕たちも仲間のために強くなれる。ドラえもん映画ってそういうものじゃないですか。映画のクオリティは上がってるし、何がいけなかったんだろうと考えてみて、恐らく違和感の一番の原因は私が子供じゃなくなってしまったことなんじゃないかと思いました。親の視点で、子供たちが危ないことをしないように、危険にさらされないようにって思ってしまった。開戦後だったので観たタイミングも悪かったし読んでいた本の影響も大きかったんだろうと思います。

パピ


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