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なにもかも無銭優雅

20代後半から数年間、今のようにブログを書いていた。

書くことでとっちらかった気持ちが整理できていたような気がする。本当の私を誰ひとり知らない場所で想いを綴ることは、今も昔も変わらず心地良い。

ブログを通して様々な方と出会った。
その多くはなぜだか決まって年上で、キャリアウーマンや海外在住の女性だった。実生活でも年上の女性に可愛がっていただく機会が多いので、私の何かがそうさせるのかもしれないね。


12年前の震災の時、彼女たちは何ひとつ素性のわからない私に「無事を祈っています。どうか生きていて欲しい。どんなことでも力になりたい。連絡を待っています」とメッセージを送ってくれた。きっとそんな昔のことを彼女達は覚えていないだろうけれど、私はそのことを今でもずっと忘れずにいる。


どんなキッカケだったか、スペイン在住の日本人女性と知り合った。とても切なく官能的な記事を書く方で、見た目の雰囲気が作家の山田詠美にとてもよく似ていた。私が山田詠美の「無銭優雅」という小説を読み終えて記事にした時、その方がメッセージを下さった。「”無銭優雅”って素敵なタイトルですね。それを選び取ったのりこさんの感性が、私は好きです」

その小説は40代の男女の日常が描かれた恋愛小説なんだけど、読みながら思ったものだ。(大人同士の恋ってこんなに無邪気なの…?)って。
大人の男女がまるで子供同士のように無邪気に、ただただ相手を慈しみ、愛しさにまかせてお互いを求め、戯れ合う物語。きっとそれこそが大人の恋なんだろうな〜なんて、わからないなりに感じていた。
そんな恋に、無銭優雅の境地に、当時20代だった私は憧れていたのだと思う。

そういえば物語の登場人物達と今の私はちょうど同じ年代になったわけだけど、大人の恋…大人の恋?
出来ていないですねぇ…。きっとそう遠くない未来に出会えるのだろう。大人の恋に、子供にも大人にもなれる、そんな誰かに。

彼女はこう続けた。「向田邦子の”父の詫び状”を読んだことがありますか。もしなければ手に取ってみて欲しい。私の特別な1冊です」と。

私はその時まで向田さんの小説を読んだことがなかったけれど、すぐに本屋さんに走って向田邦子の名前を探した。読み終えた時、たまらなく胸が切なかったことを覚えている。

訳あって遠い異国の地で波瀾万丈な日々を送る彼女が、一体どんな気持ちで私にこの作品を勧めてくださったのか。誰にとってもきっと特別な1冊や作家がいて、彼女にとっては父の詫び状が、遠く離れた祖国やもう会えない家族と自分とを繋ぐ、大切なツールだったのだろうと思う。


少しの間更新しないうちにパスワードを忘れてしまって、そのブログに記事を書くことが出来なくなってしまった。読むことはできたので、そういえば…と読み返してみたことがある。

本当に驚いた。これほんとに私が書いたの?と思ったのだ。変わっていないつもりでも、いつの間にか私は変わっていた。何というかもう、そりゃ苦しいだろうよ…と思った。この人大変そうだわ、って。
どんなに未来があろうとも、もうあの頃の自分には戻れない。どんな時も今が最高。10年後の私もそう思っているのかな?そうであって欲しい。できるなら愛する誰かのとなりで、笑顔でいて欲しい。

過去のブログで知り合った方々と、今ではもう繋がりがなくなってしまった。自分を生きている中で、ふと隣をみるとそこにいた人々との出会い。いつしか自分も相手も変わっていく。ずっとそのままではいられない、それが自然だ。振り返ってみた時、
思えばあの時が最後だった、と思うかもしれない。また会えたね、と言える日が来るかもしれない。こればかりは生きてみないとわからないことだ。

自分に必要のない人は「切る」とか人間関係の断捨離とかいう言葉を聞くと、身体がグッと固くなる。人間はものじゃないから、ゴミ箱に捨てるみたいなことはできないから。敢えてそんなことをしなくても、離れていくご縁も、また近づいていくご縁もある。ずっと繋がっていることだってあるし、それはもうどうしようもないことだ。諦めでは決してなく、出会って離れてまた出会って、その繰り返し。全ては過程なのだと思う。

今ではもう言葉を交わすことが叶わなくなってしまった人たち。
それでも私の中にずっと生きている。
貴方に生きていて欲しい、と言ってもらえたこと
きっと祈るような気持ちでメッセージを送ってくれたということ
貴方の感性が好き、という言葉(最大級の賛辞…!)
父の詫び状を読んだ時の、あの胸の痛み
何もかもが無銭優雅な、かけがえのない贈り物だ。

スペインの方にいつかまた再会できたら、話したいことがたくさんある。

○○さん、あれから私、向田作品をいくつも読みました。阿修羅のごとくが好きです。女ってどうしてああなんだろう?会話はどんどん脱線するし、いっつも何か食べていて。おせっかいで毒舌で騒がしくて、優しさも冷淡さも残酷さも持ち合わせた存在。

○○さん、あの頃は気づけなかったけれど、私の心にも阿修羅がいるよ。たまらなく嫌になることもあるけれど、女で在り続けるってそういうことですか。○○さんの心にも阿修羅はいますか。今も恋をしていますか。幸せでいてくれてますか。


あの人に会いたいって恋焦がれてる時って、
自分を愛してるのよ。
自分の欲望をなだめるためにその男を思うのよね。
同じ会いたいと思うのでも、その人を愛し始めた時は違う。
もっと静かだし、もっと悲しいものよ。

花火
山田詠美
詠美さんも向田さんも、かっこいいのであった。
歳を重ねることは、大人になることは
なんて素敵なことなのだろう。

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