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新国立劇場 フィデリオ

2018/6/2土 14:00- 新国立劇場

指 揮:飯守泰次郎
演 出:カタリーナ・ワーグナー

ドラマツルグ:ダニエル・ウェーバー
美 術:マルク・レーラー
衣 裳:トーマス・カイザー
照 明:クリスティアン・ケメトミュラー
舞台監督:村田健輔

ドン・フェルナンド :黒田 博
ドン・ピツァロ :ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
フロレスタン :ステファン・グールド
レオノーレ :リカルダ・メルベート
ロッコ :妻屋秀和
マルツェリーネ :石橋栄実
ジャキーノ :鈴木 准

合唱指揮 :三澤洋史
合 唱 :新国立劇場合唱団
管弦楽 :東京交響楽団

新国立劇場 単独新制作(えらい久しぶりのはず)のフィデリオ、最終日に行って参りました。

ネタバレ踏まないように、日本では珍しいタイプの演出だってことだけ頭に入れて行きましたが、なかなか面白いじゃーないですか!というのが第一印象でした。

公演終わっててネタバレOKなタイミングなので結末書いちゃうけど、フロレスタンとレオノーレがピツァロに刺されて地下牢に閉じ込められ、解放されるはずの囚人達もピツァロの計略で再度牢に入れられるという、悪が勝つ幕切れ。フェルナンドとピツァロの関係がちょっと謎なんだけど、フェルナンドもピツァロに負けたっていうことなのかな。

舞台装置は、3階建て。一番下層は多数の囚人がいる牢、真ん中の層はフロレスタンの地下牢、一番上は真ん中にメインの部屋があり、左はレオノーレの更衣室(役割として)、右はロッコの仕事部屋とその上にピツァロの部屋。これが上下に動きながら話が進んでいきます。

1幕は、基本はオリジナル通りのストーリー。ただし、ピツァロの部屋にレオノーレの肖像画があり、その前でピツァロがフォーキンの牧神よろしく(バレエネタすみません)レオノーレのストールに頬ずりしたりする。ので、なるほどピツァロはレオノーレにお熱ということなのね、と分かります。もしかしたらフロレスタンを陥れたのも彼女を我が物にしたいという下心あってのことか?

フロレスタンは1幕も歌いこそしないけどほぼ出ずっぱりで、地下牢のあちこちに女性の絵(たぶんレオノーレなんでしょう)をチョークで描きまくっている。彼女への愛が強いことの表現なのでしょうね。このチョークの絵がなかなかお上手。グールド凄いな!と思いかけたけど、下絵があるんでしょうね。

それ以外ではマルツェリーネの描き方が面白かった。灰色の牢獄の中にあって、父が用意した人工芝とお花の楽園でピンクのガーリーなドレス着てお人形遊びしながら結婚を夢見るお嬢ちゃん。夫を助けるために男装するレオノーレの対極にいる、甘やかされた我儘いっぱいの娘として描かれているように見えました。この話、通常は最後はマルツェリーネが可哀想じゃん、って同情しがちですけど、このキャラだと彼女にそういう気持ちが涌かなくなる。

1幕は、何だかいろんな伏線はってあるけど、どれが発展するのかな?という気持ちで観てました。

そして2幕、これは怒涛のどんでん返しと初めて観るストーリーで、オペラというよりストーリー知らないお芝居を観ているような感覚でした。

レオノーレが私は彼の妻よ!と名乗り出た直後にピツァロが二人を刺し、彼らの息の根を止めずにそこに放置、挿入されたレオノーレ序曲に乗って地下牢の入り口をブロックで閉鎖していきます。この序曲の使い方、上手い。

そして、演出的な白眉はこの後。フェルナンドがやってきて囚人を解放するシーンに、フロレスタンとレオノーレの偽物が登場。フロレスタンはピツァロ自身(帽子を目深にかぶり囚人服を着ているからみんな気が付かないという設定)。解放された歓喜の合唱に被さるレオノーレとフロレスタンの二重唱は、合唱する囚人達とは違う場所、閉じ込められた地下牢の中で二人だけで歌っているという構図です。そうして聴くと、この歌は、多少台詞にぴったりではないところもあれど、二人で死ねる幸せを表現しているというふうに見えてくる。レオノーレの絵を描きまくるフロレスタンといい、この演出では、悲劇にすることで、二人の純愛が強調されているように思いました。

最後、解放されたはずの囚人達は歓喜のうちに光が見えた牢の中に戻っていき、そこへフロレスタンの振りをしたピツァロ(と共謀者の女)が戻ってきて牢の扉をがちゃんと閉じる。そしてピツァロが帽子をとってフェルナンドに勝ち誇ったどや顔をするところで暗転、幕。

この演出自体が最高傑作だ!と思ったわけでははないのですが、知らないストーリーの先を考えながら観るという感覚自体が面白かった。読み替えを楽しむ、という見方は、どこか演劇を観る楽しみに通じるところがあると思う。この楽しみ方は、日本のオペラファンすべての人が共有できるものではないな、という気もします。ただね、それを余り嫌わないでほしいなぁ。と思ったので、今回の演出がイヤと言っていそうな方々に対して一言ずつコメント。

オペラ素人な割に偉そうなこと書いてますので、そういうの苦手な方はこの後は飛ばしてください。

①元のオペラを知らないので読み替えの楽しさは味わえなかった方
→音楽と素晴らしい歌だけで十分オペラの楽しみは味わえましたよね!

②オペラというよりクラシック音楽ファン(日本のオペラファンはこちら側の人が多いように感じる)で、結構音が出る演出に音が邪魔されたのが気になった方
→演奏会形式なら演出に邪魔をされず音楽に集中できますので、今後はそちらをどうぞ!

③海外でも多数オペラを観てきたオペラ通で、この程度の読み替え甘ったるい!と、ここぞとばかりにブーイングしちゃった方
→気持ちは分かりますが、それやると逆効果で今後とんがった演出のものは日本でますます観られなくなりますので冷静なご対応を。

実際、読み替えのレベルや演出は、日本の観客にも分かりやすい、いい塩梅だったのではーと思います。ピツァロのレオノーレに対する執着とか、ドイツなら下ネタ的にもっとエグい表現もありそうだし。私は、日本であの手のダークな読み替えものにチャレンジした勇気を讃えたいです!

さて、日本で観るオペラにしては珍しく演出や読み替えストーリーの方に頭が行きがちではありましたが、そんな中でもグールドの揺るぎない素晴らしい歌唱には感動しました。2幕はストーリーと彼の声と、いい意味で両方に気持ちを巡らせながら観ていたのであっという間。

私はソプラノの揺れる音程が苦手なのですが、メルベートはいつも割と安心して聴いてる。ロッコの妻屋さん、体格も歌唱も海外歌手に引けをとらず素晴らし!マルツェリーネの石橋さんも美しい声でよかった。ピツァロのラデツキーは、いつぞやハンブルクで聴いた大地の歌の悪い印象が残り過ぎていて。彼は声量があるタイプじゃないんですね。4階だとオケと一緒になると余り聴こえてこなかったというのが正直なところ。ただ、憎らしい悪役の演技は素晴らしかった!

新国の合唱は、やっぱ上手いわーと聞き惚れてしまいました。

オケ、一幕はところどころコケたりしていましたが、二幕は安定していたと思います。でもすみません、ちょっと前に聴いた東フィルの方がちょっとだけよかったかも・・・。最終日でお疲れでしたかね?

最終日のカーテンコール、4階席だったせいかもしれませんが、ブラボーはたくさん聞こえたけどブーイングは聞こえませんでした。この日が、飯守さんは新国芸監として最後の公演。一人だけのカーテンコール時にオケから大きな花束が手渡されていました。いろいろ仰る方もいらっしゃるとは思いますが、飯守さんが新国のオペラに対して残してくれたよいものはたくさんあると思います。本当にありがとうございました。

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