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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(7)真価を見出すインタビュー

 今回取り上げるのは「真価を見出すインタビュー(Appreciative Interviews:
AI)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 1時間もかからずに、どんな規模のグループでも、その成功に不可欠な条件のリストを生成することができます。隠れた成功事例が明らかになるにつれて、組織内から前向きな変化への自発的な勢いと洞察力を解放することができます。ポジティブなムーブメントは、今何がうまくいっているかを探し、成功を可能にする根本原因を明らかにすることによって呼び起こされます。普段の鬱陶しい問題提起ではなく、成功体験を共有することで、グループに活気が生まれます。現場からのストーリーは、足元の実情にあった解決策、有望なプロトタイプ、広範なイノベーションの社会的証明を提供し、成功パターンを認識するためのデータを提供します。資金援助、時間、技術支援に偏重し、成功を生み出す社会的支援への投資が少ないという組織の傾向を克服することができます。

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 問題ではなく、小さくても上手くいっていることに、注意を向け光を当てて、それを組織全体のポジティブなエネルギーに転換していこうという狙いを持ったLSである。

 「AI」は一般的には「人工知能(Artificial Intelligence)」を想起させる頭文字であるが、組織開発の領域に関わる人には「真価の探求(Appreciative Inquiry)」という手法を想起させることが多いだろう(そのまま「アプリシエイティブ・インクワイアリー」と表記されることもある)。このLSもその「真価の探求」をインタビューという活動に特に絞って行おうとするものとして解釈できる。いずれにせよ、その「真価の探求」を意識しているのは間違いなく、後述の「コツとワナ」の項目でも「真価の探求(Appreciative Inquiry)」への言及がある。
 本記事でも、それに合わせて訳語は「真価を見出すインタビュー」とした。

 なお「真価の探求(Appreciative Inquiry)」の詳細に興味のある方へは、以下の本がわかりやすいのでおすすめしておく。

5つの構造要素

1.始め方
 「他の人と一緒に課題に取り組み、達成したことを誇りに思う時のエピソードを教えてください。そのエピソードと、何がその成功を可能にしたのでしょうか?できればよく知らない人とペアを組んでください。」と投げかけましょう。
2.空間の作り方と必要な道具
・グループ数は無制限
・対面で座るための椅子、なおテーブルはあってもなくてもよい
・参加者がメモを取るための紙
・ストーリーや資産・条件を記録するためのフリップチャート
3.参加の仕方
・誰もが参加できるようにする
・すべての人に平等な時間と貢献の機会があるようにする
4.グループ編成の方法
・最初は2人組、次に4人組のグループ
・グループの構成員が多様であることを奨励する
5.ステップと時間配分
・一連の流れを説明し、テーマや参加者にどのようなストーリーを期待するかを明示する。3分
・二人一組で、順番にインタビューを行い、何がきっかけで成功したのかに注目しながら、サクセスストーリーを語る。各7~10分、合計15~20分。
・4人1組で、各自がペアのパートナーの話を再現する。参加者に、成功を支える条件や資産のパターンに耳を傾け、それをメモするように指示する。4人グループで15分。
・グループ全体が見ることができるように、洞察とパターンをフリップチャートに集める。必要であれば要約する。10-15分
・「成功を促進する資産や条件にどのように投資しているか」「もっとできることはないか」と問いかける。「1-2-4-All」を使用して、質問について話し合う。10分

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 まずは、問題ではなく、お互いのサクセス・ストーリーに耳を傾けることを強調して意識を向けさせる。そして他の人にそのストーリー(自分以外)を説明しながらその中の成功のポイントを掘り出していくところが興味深い。最後は、そのポイントをどう伸ばしているかを意識して、今後の取り組みを考えることにつなげていく。

 文中の「1-2-4-All」はLSの一つである。以下のNoteで紹介している。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・前向きに始めることで、建設的なエネルギーを生み出す。
・現場での成功体験の暗黙知を獲得し、広める。
・グループ全体が成功を収めるための道筋を同時に明らかにする。
・ポジティブな行動を期待することで、それを引き出すことができる(ピグマリオン効果)。
・仲間同士の学習、相互尊重、コミュニティ形成に火をつける。
・複雑な課題、厄介な課題を探求する許可を与える。
・新しい刺激的なグループの物語を作る。例えば、「我々はいかにして混沌から秩序を作っているか」。
・迅速なサイクルでインタビューを繰り返すことで、積極的に逸脱したローカルイノベーションを指摘することができる。

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「ピグマリオン効果」は、人は期待されることにより、期待されないよりもより良い結果を出しやすいという効果のことである。身近な人の成功を聞くことで、自分にもできるかもしれないという期待を自分にかけやすくなる。成功ストーリーをシャワーのように浴びることで、ポジティブなエネルギーを沸き立たせるということであろう。

コツとワナ
・倦怠感やネガティブなテーマを裏返すと、「ささやかでも成功したのはどんなとき?」ということになります。
・「私にあのときのことを話してください.... 」から始める。
・相手のストーリーにタイトルをつけてもらう。
・パターン化する前に、さらにペアインタビューを行う。
・参加者に(何が正しいか間違っているかという)判断をしなければということや、自分がどうしたらいいかとの考えが浮かんだとき、それを 「手放す(let it go
)」ように促す。
・物語およびパターンを皆に目に見えるようにしなさい。
・「真価の探求」の実践者たちからさらに学ぶ。    
 http://appreciativeinquiry.case.edu/

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 インタビューをして成功ストーリーを聞くといっても、実は簡単ではない。相手の話を受け止めて自分のものにするというよりも、どこかで自分の経験に照らし合わせて、そこに引き寄せて相手の話を解釈してしまうというワナがある。ここでは「手放す(let it go)」とアドバイスがあるが、それを行うには相応のファシリテーションが必要である。

 これに関して「付帯資料」として「インタビューの小技」がページの末に紹介されている。

 インタビューの小技
・対面式で膝と膝を突き合わせて座る。
・文脈を聞く。
 いつ、どこで、誰が、どのように
・聞き手が自分の経験を話さない。
・旅の詳細をしっかり聞き取る:現状、障壁、行動、驚き、逆転、発見。
・ドラマと深い意味が一つにまとまる瞬間を見つけよう。
・ひらめいたら、ストーリーを語っている人に魅力的なタイトルを提案する。
・ハイライトを再び話せるように、注意深く耳を傾ける。

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 どれも他のところでも話を聞くときには役に立てそうな小技である。

繰り返し方とバリエーション
・ストーリーのタイトルと条件・資産を、大きな壁掛けタペストリーにグラフィカルに記録する。
・最も感動的なストーリーをいくつか書き上げ、公表する。
・参加者が、行動変容の小さな例から、価値観の大きな変化や資源配分の変化〜あるいはその両方〜へと理解を飛躍させるようなストーリーを引き出そう。例をあげよう。
・ストーリーがどのようにグループのビジョンに生命を吹き込み始めたかを追跡する。
・4人ではなく8人のグループも可能です。
・「最小スペック(Min Specs)」で、将来の成功のために必要な「しなければならないこと」と「してはいけないこと」を検討する。

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここで出されたストーリーのブラッシュアップと保存方法はいろいろ考えられそうだ。図にまとめて理解しやすく再整理する他、ストーリーブックやクレドなどにするのもありそうだ。

 「最小スペック」はLSのひとつである。これを使って、計画や決まりごと、ビジョンなど日々の行動に影響を及ぼしそうなことにしっかりとここで見出された成功要因を結びつけることも意識しておきたい。

 事例
・顧客志向を実現するために、「顧客とクリエイティブでポジティブなやりとりをしたときのエピソード」を聞く。
・大学の授業の見直しに「ある授業や学習体験が人生に大きな影響を与えたときの話」を聞く。
・患者さんと医師の関係を修復するために「医療ミスの責任を素直に受け止められた時のエピソード」を聞く。
・NGOの信頼とモラルを高めるために「現場で役立つ機知をオフィスで体験したときの話」を聞く。何がそれを可能にしたのでしょうか?
・変革の取り組みが始まったその先を見据えるために「今後2年間の戦略の指針となるような、現場での最初の成功の話」を聞く。

”LS Menu 5. Appreciative Interviews (AI)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 事例を見ていると、単に漠然とその人のサクセス・ストーリーを聞くのではなく、普段あまり聞けないような話が出てくるように工夫したテーマ設定や問いかけの表現が必要になりそうだと感じる。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドと、この「真価を見出すインタビュー」は相性がいい。時間が許せば(このLSの実施標準時間は1時間とされている)、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでぜひとも実施してほしいところだ。

 なぜなら、普段目を向けない(すなわち意識にそれほど上がらない)経験や知識にフォーカスして、それを引っ張り出そうとするような取り組みだからだ。

 参加者のそれぞれが語るさまざまなストーリーの中にどのような共通点があるのかについても、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに沿えば、ブロックでポイントが語り手自身で表現されているため、聞き手による善悪の判断や聞き手に極端に引き寄せた解釈も入りにくい。

 ただし、モデルは作り手自身によって情報が整理されてくるので、基本的なことが抜けることがあるかもしれない。そこで、「インタビューの小技」で示されているように、モデルを見ながら、「いつ、どこで、誰が、どのように」のような基本事項や、「現状、障壁、行動、驚き、逆転、発見」のようなストーリーの構成要素は、ある程度、意識しながら話を聞き出すことが必要になるかもしれない。

 これらの重要な質問はカードにして参加者の手元におくことで、参加者の聞くスキルをカバーすることもできるだろう。

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