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弁証法的な思考をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使って体験する

 NHKテキスト 100分で名著『ヘーゲル『精神現象学』』を読んでいて、「主奴の逆転現象」という思考実験の話が出てきていた。

 大胆に簡素化すれば、以下のような思考実験である。

 個人がお互いに自身の自立性(ここでは自分の意思を貫くこと)を確保しようとする状況を想定してみる。
 皆が自分の好きなように自立性を享受したいと考えるとどうしても時間が足りなくなり、他の人の自立性を奪ってでも自分の自立性を確保しようとする。その結果、お互いに自分の自立性の確保をめぐって闘争になる状況に追い込まれる。
 その闘争の結果、最終的にどちらかが主人で、もう片方が奴隷になるという状態ができる。このとき、闘争に勝利した主人は自立性を確保し、自分のしたいことに時間を割き、それ以外は奴隷に奉仕をさせる。奴隷は主人の世話とともに、残った時間で自分の身の回りのことをしなければならない。
 このとき、主人は自立性を謳歌しているように見えるが、その自立性は、奴隷に奉仕させることで成立させている。そのため、奴隷抜きでは自立できなくなっているとも言える。実際には「自立的」ではない状態になる。逆に奴隷は、自立性のための争いに敗れ、主人に奉仕させられている立場になっているが、主人の奉仕の他、自分のことは自分で行うために、自分の意思を通す「自立性」が確保されるというわけである。

 このような話から、自立状態と非自立状態という相対する2つのことを同時に視野におさめ、それらを統合して物事を考える「弁証法」の必要性をヘーゲルは指摘したという流れで本は進んでいく。

 このような思考実験を、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークに落とすとどうなるだろうか。

 例えば、参加者を集めて、最初に世の中の良い側面を作らせる。次に、世の中の悪い側面を作らせる。

 そうすると、中に「社会では自由が認められている」という側面と、「ネットで自分の正義を振りかざし他の人を攻撃する(否定する)人がいる」という側面がでてくるということが考えられる。

 このような相互に反する2つのことがが同時に存在できる状態を矛盾なく捉えるのが弁証法である。したがって、2つのモデルを参加者が見ながら、どう関係しているのかを議論しながら新たな一つのモデルで表現する、もしくはそれが一つになる(対立が解消していく)解決策を組み込んだモデルを作ってもらうような感じになるだろうか。

 例えば、一つの落とし所として「自由を認める」と「自由の名のもとに他の人を攻撃する」の間に「相手の意見の尊重」という要素が組み込まれることによって「相手の意見の尊重をしない人に対してのみ自由をまもるために戦う」ということが想定される。

 一方で、2つの対立するモデルを材料にしながら、一つのモデルにもっていくことは何もないよりも圧倒的に考えやすいだろうと想像できる(ブロック表現が思考の促進要素になるという研究がある)。
 ただ、考えやすくとも、参加者が必ず一つのモデルにたどり着けることが求められるので(トライしたが一つのモデルにたどり着けなかったというのではやはりまずい)、そのためのファシリテーションの確立が課題だと感じる。

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