ダンサー言葉で踊る小

Dance Lab 第一回 ダンサー、言葉で踊る

2018/9/3月 18:00- 象の鼻テラス

ゲストダンサー:島地保武、那須野圭右、湯浅永麻、鳴海令那
キュレーター:小尻健太
ファシリテーター:唐津絵里

Dance Labの一回目に行って参りました。全体的には、レクチャーというよりはトークショーという雰囲気でしたが、そういう雰囲気ならではの本音もあり、「ダンサーと振付家の関係」についてたっぷり話を聞くことができて、とても楽しかったです。また、各ダンサーさんのお人なりが見えたのも面白かった。トークショーの後は軽いフードも出た交流会もあり、ご贔屓ダンサーさん、そして唐津さんと直接お話できたのも嬉しい。観客には一般のファンの他、ダンサーやダンス・バレエ界で仕事をされている方も多数いらした様子でした。

話の内容で印象的だったのは、振付プロセスかな。コンテでは振付家が動きをきっちり作ってダンサーに渡す方式から、ダンサーから動きをもらって組み合わせる方式がメジャーになっているようです。だからこそ、振付家は自分の異なるバックグラウンドを持つダンサーとのコラボや、ジャンルへの振付が可能なんだなと納得。こういう時代になると、ダンサーも、上手い人よりクリエイティブな人の方が重宝されるのだろうか、なども思ったり。

以下、当日のトークをメモにとって少しだけ整理したもの。手書きだったし追いつけなかった部分もあり、聞き間違いがあるかもしれません。お気づきの方はコメントなどでご一報いただけると幸いです。(*お名前は必要ありませんので公開コメントでお願いします。)

なお、Dance Labの第二回は2019/2/16土、横浜赤レンガ倉庫1号館で予定されているとのこと。また、こちらに興味を持たれた方は是非、小尻さん、湯浅さん、鳴海さんも在籍していた世界最高峰のダンスカンパニーNDTの来日公演(2019年6月-7月)にお越しください!

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■各ダンサーから、自分が近しく踊ってきた振付家について。

◇那須野さん:ベジャールについて。

自分は今はダンサーではなくBBLで指導をしている。16才から17年踊ってきた。
これは代表作のボレロの制作中の映像。このときベジャール34才、僕が今38才。そう見えないでしょう!ディスカさんという女性ダンサーに振付けている。作品は振付家とともに成長するがボレロも今と振付が違う。次の動画はアクアカル(?)より「恋する兵士」を踊っている自分。
自分が踊ったことのある作品を指導するのは簡単だけど、踊ったことのないものはジルに聞いたり、ジルと昔の映像を見ながら教えている。ボレロも3段階の変化(ここは具体的に身振り手振りで説明)があった。手を前で合わせ、クロスさせた足でリズムをとるポーズは、昔はもっと屈んでいた。でも皆さんずっと低いと疲れるから高くなっている。今は、できる限り低くするのがベジャールの意志だったと考えていて、低くすることを広めようとしている。

◇小尻さん:キリアンについて。動画を潤沢に使った説明。

彼の作品に出会ったのはモンテカルロバレエに入って初めてのリハーサルのとき。Sechs Tanzeという作品だった。その後オランダのデン・ハーグの劇場で彼の作品を踊ったが、彼の作品に出会って価値観が変わった。観るたびに変化することに興味が湧いた。そして4年後にNDT2に入団した。初めてがSleeplessというクリエーション。27'52"あたりから彼の作品は動きの特徴が変わったと思う。それまではクラシック音楽を使っていたのにこの作品で初めて電子音や声などを使った。言葉の意味からクリエーションもしている。(ここで小尻さんの実演。素敵!)これはフォンタナの作品(白いキャンバスを何ケ所か切り裂いた作品、こんなやつ http://www.mk-one.co.jp/modern/m066.html)で、Sleeplessのアイディアの元。状況や環境が変わったときにどう対応するかという夢の中を表現しようとした。これはChapeau (2005)、プリンスの曲を使っている。これは名作のBella Figura、次はMemoires D‘Oubliettes (2009) (ここで那須野さんからTime Upのサインが出て終了)

◇島地さん:フォーサイスについて。

2006-2015年、フォーサイス・カンパニーにいた。僕はダンスを始めたのが遅いし、クラシックバレエには正直タイツとか抵抗もあった。が、フォーサイスを見てバレエに対する見方が変わった。(ここで動画)これ、何なの?って思うでしょうけど、いつも「何なの?」を探していた。次は2007年初演作品の2010年の上演。両方インプロビゼーションです。イタリアのプレシアの公演なんかは、本番2日前につくって上演したことも。いつも新鮮だった。クリエーションのときは、動きは、例えばこれ(ペットボトルを持つ)を、ペットボトル/水/半分あいてる、など、どう見るかのトレーニングをした。視点を変えることで頭を動かす。モノゴトは特定の見方だけではない、とか、そうやって、思考を動きにするのが彼の方法。

◇湯浅さん:マッツエックとシェルカウイについて。

私は2011年からNDTに入り、3年前にフリーになりました。
まずはマッツエックから。この映像はエクの眠り。96年にハンブルクバレエで初演された作品(映像はNDT)。オーロラ姫はヤク中。エックがあるところでヤク中で気を失っている女の子を見かけたのがヒントになっている。一般的な正義が正義ではない、というところも。エックは装飾された美しさが嫌いで、それは本質ではないと言っていた。カラボスはヤク中でオーロラも彼にとらわれてヤク中になるが、彼女を助けるために王子はカラボスを殺してしまう。姫は姫でそのとき自分が妊娠しているのを知っていながら彼についていく。マッツとはNDTで最初に会ってオーロラを踊った。キャストはオーディションで決まる。NDTやめると決めて最後のスペインツアーに行ったときに彼がきていて、やめるんだったらロミジュリのセカンドキャストが空いてるからやらない?と言われた。実は鳴海さんがセカンドだったけどNDTに移ることになったので。
ロミジュリはアラブの春のときにチュニジアで自殺した男の子がヒントになっている。エックは社会的テーマを扱うことが多い。振りは緻密で細かく決められているけど、役の解釈は意見を聞いてくれる。リハの後に「新聞を読んで知ったんだけど、今でも無理に結婚させられたりする人達がいる・・・」などと役の深さを語ってくれたり。とにかく温かい人。

次にシディラルビ。これは2015年のFractusV。サーカス、フラメンコ、ブレイクダンスなどのダンサーとラルビの5人が踊っている。彼のカンパニー名のeastmanは、cherkaouiが「東の人」という意味であることからとったらしい。彼と会ったのはNDTの最後のツアーでピーピングトムの作品をアントワープで踊ったとき。終演後のパーティーにラルビが来ていて、やめるんだったらおいで、と言われた。以来、LES INDES GALANTES、サティアグラハ、タンゲーラ、プルートゥの再演などに参加している。彼はまだ若い、今回紹介する振付家の中で一番若い。バックグラウンドはストリートダンスでバラエティーショーで踊っていたような人だけど、僕はクラシックバレエはやったことないけどと言いながら、ラインはなくても違うタイプの本質を取り入れるのが上手い。コンテンポラリーダンスの概念を壊したい、と言っている。差別を感じて育ってきた人だから隔たりを壊したい気持ちが強いんだと思う。彼の現場は、ロッキングとかヴォーギングとかいろんな人がいてすごく大変。無理なコミュニケーションしながら何かを生んでいくのは本当に大変だということを身をもって分からせてくれる。人間性としてはまだ若くて未熟なところがあるが、境界を越えて頑張っている。

◇鳴海さん:クリスタル・パイトについて

NDTをやめてパイトのカンパニーに移った。彼女はカナダ人でフォーサイス・カンパニーにいた人で02年にプロジェクト的なカンパニーをつくった。初めてパイト作品をライブで観たとき、コンテンポラリーのカンパニーを観るのも初めてだったのだけど、人間ってこんな動きができるんだ!と思った。観た後、感じることが変わる。英語が分からなくても、自分の経験と照らし合わせて観ることができる作品。彼女の作品は最初にactingというストーリーがあり、その後ひたすらダンスという構成が多い。これはNDTにクリエイションしたthe statementという作品ですが(動画)、見えないボスに従うしかないというようなもの。パイトは社会的なことを重視する人。最初の部分を実演してみます(実演。素敵!)。これはボスとのトークで女性の声が私の役。ボイスに乗せてボディランゲージを当てて作った。

■師の作品を教えるということ

唐津さん→那須野さん:振付家が既にいない場合、自分でどう受け取ってどう伝えていくのか。
那須野さん:彼(ベジャール)自身に聞けないし、ジルでさえ知らない作品もある。自分で習ったのは簡単だけど、そうでないのは過去の映像を見たり、ジルに聞いたり、インタビューを読んだりする。でも、それをそのままやったらどうなのか。例えば春祭、有名なのは鹿の性行為を見て作ったってベジャールが言った、というやつ。確かに彼はそう言ったんですけど、でもあれは、鹿だけじゃない。生まれたら太陽の方を向いて、四足歩行から二足歩行になり、戦い、そして異性を見つけて恋をして、子孫を残す。そういうことを表現している。資料などが残っていない作品については、ジルが考える。それが託されているということ。

■作品の制作プロセス

島地さん:(フォーサイスについて)どうやって作品を決めていっているのか分からない。初演のときは自分達はタイトルさえ知らなかったりする。

鳴海さん:パイトはスタジオにきて「どうしよ?」なんて言ってるときでも、リサーチをしてあってストーリーが既にある。アブストラクトでも頭に構成がある。彼女は脚本も書く人。インプロビゼーションをやってパズルのように作っていく。コンボ(二人で組んで踊るもの)は1から10くらいまであって、それを組み替えたり、ダンサーのエッセンスも取り入れる。タスクを与えられて作るので、違う動きを組み合わせても一つの線がある。彼女はダンサーのいいところを引き出す人。

湯浅さん:
(シェルカウイについて)ラルビはコンセプトは決まっているが、ざっくり。eastmanはプロジェクトカンパニーで、これを伝えるのにはこのダンサーを、という感じで選ぶけど、ぎりぎりまでどういうダンサーを集めるかを決めていなくて、徐々に決まっていく。小尻さんや令那ちゃん達とは言葉の方向が同じだが、eastmanは、ワッキングの女王もいたりとバラバラ。みんな意志が強いので同じものをつくるのは大変。タスクを渡されて15分くらいやって、それをつなげたり、他の人にあげたりする。まとめるのは最後は彼だけど、まとめようって彼が言ってもダンサー自身がやる。彼は、俯瞰的に見ていて編集をする感じ。
(エクについて)マッツはアナと一緒にこもって音に合わせて緻密につくったうえでダンサーに持ってくる。再演のときにダンサーに合わせた変化はある。

小尻さん:僕が日本に帰ると言ったときにキリアンに言われた。「帰ったら、自分がやってきたことを言葉で伝えるんだね。健太が思ったことを自分の言葉で伝えればいい。それで振付が表現になる。」同じ価値観の仲間だと意志が伝わりやすい。同じ言葉でも人によって伝わり方が変わる。

唐津さん:振付家が振付を作るスタイルからダンサーに任せるスタイルに変わっているのか。

小尻さん:振付家とダンサーのやりとりが柔軟になっている。キリアンも若い子を見て同じ体なのになんでこんなに違うのか、と不思議がっていた。マッツやベジャールは一貫したスタイルがあるがフォーサイスは前と今とでは全然違う。

■振付家とダンサーの信頼関係

鳴海さん:クリスタルのことは、人間性、振付、そして女性としても尊敬している。彼女はダンサーを信じていて、ダンサーに感謝を伝え、絶対ダンサーのせいにしない。うまくいかないときは自分が準備ができていなくて何時間もリハやったのにあなたから引き出してあげられなかった、ごめん、なんていう。そう言われるとこっちもああどうしよう、って思う。スタジオの雰囲気を大事にする。彼女のためには自分のアイデンティティを絞れるだけ絞って、彼女の表現したいものをどう表現するかを考える。彼女がそういう雰囲気にする。ビルが工事中でリラックスできない環境だったとき、「ダーツボード買ってきたよ!」っていうこともあった。

小尻さん:NDTで一緒に仕事したとき、毎度お花を持ってきた。実は照明デザイナーが亡くなって、そのために花を持ってきていて、しかもそれが作品の題材だった。

湯浅さん:パイトは若いのに人間性が素晴らしい。彼女がプレミア前に情緒不安定になったのを見たことがある。でもプレミア終わった後、がしっと抱かれた。何回かダンサーとの摩擦を見たことがあるが彼女のプライオリティは作品を創ることで、そのためにスタジオの雰囲気をマニピュレートしているのだと思う。感情を捨ててそこに向かっている。ラルビは違う。プライオリティは分かっているけれど、いつも時間がないし、人間性は荒い。未熟さを持っている。最初は抵抗する気持ちがあったが、今はそれも含めて素敵だと思える。

島地さん:今日着ている服は、(フォーサイスから)トラムの中で突然もらった。フォーサイスはタイミングの人。リハのあと突然近づいてきて「今だと思うから話すね。君は成長した。これは危険なことだけど、今は話さなくちゃいけないんだ」と言ったり、本番終わった後すぐ寄ってきて「素晴らしかった!僕を選んでくれてありがとう!」と言ったり。で数日すると「なんなんだ今のは!」って言われたり。言われればそうか、と思うけど、あまり自覚はなかった。最初の頃は特にズレがあった。

那須野さん:今自分が指導の仕事をしているのは、2006年頃に自分はダンサーとしてはやっていけないな、と思ったから。2006年にジルに「ちょっと指導しておいて」と言われ初めて教えたら数日後ベジャールがリハを見て「誰が指導したのか?よくやった!」と言い、指導の道に。彼は人間くさい人だったので、肩ももんだし、水を持っていくのも僕だったし、車椅子も押していた。あるときパリ・オペラ座に突然来るように言われて彼の車椅子を押して入った。パスも持っていなかったので入った途端ルフェーブルに「彼は誰?」って言われたんだけどベジャールが「彼は、いいんだ」と言ってくれた。そのあとも家に連れていかれて「寿司食べたいだろう?」とお寿司をご馳走になったりした。

■観客からのQ&A

観客1:エクの基礎原語のようなトレーニングはあるのか。

湯浅さん:ない。クリスタルやオハッドはある。マッツのスタイルはしっかりしているから、それをどうやってつかむかは結構大変。

観客2:ダンサーであることと振付家であることは連続的なのか。

小尻さん:人それぞれ。僕はかけ離れてはいない。何を伝えたいかは共通。踊れなくなっても振付するかは分からない。

島地さん:自分は踊り始めたのが遅く、最初はモダンダンスだった。テーマをもらって、後で発表するという形式のレッスンを受けた。だから踊ることと作ることの距離はもともとない。インプロも短い時間での振付。ダンサーであることとつくることは実際は違う。

観客3:将来ベジャール作品はどうなるのか。

那須野さん:彼が自分達に残した言葉がある「立ち止まるな、前に進め」。ベジャールだけに頼るな、ということと信じて、今は新作もやっている。ベジャール作品は宝だが、見る人、プロデュースする人次第。この10年でも大きく変わってきた。ベジャールのいろんな作品を観たいと言われるから上演しているしそのための財団も作った。僕らは(ベジャール作品を)残していきたいが、新しいこともやっていく。

観客4:鈴木竜です。これは唐津さんに。名だたる振付家の作品を日本で観られないのは、なぜなのでしょう。

唐津さん:来年NDTを呼ぶがこれは全くペイしない。でも入ればまたよぼう、となる。ベジャールは入るから地方公演まで出来る。人を連れてきてくれれば呼べる。お金を出すスポンサーも少なくなっている。必要性が社会を動かす。

■どんな振付家だったか、を一言で。

島地さん:(フォーサイスについて)ありがとう!一言では難しい。僕が活動することが、彼も喜んでくれることだと思っている。

湯浅さん:振付家の想いは共通するところがある。マッツは戦後、ラルビはまだ若い。人としてそれぞれぶつかり合えるのは貴重。ダンサーは人である。

鳴海さん:(パイトについて)一言で言うなら恩人。会って、自分自身を発見できるツールをもらった。卒業後研修生として踊ったが、その経験を経て声をかけていただいた。足を向けて寝られない。

那須野さん:(ベジャールについて)プライベートではおじいちゃん。ビジネスでは、神。

小尻さん:(キリアンについて)ちょっと暗い。陰。共産主義の国から亡命してきた人で、飛行機にも乗れなくなった。そこから生み出されるの非現実的なものは、マジック。マジシャンのような輝くもの。

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