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深夜の訪問者

 夏の夜の話。

 その日は遅番だった。
 ひと気の無い深夜。埼玉の外れにあるだだっ広いコンビニの駐車場。
 0:00を回る頃だったかと思う。私は軽バンの中で待機をしていた。

 夏のじめじめした空気がウザったい。
 それでも節約の為エンジンはかけずに窓を半分開けてアニメ「どろろ」をスマホで楽しんでいた。

 街灯の少ない駐車場は真っ暗だ。
 たまに山の方から「ぴいぃーーー!!!!!」と鳥が何かの鳴き声が響く。
 その度に "びくっー!?!?"と反応する。

 「あぁ。いやだなぁ…。怖いなぁ…。」

 次第に増殖する恐怖心を振り払おうと食い入るように「どろろ」の世界に入り込もうとするがタイミング悪く「どろろ」もシリアスなシーンに突入する。
 丁度そんな時だった…。


  "ゴンッゴンッ!!"

 「ゔあぁーーーーーーーーー!!!!!!」

 何かが私の軽バンをぶつ音がして咄嗟に大声を上げてしまった。

 運転席窓側にいる…。
 恐る恐るそれの方向に顔を向けた…。

 知らないおっちゃんがニヤニヤ笑って立ってた。

 「あ"ぁーーーーー!!!!!」

 またもや驚いて発狂した。
 その声量におっちゃんも驚いて
     "びくぅーっ!!!" とする。

 じわじわと怒りが込み上げて来た。
 「何してくれてんだこのおっちゃんは…。」という表情を剥き出してキレ気味に
 「なんすか?」と問う。


おっちゃん「兄ちゃん悪ぃ!300円恵んでくんねぇか?」

 !?!?!?

 何故私がこの見ず知らずのこのおっちゃんに300円を差し出さなければならないのだろう…。
 とんでもねぇのに遭遇しちゃったな…。

 正直そう思った。
 でも理由ぐらいは聞いてみたくなり、おっちゃんの話に耳を向ける。

 話によるとおっちゃんはこのコンビニから3キロ程離れた場所に住んでいるそうだ。
 長年使ってる車が今故障中で歩いて来たとのこと。
 家で待つ母ちゃんに頼まれた物を買いに来たのは良いが丁度¥300円足りなかったらしい。
 そこで止まってある車で寛いでる私に声をかけたのだと。

 おっちゃんが不審者じゃないのは理解した。
 困ってるのも事実だ。仕方なく私は自分の財布を開いた。¥300円どころか細かいのが殆ど無かった。

菊池「おいちゃん。細かいの無いです。¥1,000お渡しするんでコレおつかいの足しにして下さい。」

 おっちゃんは何度もお礼を言ってコンビニに向かって行った。

 私は再び「どろろ」に目を向ける。
 突然のおっちゃんの訪問に心臓はまだバクバクしていた。
 
 数分後。「どろろ」の泣けるシーンに突入し、目頭を熱くしているその時だった。

 "ゴンッゴンッ!!!!"

菊池 「ぎゃー!!!!!!!」

おっちゃん「ガハハ!!悪ぃ悪ぃ!!兄ちゃんオツリだ!!あとくじ引きでコーヒー当たったから貰ってくれよ!助かった!ありがとな!!」

 おっちゃんは窓越しにお釣りとコーヒーを渡し、暗闇の方へ歩いていった。

菊池「あ。ありがとうございます。頂きます。」


 真夏の夜中…。突然の来訪者。皆さんもお気を付け下さい。


 コーヒーが疲れた身体に染み渡った。


菊池真琴​

  

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