見出し画像

SGPの価値を再認識してもらうためにーレゴ®︎シリアスプレイ®︎の戦略論

 前回の記事では、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中のコンセプトの一つである「SGP(Simple Guiding Principles)」とそれが浸透しにくい理由についてまとめた。

 今回はSGPの価値を再認識してもらうためにどうすればいいのかについてまとめてみたい。

「SGPは戦略である」から一旦外れよう

 まず「SGPは戦略である」から、一旦外れることが必要かと思われる。

 確かに、皆の行動を導く統一された判断基準こそ戦略であるという考え方が、間違っているわけではない。SGPはスイスのビジネススクールIMDの戦略研究者たちとレゴ社の開発プロジェクトから生まれてきたものであるし(ラスムセン・石原・蓮沼『戦略を形にする思考術』)、有名なミンツバーグの創発的戦略(学習の中からパターンとして生み出される組織活動およびその裏には行動原理が想定される)にも通じるところがある。

 ただ、それらは結果として生み出されてくるという側面に光を当てすぎて「成功は運頼みではいけない。ましてや企業の命運を握る戦略をや」という人たちの心理的抵抗にあうと、そこでSGPを受け入れる気持ちも止められてしまう。

目的(パーパス・ビジョン)+計画+SGPで

 そこで、企業が目指す目的地点にたどり着くための仕組みとしてSGPを位置付けるのが良いと考える。そこには「目的」だけでなく「計画」も入れておく。

 「目的」は自らの行動に意味を与える軸となり、意味づけによってわれわれのやる気は喚起される。SGPが何のために必要かということを思い出させるために「目的」とSGPは意図的にセットにする方がよい。

 「計画」は、具体的な行動を定めること(あくまで理想的にうまくいったパターンとして)という側面よりも、その基盤になる現在の状況に関する整理された情報という側面が強調される。山登りでの地図(およそどんな地形で、どこに何があり、使えそうか)に相当する。一応推奨ルートはあるが、実際の行動のなかで絶えず見直しの対象になるわけだ。

 ちなみにこのような「計画」の理解は、L.サッチマンの研究でみられる(行為の意味づけや判断の資源として計画を見る)。これについては改めて考える機会をもちたい。

 目指すべき地点である「目的」と現状を整理した「計画」それらに沿って実際に進めるための「SGP」と棲み分けることで、戦略が完成するという見立てとなる。

 特に「目的」も「計画」もあるのに結果が出ない...という問題を抱えているときに「SGPが欠けているのではないですか?」という提案ができるわけである。

 以下は、以前に「経営者の頭の中を見せる」ことを提案したときに取り上げた記事で取り上げたコラムであるが(戦略の実態が「目標(かけごえ)のみ」になっていて、現場の人間が自分の行動、アイデア、決定等が戦略に沿っているのかどうか判断できていない)、「SGPの導入」はこれに対するもう一つの回答であるといえる。

「SGP:戦略実現への行動指針」とする

 SGPをさらに理解してもらうために、その日本語訳としては「シンプルな行動原則」「本質的な判断基準」などがあることも前回の記事で紹介した。

 SGPの価値を伝えるために、日本語表現を工夫していく必要があるだろう。

 上記のように基本を「目的」+「計画」+「SGP」で位置付けるならば、『「目的」+「計画」』の部分を「戦略」と読み替えて、戦略を実行性のあるものにするという位置付けを明確にするというSGPの性格を強調したいところである。そこで、「戦略実現への」という言葉をつけてはどうかと考える。

 さらに、SGPは戦略の実現のために個々の判断を助けるものとしてあるが、それは何らかの行動を喚起するためである。また、状況に照らし合わせて柔軟に使われ方も変化することが望ましいとされる(良い意味での解釈の余地)という点で不動の「価値観」とも違う。そこで「行動指針」という表現が良いのではないかと思う。

 これらを合わせて「戦略実現への行動指針」となる。

 前回の記事でも出した例と一緒に並べてみてみる。

<SGP:戦略実現への行動指針(例)>
・自分の邪魔をしない。
・返答するだけではなく、会話を進める。
・スピードを落として、息をすいこむ。
 Kristiansen, Per; Rasmussen, Robert. Building a Better Business Using the Lego Serious Play Method (p.174). Wiley. Kindle 版. を参考に作成。

 今回は、SGPの日本語説明表記について検討してみた。私自身、理屈は深掘りできても、言葉による表現はそこまで上手くないと自覚していることもあり、上記は現時点での暫定的な改善表現の提案として受け止めていただければと思う。 

(追記 2022年 2月6日)
 ブランドロジスティクス有限会社 代表取締役の小出正三氏から以下のようなコメントをいただいた。

「価値実現のための戦略行動」の方が「組織内の浸透」には良いような気がします。
たぶん、上の階層では「戦略」は生きた言葉だけど、会社全体では「価値」の方が(顧客志向で)通るんですよ。「戦略」を強調すると「上から目線」になっちゃう。SGPのボトムアップ感が失われるような気がします。
その上で「行動」の形容詞にすれば戦略が主役になることがなく(になると、下の人間は『道具』になっちゃう)、「俯瞰的、あるいは総合的によく考えられた」という意味にできる。
「戦略を実現する」のか?「価値を実現する」のか?
SGPにおける
・ボトムアップ
・想像を超えた出来事への対応
・つまり現場における即時即応性
・が、総合的な顧客への価値向上につながる
・レジリエンス
などからみると、後者の方が良いのではと思います。

 確かに「戦略実現」よりも「価値実現」のほうが組織への浸透は強くなると思われる。さらに、現代社会における企業に求められている機能という観点からみても、企業同士の競争を勝ち抜いていく「戦略」という言葉よりも、社会(と顧客)が望む価値の実現という点を強調することを考えると「価値実現」(もしくは「価値創造」)という表現のほうが優れているかもしれない。

 ただ、一方で「戦略論」は学術的な分野として確立されていることや、大所高所から考えるという意味合いが含まれている部分もあり、「価値実現」の活動がそのような観点から考えられているという点を強調するならば「戦略実現」を採用することにも理がある。顧客の要望にミクロレベルで応えることがどれだけ重要なのか、対象となる事業の性格によって表現を変えてもよいかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?