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駆け抜けて原チャで

誰よりも音速で、誰よりも止まらないで、ブレーキは忘れてどこまでも風になって原チャで。
美しく花のように、芳しく春のように、この35歳が一瞬にして18歳になったり6歳になったりする。爆速で次元を行ったり来たり。誰にも咎められないで、それなのに社会の一端でもあって、その皮一枚の寂しさを抱きしめていて。
土が滲む。詩が滲む。移ろいゆく故郷にジョウビタキがさえずる。
あなたが宮崎で、君は岡山で、彼は宮城で、何かを奏でる。その土地の土の音を鳴らす。その地の音、その地音(じおん)が欲しいんです。

風になって原チャで、あの書店へ、あの砂浜へ、あの定食屋へ、あの珈琲屋へ。風が内視鏡となってあの人の左心房を暴く。鳥のように。
心を塗ってくれ、そのルージュで。
夜を変えてくれ、そのルージュで。
いつだって不器用に催促する最速の玉砕。鉄道の最後のところ、漏電して振動する神童のシンドローム。

その軽やかさを愛す。電車が匂う。春を運ぶ。土手の菜の花。公明党のポスター。缶ビールの空き缶とブロック塀。白線の内側。違う人同士がすれ違う。営業者のアルトと昼寝の男。理不尽な隣人の不倫は一輪の華。西陽より早く帰路へ。

早くお家へ。早くお家へ。早くお家へ。お家へ帰ろう。
誰にも会いたくない気分で原チャで駆け抜ける。信号を突っ切る。二車線道路を跨ぐ。街頭演説をミュートする。バイバイさよなら女子高生。バイバイさよなら同級生。どこまでも原チャで。あいつにもあいつにも会わない。このままで、このままで。ずっとこのままで何処までも遠くへ。

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