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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(5)9つのなぜ

 今回取り上げるのは「9つのなぜ(Nine Whys)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 驚くほどシンプルに、個人やグループの仕事において何が本質的に重要なのかを迅速に明らかにすることができます。その集まりに説得力のある目的が欠けている場合は、すぐに明らかにすることができ、明確でないまま前進することを避けることができます。集団が明確な共有目的を発見したとき、より多くの自由とより多くの責任が生まれます。あなたは、イノベーションを忠実に広め、拡大するための基礎を築くことになります。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 この方法を使うことで、参加者間であいまいになっていたり、バラバラになっている目的をすりあわせて皆の気持ちを一つにすることができるというLSである。

5つの構造要素

1.始め方
 まず「あなたは、○○(目の前にあるテーマや課題)に取り組むとき、何をしますか?活動内容を短くリストアップしてください」と求めてください。そして次に「なぜそれがあなたにとって重要なのですか?」と尋ねてください。続けて「なぜ?なぜ?なぜ?」 と、最高9回まで、あるいは参加者がこの作業の根本的な目的に到達して、これ以上深入りできなくなるまで問い続けましょう。

2.空間の作り方と必要な道具
・グループ数には制限はありません。
・テーブルや器具は必要ありません。

3.参加の仕方
・誰もが平等に参加し、貢献する機会をもたせます。

4.グループ編成の方法
最初はペア、次に4人グループ、そしてグループ全体と進めます(「1-2-4-All」の方式です)。

5.ステップと時間配分
・ペアになった人は、パートナーから1人5分間のインタビューをされます。「あなたは○○に取り組むとき何をしていますか?」から始まり、インタビュアーは「なぜそれがあなたにとって重要なのですか?」という問いを繰り返すことで、より深い答えを優しく探します。 5分後に役割を交代します。10分
・各ペアが4人組になり、そこまでの体験や気づきを共有する。5分
・グループ全体に対して、「私たちの目的は、私たちが取る次のステップにどのように影響しますか?」と問いかけ、振り返りをさせる。5分

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ポイントとしては、基本は相互にペアで「なぜ?」を効果的に織り交ぜながら、インタビューをして、その後「1-2-4-ALL」のLSと同じように共有の範囲を広げるということである。
 また、「なぜ?」を問う際に「より深い答えを優しく探す」というところも大事で、「なぜ?」が圧迫感に結びつくとそこから逃げようと、その場しのぎの答えを繰り返してしまう可能性があるからだ。この点については、ステップを踏むだけではどうにもならないので全体を進めるときに注意が必要そうである。
 なお「1-2-4-ALL」については以下の記事にまとめている。

実施にあたっての追記事項

 「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ、その目的なのか?
・そのグループのメンバーにとって本当に大切なものは何かを発見する。
・これからすることの土台を作る。
・ストーリーを通じて、組織の勢いに火をつける。
・少数の明確な答えを出すことで、より速く一緒に前進することができる。
・進行評価のための基礎を作る。
・誰を参加させるかを決める基準を作る。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 その場で仲間感覚を作るだけではなく、ワークが進むなかで参加者が「これはうまく行っているか」と確かめるための進行評価の基準を作るという点にも注目して導入したい。

コツとワナ
・安全で歓迎される空間を作る。
・楽しくやる:参加者に「自分の中の幼児になりきって」もらいながら、「なぜ」を繰り返し問いかける。
・続けること。思いやりをもって深く掘り下げる。「なぜ?」の尋ね方に変化をつける。例えば、「もし昨晩、眠っている間に夢が実現したとしたら、今日はどこが違っていますか?」と尋ねてみましょう。
・質問されたことが、「あなたにとって重要な理由」となっていることを確認する(不定形の組織やシステムではなく、「個人」としてのあなたである)。
・様々な反応を共有し、グループメンバー間の違いについて考える。どのような共通の目的が浮かび上がってくるでしょうか。
・誰かが行き詰まったら「何らかのストーリーが心に浮かびますか?」と尋ねてみる。
・非常に個人的な話が共有された場合、秘密を守る。
・9つのなぜ?を使って目的を明確にすることを、グループ内で日常的に行うようにする。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「なぜ?」を単調にぶつけるだけでは、早晩行き詰まってしまうイメージがあるため、上記のアドバイスは大変有益である。
 特に、尋ね方に変化をつける技術はいろいろなところで役に立ちそうだ。

繰り返し方とバリエーション
・短い感謝インタビューとこの「9つのなぜ」を組み合わせる。 インタビューから始めて、「なぜ、あなたが共有したサクセスストーリーはあなたにとって重要なのですか?なぜ、なぜ、なぜ?」と進める。
・小グループに、会話の中で「その仕事に時間とお金を費やす根源的な正当性」が出てきたかどうかを聞く。明確な個人的目的と地域社会における正当な理由があれば、取り組みが急速に広まる可能性があります。グループの活動を他者に強力に正当化する一文を目指してください。「私たちが存在するのは...だからである!」「私たちが存在するのは...を止めるためだ!」。
・ビジネスの文脈では「なぜ人々はあなたにお金を使うのでしょうか。」や「なぜリーダーたちは、あなたが自分の国で事業を行うことを望むのでしょうか。」と尋ねてみましょう。
・Whyを明確にした上で、Howの質問を10個追加してみる(答えるのが非常に簡単になる)。
・良い目的とは、決して閉じていないものです。 すべての人に貢献をしてもらい、あなたの仕事に対する最も深いニーズへの理解を相互に形成することで、ダイナミックで不完全なものになるのです。
・回答をポストイットに記録し、番号を振って、フリップチャートに貼り付ける。回答は三角形に並べることができる:上部に大まかな回答、下部に詳細な回答。比較し、報告する。
・「なぜそれがあなたのコミュニティにとって重要なのか」と問いかける。「なぜ?なぜ?なぜ?…」
・ウェビナーでチャット機能を使い、目的文の作成を始める:参加者は「9つのなぜ」の質問について考え、チャットボックスでアイデアを共有する。
「目的から実践へ」「生成的な関係性」「賢い群衆」「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」やその他多くのリベレーティング・ストラクチャーにリンクしています。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの

 ここでも「コツとワナ」に続き、さまざまな工夫が紹介されている。
 問いが文脈(ビジネスとかコミュニティとか)で変化するということは気をつけておきたい。
 また、さまざまな回答を集めて逆三角形に整理して貼って行く方法は、どこまで自分たちが深く内省できているかについて視覚化する良い方法だと感じた。加えて、最終的に「目的文」の作成も絡めれば、それだけで一つの完結したワークショップになりそうだ。

「賢い群衆」と「3つのW〜何があった?、それが何なの?、今からどうする?」については以下のNoteで紹介している。

 他のLSである「目的から実践へ」「生成的な関係性」などについては、改めて紹介することにしたい。 

事例
・共同研究組織を立ち上げるときに、説得力のある共通の目的を作り上げるために。全米7つの医療機関の代表からなる医療サービス研究ネットワーク「クオリティ・コモンズ」は、「目的から実践へ」というリベレーティング・ストラクチャーの1ステップとして「9つのなぜ」を使用しました。
・「トロイカ・コンサルティング」や「賢い群衆」を含む、あらゆるコーチングセッションの冒頭に使用することができます。
・新商品を発売する際の目的を明確にする。
・「デザイン・ストーリーボード」の各要素を固定するために、「なぜこの活動や要素があなたにとって重要なのですか?」「参加者間の交流にその活動は何をもたらすのか?」などと尋ねる。
・個人としてのあなたの目的を明確にするために使用する。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの

 上記では、他のLSと組み合わせて使う事例が散見される。「問い」に関するLSだけに組み合わせの仕方もいろいろと考えられそうだ。

「トロイカ・コンサルティング」については以下のNoteで紹介している。

「デザイン・ストーリーボード」などのLSについては、改めて紹介したい。

リベレーティング・クエスチョン

 この「9つの理由」では、「リベレーティング・クエスチョン」と題された問いの階層を図式化した資料もついている。
 こちらも日本語にざっと訳してみたのでここに掲載しておきたい。よくまとまっていると思う。確かに、このような問いの階層を意識しておくことはいろいろな場面で役立ちそうだ。

”LS Menu 3. Nine Whys”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 まずレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで最も「なぜ?なぜ?」がファシリテーターから出されることが推奨されている場面がある。それは「リアルタイム・ストラテジー」での「出来事のプレイ」における判断の正しさを検証する場面である。

 私自身、実際にしてみて、「なぜ?」を繰り返して参加者が良いインサイトを得られるようにするのはなかなか難しいと感じていた。
 今回、この「9つのなぜ」のことを見て行く中で、それだけでは反応が良くない場合には、優しく深く潜って行くイメージで「なぜ?」を問うたり、「リベレーティング・クエスチョン」の構造を意識して、事実(What)の確認から徐々に理由(Why)に近づいて行くように、問いの表現の変化をつけるという工夫もできるなと感じた。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、最初に共通の問いが一つ出され、それに答えるように各人が内省を深めながらモデルを作る。このモデルを作るときには、この「9つのなぜ」のようにペアで行うことは基本的にない。そこに、この「9つのなぜ」のエッセンスを取り込むのであれば、モデルを作る人自身が「なぜ」を意識してモデルを作りながら「なぜ」を自分に問いかけ、さらに表現を深めてもらうように導かねばならない。

 また、「出来事のプレイ」以外でも、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップのクオリティを上げるために、この「9つのなぜ」はいろいろと活用できそうだ。

 例えば、標準的なレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのコア・プロセスのうち、モデルを作ってその説明をしてもらうときにも、「9つのなぜ」を取り込むチャンスがある。作品を見ながら大事な部分に「なぜ?」を投げかけたり、次のように問うてみてはどうだろうか。

「全体の中で最も中核となる大切な表現はどれなのか」
「あなたにとって最も大事なことはどこに表れているか」
「もっとも大事なブロックの底にもう一つブロックが埋まっているとしたら、それは何を意味しているか」

 また、同じ問いに対して各参加者のモデルを持ち寄って、お互いのモデルの関係性について探る「ランドスケープ」のテクニックのときにこの「なぜ?」を意識し、「What」「How」「Why」が見えてくる逆三角形の配置を推奨するという方法はあるかもしれない。
 同じようなWhyを意識した構造化としてはサイモン・シネックの「ゴールデン・サークル」がある。こちらはWhyを中心とした同心円であるが、逆三角形のほうがやや並べやすいだろうか(ゴールデン・サークルは情報整理を目的としたフレームではないので当然と言えば当然ではある)。

「ゴールデン・サークル」については以下から本人による講演がある。

サイモン・シネック『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』【日本語字幕完全版】 - YouTube

 ワークショップの全体的な問いの構成を設計するときに、WhyーHowーWhatの関係性に沿って組むのは、有効な場合が多いと思われる。

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