人間失格ー太宰治と3人の女たち

http://ningenshikkaku-movie.com

そうなんですよ、映画を見てきたんです。太宰治の『人間失格』は人生の中で4,5回は読んでいるかなあ。細かい内容も含めてだいたい言えると思います。一時期太宰にハマっていたことがありまして、そのときもいろんな作品を読みました。今回の映画は、太宰治の生涯というかスター作家になった時期から自殺するまでの一瞬を描いたものです。

さて、太宰治を人気作家に押し上げた作品とくれば、やはり「斜陽」ですよ。身分というものが無くなりながら、高貴と下卑の間で悩み、「姉さん。僕は貴族です。」の一言で終わる。そして姉は新しい女性として生きていく。

朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ」
と幽かすかな叫び声をお挙げになった。

この冒頭の一文も含めて大好きな作品です。ぼくも当時に生きていたら斜陽族と呼ばれていたかもしれません。

そんな太宰は人間失格の中でも描かれるように酒まみれ。酔ってどんちゃん騒ぎを繰り返す日々。女癖は悪く愛人はたくさん。すっと人の心の中に入る口説き文句が得意な色男。

ただ、これは太宰の表層でしかないんです。小説の人間失格を読めばわかりますように、彼はお道化を演じているだけなんです。人の心がわからない。わかりすぎるくらいよくわかるから怖くて踏み込めない。わからないように振る舞い、他人から良く見られようとしているだけ。この本質は何も代わっていない。小説の人間失格を読むとこういう太宰の姿が描かれているんですが、映画版ではこれがあんまり描かれていなかったかなあ。「ワザワザ」という人もいない。そう言われて自分の本質を見抜かれたと悩むこともないから、ただの駄目男になってるなあ。蜷川実花の花っぽい演出は良かったけど。

ただのダメ男として描かれてしまった太宰治の代わりに格を上げたのが沢尻エリカ演じる太田静子でしょう。斜陽のモデルとなった人です。戦後の新しい女性として前向きに生きていく姿が似合うなあ。なんだか菊池寛「真珠夫人」に出てくる瑠璃子さんのようなんだけど、当時の女性の目標みたいな感じだったんだろうか。学問に励み、綺麗に着飾って旧習を打ち破って生きていく姿を沢尻エリカが活き活きと演じています。

二階堂ふみちゃんはけっこう好きな女優さんでして、今回も体当たり演技ですね。ポジション的には何も残せない愛人役かあ。快楽の相手だけど帰る家でもないし、静子さんみたいに何も残せない。

総評としては、俳優は良かったけど、太宰のお道化を十分に描いていなかったから星2つか3つくらいかなあ・・・俳優は良い。小栗旬はいい。三島や安吾も出てくるしちょっと戦後文壇オールスターズ的なところもある。だけど、人間失格というなら「恥の多い生涯を送ってきました」という一文に踏み込んでほしかったな。色々感想見てると蜷川実花の演出も含めて大絶賛だけど、大絶賛というほどか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?