見出し画像

「ルポ池袋アンダーワールド」中村淳彦・花房観音・共著

ビビッドな装丁に目を引かれる。池袋ってそんなイメージじゃなかったから。中村淳彦氏の書籍ではよく池袋が登場する。異常者が多いとか、変態がいるとか、彼のテーマの貧困のネタも多そうな。
夜の池袋で取材すると昼間は介護の仕事をしているの、という女性もいたのだったか。どうも昼間とは違う顔を見せに来るのがこの池袋らしい。

本を開いた。
共著者の花房観音氏の岡本綺堂の話から、江戸時代からの池袋の怪奇さが解説される。戦後は処刑場があったゆえ、人がたくさん死んでいる。
今もそうだ、聞けば記憶にある数々の事件で人が死にすぎている。それも巻き込まれる格好で。
ビルから飛び降りる若者もあるらしい。
華やかに見える場所も背中合わせに死がある土地だ。

中でも首都圏連続婚活殺人事件の木嶋香苗のモテに対する花房観音氏の追求は興味深い。なかなか痛快である。
ブスデブな容姿で大金を男性から搾取できたこと。はっきり言って木嶋香苗には全く興味がなかったのだが。

そんな池袋になぜ人が集うのか。
お金が欲しい女子大生。誘われて話が違うと思いながらもピンサロにはまり込む。実家を追い出されて街娼になり、高齢者を相手にして生活する人。
さまざまだ。助けてほしくて助けてもらう。

中に挟まれる写真がなかなかいい。場所など気になっていたら丁寧に最後に解説されていた。ありのままのそこの瞬間を切り取っていて、見事だ。アンダーワールドに入り込めるこの人にしか撮れない写真だと感じた。撮影者は中村氏だろうか。(追記・このnoteを読んでくださった出版社の方から教えていただきましたが、写真は某写真週刊誌の腕のよいカメラマンさんとのこと)

東京は人間関係が希薄だと思い込んでいた。いや、当たっているかも知れないが、ここには断ち切りがたい人のつながりが感じられた。
でも希薄さもある。紙一重か。 

私は池袋を知らない。なのに行ったことがあるかのような不思議な錯覚を覚えながら読み終えた。

改めてビビッドな装丁に目をやる。
アンダーワールドを守る光を放っているように思えた。



この記事が参加している募集