見出し画像

女子大生風俗嬢~性とコロナ貧困の告白~中村淳彦著

一年前の「新型コロナと貧困女子」では、東京歌舞伎町を始めとしたネオン街を舞台に、令和2年2月ころからじわじわと日常に影響を及ぼしてきた新型コロナウィルスの大きな影響と打撃を受けた、これらの街に生きる貧困女性の悲痛な叫びを集めていた。

あれから一年、今回の書籍は風俗嬢に女子大生が圧倒的に多いことから女子大生を中心に、男子大学生、学生の母親、など大学を取り巻くさまざまな人たちの証言を聞いている。これら女性を主とした貧困取材からは、現在の日本社会の状況が見えてくるという。彼女らは綺麗に身をまとい、スマホも持つ。見た目からは全くわからない悲惨な貧困の状況はあまりにも恐ろしい。多分これまでの書籍の中でもいちばん悲惨さを出していると思う。

著者の中村淳彦氏は、「東京貧困女子。」(東洋経済新報社)「日本の貧困女子」(SB新書)「証言貧困女子」(宝島社)「新型コロナと貧困女子」(宝島社新書)といった貧困シリーズを出している。「東京貧困女子。」においては本屋大賞ノミネートになり、大学などの授業の教材にも取り上げられ、国会議員の多くに読まれ反響を及ぼし、今なお売れ続けている。中村氏の取材は、ひたすら聞くに徹する独特の寡黙的取材術である。『話を黙って聞くことは無限な可能性を秘めたクリエイティブな行為』ということで2020年には「傾聴クリエイター」という登録商標をとっている。

学生が貧困に陥る理由は、親世代のリストラによる収入減、学費の上昇、増税などの要因が重なることであり、親世代のリストラでは中年男性が貧困化するという事態になっている。これまでは労働者派遣法改正による非正規雇用の拡大で女性の低賃金が広がり、風俗や売春という道筋になる構図ができていた。

数々の取材で見えているのは、この中年男性のリストラで収入減から仕送りができなくなるという、唐突にお金がなくなるという事態だった。つまりごくごく一般の家庭で進学校に通う学生にも襲い掛かっていることだ。

それに加えて「受益者負担」という、学費は本人が負担するという考え方が浸透して、奨学金制度を使って進学するのが当たり前のようになっていること、これが数百万という多額の負債を未成年が背負うことになり、進学前から風俗の道に行くことを決意せざるを得ない状況だという。カラダを売らないと学生生活が維持できない、心身ともに疲弊しながら、これでいいのかと自答しながら送る大学生活はどんなものだろうか。

大学で学び資格を取りたい、というごく普通の学生たちは、かつての昭和のバブル時代の華やかな大学生活とはおよそ無縁な過酷すぎる日常を送っている。10年後20年後の彼女らの姿はどうなるのであろうか。

親である立場、教師である立場、一般社会の人の立場から、これらの現状を知り、国のあり方をどこからどうしたらよくなるのか、自分になにができるのか、を本当に考えてほしいと思う一冊である。実に悲惨なことが今、見えないところで起こっていることを私たちは知らねばならないと思う。



この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件