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アルバムレビュー 相対性理論「ハイファイ新書」編

本記事では、相対性理論のアルバム「ハイファイ新書」を私が聴いて聴取できたことや思ったことなどを書き連ねていきます!(途中から記述法を大幅に変えました ごめん)




1. テレ東

キーボードで鳴らされた四和音が特徴的な、生ドラム4つ打ちの楽曲。イントロからリードギターによって繰り出されるリフはディレイやコーラスの効いたギターの音色や全体のミックスの質感が相まって虚無感や脱力感を感じさせる印象的なものとなっている。サビに入ると裏打ちのみだったハイハットは16分で刻まれ始める(しかし強弱で裏打ちされていったパートは引き続き強調される)。ボーカルは「伝えたい言葉はI love you 口をついて出るI want you」という少しベタにも感じられるストレートな詩をキャッチーに歌い上げ、それがこのパートをシンプルにポップな、リスナーの心を熱するようなものにする。しかし演奏の厚みやボーカルの歌声は他のパートとさほど変化せず、引き続き低体温、というような印象を受ける。そしてその後もイントロと同様のリフを経過したのちドラムパターンにはスネアが参加しながらも、同じ体温を保って楽曲は続いてゆく。その後のサビにかけての展開でも、少し落ち着かせる程度のビートの変化が加えられているだけだ。曲を通してのダイナミクスをビート以外で変化させているのはリードギターだろう。それは左右で違うテイクやフレーズをそれぞれディレイを強くかけられながら鳴らされる。それが耳を撫でるようにして「あくまでもこちらは低体温」というようなスタンスで我々の体温を弄ぶ。

2. 地獄先生

出だしから各楽器の自由なリフの組み合わせが効果的で美しい。ドツタドツタツツというビートを刻むドラムと連動したベースに、右から聞こえる8分でルートを刻むギターと、左から聞こえる4音のリフを弾いたのち前者と同様8分の速さで2小節目1拍目の裏からアルペジオ的に刻む左のギターそれぞれ4小節の残響の少ないパターンが重なることによりそれぞれが互いに干渉し合いながら展開しているかのように感じさせる。その後ボーカルが入るパートでドラムは同様のビートを刻みながらベースは音数をやや減らし、リードギターは少しシンコペーション的に基本アルペジオのフレーズを鳴らす。これが終わるとまたイントロ同様のアンサンブルが始まり、その後の同歌メロのパートでは前回よりもドラム除く演奏の音数が増え、耳が包まれることによって温度は少し上昇する。スネア3回のフィルの後その温度をそのまま少し上げたサビに突入し、ドラムはたまにタムを挟んだり、ギターリフのサステインが全体的に長くなっていたりわかりやすくダイナミクスが変化している。そしてイントロと同様のアンサンブルに突入するとここのパートにも確かな暖かみがあることを実感する。その後更にギターリフの音数の多い歌パートに突入した後、すぐにサビが始まり、次にドラムが8分でライドを刻みながら同じビートを刻むギターソロ、そしてまたサビ、アウトロなく終了。ボーカルは全体的に駄洒落に基づいたような押韻をしながらも高校生活における悩みを当事者の目線(本人がそう、というわけではないが)から悲壮的な形で歌う。私はこの手法から苦しみながらも口先では茶化したり一時的には気楽に思えてしまったり、自分の「本心」とは存在するものなのか、すべて自意識で選択しているのではないか、と悩んだりするような気持ちを想起した。

3. ふしぎデカルト

初っ端「シーミュレーション 心霊現象」とボコーダーないしトークボックスで歌われているのは冷静になると笑える。その後この曲はベースやビートがハネてギターが裏で小気味よく鳴らされるレゲエ的な演奏になる。そこにボーカルがまたもや駄洒落的な押印で参加する(これはおおくの相対性理論の楽曲を特徴づけていると言っていいだろう)。その後レゲエは終わり、「フジカラーで写す〜」から半サビパートはビートの音数も減り、ボーカルが少しバリエーションを増やして助走をつけるようになる。その後レゲエ間奏で焦らしながらまた半サビが始まり、「私見た〜」から本サビだ。そこではボーカルの声は多重録音でコーラスとしても現れるようになる。ギターリフは引き伸ばされ、音が壁だとしたらここで部屋がようやく包みこんでくれるように感じられる。 その後レゲエ間奏→半サビ→本サビと似た展開が入る。そして新しいメロで「あなたが霊でも〜」と、ビートの止んだ休憩空間でボーカルが入り、シンセがはいったレゲエ間奏ののちサビ、そしてまたアウトロなく終わる。




4.四角革命

ミニマルな8ビートにシンプルなコード弾きのエレピとベースでダウナーな響きから始まり、前の3曲よりも低い音程でやくしまるえつこが喉を絞めることなく自然体で発声するボーカルが入る。コードの小節の頭にあまり揃わないパターンやイルカの鳴き声のようにも聴こえる装飾的なギターのグリッサンドの使い方が心地良い。0:48~スネアは倍テンになり、ここまでの曲にも近い相対性理論らしいイントロが始まる。ノレる。聴き取りやすく捉えやすいメロのボーカルが疾走感のあるオケに乗り、学校をサボって街へ繰り出すことや近未来的な用語(モロ25世紀とかも言ってる)を口にする。3:00~「きっと ああ 未来がやばいの きっと もう 宿題出せない」めっちゃわかる!

5. 品川ナンバー

打ち込み4つ打ちの曲。メインのリフがグリッサンド的なシンセで鳴らされていることも相まって同バンドの曲「たまたまニュータウン」を想起する。1:40~ 「フロアを揺らすスピーカー」でオケにローパスがかかってダンスフロア感を演出してるのが面白いし、少し軽率なのが良いと思った。サビでは【ウンウンウンタン】のリズムになり、マイナーチェンジの効かせ方が上手だなと思った。あとは、4つ打ちでこのように簡素なオケである場合、ベースにはある程度バリエーションをもたせつつキックともある程度連動させることが求められるのだがそれをうまく達成できていると思った。

6.学級崩壊

「がっきゅー がっきゅー♪」とつい歌いたくなる。M3の「ふしぎデカルト」と同様、レゲエ調だ。このバンドの制作の上での縛り(方針?)はメロをペンタトニックスケールなどで掴みやすいものにすること、そこに特徴的な歌詞を特徴的なボーカルが歌うことだと思う。逆にそれ以外の部分ではレゲエ、4つ打ち(そして次曲はボッサ調である)、その他にも様々な異なるノリのビートを自由に選択している印象を受ける。
「学級崩壊進行中」というフレーズも軽く押韻をしているが、このバンドにおけるそれは駄洒落とのグラデーションのいいところをついているように思う。これは日本人に「駄洒落 = ギャグ」というような刷り込みがあるのも相まって曲の印象をとても独特なものにしているし、「Jpopは押韻をしない」的な言説があるが(いや、してると思いますけどね ただYOASOBIの『アイドル』の英語訳で少し話題になりましたよね 個人的には押韻はしていなくてもいいと思っています)相対性理論は日本のバンドならではの独特な押韻の形態を確立しているように思う。

7. さわやか会社員

上記したようにボッサ調の曲。相対性理論のシグネイチャーサウンドとも言える(これはM6内で書くべきだったか)コーラスの効いたギターの音がよくマッチしていて心地良い。1:39~ 「2度あることに3度目はない」そうなんですか!? ただことわざってどれもケースバイケースですよね。。そういう意味で否定してくれるのは凄くありがたいことかもしれないです。やくしまるえつこが平然とした口調でいろいろをぶった切ってくれるのもこのバンドの魅力かもしれない。よく聴くとボーカルは歯擦音も割とはっきりと残され、輪郭がくっきりしたものになっている。これが一つ独自のテクスチャーを獲得することへの助けになっているだろう。終盤のキメからの転調には(ここまでの曲でそのような編曲がなされていないこともあり)驚かされる。

8. ルネサンス

イントロからなんて美しいのだろう。ディレイが強くかかり相対性理論のギターサウンドを誇張し、過剰にしたようなそれにより奏でられるリフやライドシンバル、浮遊感のあるベースラインが合わさり、お風呂上がりに湯気が上がる少し慣れないが少し落ち着きもする脱衣所にいるようば気持ちにさせる。曲を通して気だる目なテンションは持続し、全体的に歪みが少ないからこそよく聞こえるリムの音が心地良い。1:47~ 「メイドさん ご苦労算数 だんな算数 ありがと算数」マジで何を言っているんだ。ただそんなことはこの曲のデザイン上どうでもいいと、そう感じられる。

9.バーモントキス

私もうやめた 世界征服やめた …いい歌詞すぎ!(記事内で記述方式変わりすぎ) 
ここまでの曲の特徴から推測すると、途中からバンドサウンドに変わり8ビートのキャッチーなリフが始まりそうなものであるが、この曲は電子音楽的な脳みそで、ループすることの快楽を強調するために組み立てられたように感じられる。2:44~ 「とろけるキッスは誰のため~」からウェットなサウンドが増え、深くかかったリバーブが大きな空間にいるように錯覚させる。


さいごに

初めてこのような記事を書いたのでお見苦しいところは多々あると思いますが…読んでくださってありがとうございます、!
この記事を書いていて私は相対性理論の独自性の確立方法(縛りを生み、その他は自由にすること)に感銘を受けました。
やっぱり相対性理論には唯一無二の凄みがあるし、虜になったら引き摺り込まれる強い魔力を持っていると思います。わたしは最近ボヤーッと逃避することがおおくて、相対性理論の音楽はこんなムードの私にとても寄り添ってくれています。


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