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THE GAZETTEを読む(1) 2012年6月号 脳科学がレゴ®︎シリアスプレイ®︎のプロセスが有効である理由について理解を深めてくれる

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンであるTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーター・トレーニング修了者向けとして書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

 LSPが人と人との間の壁を取り払い、重要な事柄の核心を記録的な速さで突き止める力を持っていることは、多くの人が知っています。このようなLSPがなぜ効果的なのか、社会神経科学という比較的新しい研究領域がその解明に役立っています。
 社会神経科学は、人間が互いに、そして自分自身とどのように関わっているのか、その生物学的基盤を探るもので、心の理論、自己、マインドフルネス、感情調節、態度、ステレオタイプ、共感、社会的苦痛、地位、公正、協調、つながり、説得、道徳、同情、欺瞞、信頼、目標達成といったテーマを扱っています。このような多様なトピックから、2つのテーマが浮かび上がってきました。私たちの脳は、リスクを最小化し、報酬を最大化するように私たちを導きます。意識的なレベルであれ、潜在的なレベルであれ、私たちの行動のほとんどすべては、この2つのテーマのどちらかに動機づけられているのです。

THE GAZETTE 2012年6月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 社会神経科学(Social neuroscience)は、脳の仕組みの解析から私たちの社会的な行動を理解していこうというアプローチで、この記事を執筆している2022年6月時点でも発展途上の領域である。社会神経科学領域の大学の講義向けの教科書はAmazonで何冊か見受けられるが日本語訳になっているものもほとんどない。日本語の本で社会神経科学についてある程度触れられるものとして、リサ・フェルドマン・バレットの『情動はこうして作られる』をお薦めする。

地位に対する脅威

 地位に対する脅威
 職場のパフォーマンスに影響を与える一般的な要因は、「接近-回避」のフレームワークを用いてよりよく理解されるように、地位(Status)、確実性(Certainty)、自律性(Autonomy)、関係性(Relatedness)、公平性(Fairness)です。これらの頭文字をとってSCARFと呼ばれています。
 接近・回避のフレームワークの中で、「地位」について見てみましょう。脳は地位、つまり「序列」における相対的な重要性について、数字を処理するのに使われるのと似た回路を使って考えます。そして霊長類では、地位は健康と長寿に直接結びついています。人は、他の人よりも優れていると感じると、地位の感覚が高まるのです。レースでもゲームでも、勝つと「気持ちいい」のです。ある活動から外されるなど、自分の地位が現実または想像によって脅かされると、身体的な痛みと同じ脳の領域が活性化されます。アドバイスや指示を与えたり、誰かがあるタスクで効果がないことを示唆するだけで、簡単に、しかも無意識に地位が脅かされ、脅威反応が引き起こされることがあるのです。

SCARFモデルについては、日本語での以下のブログでも簡潔に分かりやすくまとめられている。

SCARFモデルを提唱したのは、ビジネス・コンサルタントのデイビッド・ロックという人物である。神経科学者ではないが、その知見をビジネス・シーンに組み込む取り組みを精力的に行なっている。この記事の執筆時点で日本語で読める彼の本は『最高の脳で働く方法』である。本書ではSCARFモデルは前面に出てきていないものの(注釈で紹介がある)、それをベースとして書かれている部分が結構な割合で存在している。

また、このセクションでは以下のような写真付きコメントがかかれている。

LEGO SERIOUS PLAYメソッドでは、タスク、目標、行動が「客観化」されるため、情報やフィードバックが個人的でなくなり、脅威も少なくなります。

このコメントは、さきほどの引用中の「アドバイスや指示を与えたり、誰かがあるタスクで効果がないことを示唆するだけで、簡単に、しかも無意識に地位が脅かされ、脅威反応が引き起こされる」という部分に対するレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドなりの回答といえる。
 モデルとして表現するとともに、モデルを見ながら話すことで「脅威反応」が和らぐという状態は、ファシリテーターが参加者に守らせなければならないエチケットである。それと同時に、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドだからこそ、普段口に出しにくい話題でも、前向きに話し合いができるというメリットがここでは示されているといえる。

公平じゃない!

 公平じゃない!
 ある研究(Tabina & Liberman. 2007)により、不公正な取引は脳の島皮質に影響を与え、強い脅威反応を活性化させることが証明されています。この反応は非常に強く、政治的闘争など、認識された不公正を変えるために人は命を落とすことになります。他人を「不公平」だと思うと、その人の痛みに共感できなくなり、場合によっては、不公平な他人が罰せられると報われたと感じるようになります。私たちは感情的に「離脱」してしまうのです。
 私たちは、労働者がいかに日常的に不当な扱いを受けていると感じているかを知っています。ルールに従っている従業員よりも、より多くのことをやってのけているように見える同僚が常に存在するのです。報酬制度、特に役員報酬は、不当な扱いを受けているという感情を生み出す触媒となる。(彼女/彼は若いか、経験が浅いか、学歴が低いか、献身的でないか、上司と仲が良いか、いつも午後5時に帰るか、そして私より稼いでいる)。
 公平と価値は複雑な概念であり、人によってその定義が多少異なる。あなたや同僚にとって公平と価値が何を意味するのか、3次元のモデルを構築することは、良い出発点となります。

THE GAZETTE 2012年6月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

ここに書かれているように、「不公平」は職場のパフォーマンスを損なう大きな原因であるとともに、人によって「不公平」の感じ方は異なる。だからこそ「あなたが公平でないと感じていること」はワークショップのメインの問いになりうるぐらい重要な問いとなる。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーターとして問いの主要なレパートリーの一つにしておきたい。

また、このセクションにおいては以下のような写真とコメントが書かれている。重要な点を繰り返して強調している。

公正さと価値は複雑な概念であり、人によってその定義は多少異なります。あなたや同僚にとって公正さと価値が何を意味するのか、3Dのモデルを構築することは良い出発点です。

SCARFについてのさらなることは

SCARFについてのさらなることは
SCARFモデルの他の要素に関する情報は、David Rock「SCARF: a brain-based model for collaborating with and influencing others」に掲載されています。

THE GAZETTE 2012年6月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

最後に、SCARFモデルについてのデイビッド・ロック氏の論文の情報が出される。GAZETTEのアーカイブからのリンクは切れているが、本記事の執筆の時点では、ここにPDFで公開されている

ニュース!

ニュース!
LEGO SERIOUS PLAYの手法を小学校や初等教育に適用することに特にご興味がある方は、LEGO EDUCATIONのプレスリリースをご覧になってみてください。

THE GAZETTE 2012年6月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

このLEGO EDUCATIONのプレスリリースについては、本記事を書いている時点ではここから確認できる

 「BuildToExpress」というレゴ®︎シリアスプレイ®︎の基本セットを教育者向けにパーツを厳選したものらしい。これを使ってあらゆる授業を生徒にとって楽しく、かつ、授業内容についてもより深い理解に達することができるということを謳っている。
 今は廃盤になっているようだが、ここから追加の教師用コンテンツがダウンロードできる(Windows版のみ)。今はLEGO EDUCATIONは、STEM教育向けの商品に力を入れているが、いずれ、こどもの哲学(P4C)のような領域を狙って、またBuildToExpressのような商品を出してくるのではないかと考えている(個人的な願望が強すぎるかも)。

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