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さよなら、フィジカルワールド

最近、世界3大広告賞の1つに数えられる「Clio Awards」と、今やその3大広告賞に肩を並べる存在となった「D&AD Awards」の今年の受賞作が相次いで発表された。

今週はそれらの受賞作の中で2つの事例が気になった。


国境なき記者団「The Uncensored Library」

1つ目の事例は、言論の自由の擁護を目的としたジャーナリストによる非政府組織「国境なき記者団」による「The Uncensored Library」。

情報統制を行う国の政府によって検閲された記事を閲覧することができる図書館を、3D​ブロックで構成された仮想空間の中でものづくりや冒険が楽しめるゲーム「マインクラフト」の中に開館したというものだ。

このバーチャルライブラリーではベトナム、ロシア、サウジアラビア、メキシコ、エジプトの5つの国で検閲された記事を読むことができる。
マインクラフトをプラットフォームに選んだのは、上記の国からもアクセス可能だからとのこと。

このライブラリーには、165か国、2000万人以上のユーザーがアクセスした。
この施策は790以上のニュースで報道され、国境なき記者団への寄付は62%増加した。

この事例は、クリオではデジタル / モバイル部門でグランプリに輝き、D&ADではExperimental部門やGaming部門でゴールドに相当するイエローペンシルなどを受賞している。


Xbox「The Birth of Gaming Tourism」

2つ目の事例は、Xboxによる「The Birth of Gaming Tourism」。

Xboxは旅行ガイドブックブランド「ラフガイド」と組んで、Xboxのゲーム内を旅行するための186ページに及ぶガイドブック『The Rough Guide to Xbox』を制作し、デジタル版を無料で公開した。

Xboxによると、これまでゲームのマーケティングはキャラクターや武器やアクションをアピールするものが大半を占めてきたが、そういったものに興味がない人にもゲームを楽しんでもらうため「旅をする」というゲームをするための新たな理由を生み出すことにしたとのこと。

この施策がローンチしたのは2020年1月だったが、その後すぐに新型コロナウイルスの蔓延により世界中で人々の移動が制限され、Xboxが提唱する「ゲーミングツーリズム」はより現実味を帯びることとなった。

このガイドブックは29か国以上で利用され、ゲームのトラフィックは55%増加した。

この事例は、クリオではブランデッドコンテンツ部門でブロンズ、D&ADではインテグレーテッド部門やエンターテイメント部門でイエローペンシルなどを受賞した。


フィジカルワールドからの脱却

2つの事例の共通点は、インターネット上のバーチャルワールド(仮想世界)を舞台にしているということだ。

それ自体はそれほど新しいことではない。

同様の事例としては、ハンバーガーチェーンのWendy'sが実施した事例で、Wendy'sのキャラクターがオンラインゲーム「フォートナイト」の中で暴れ回る「Keeping Fortnite Fresh」なんかが記憶に新しい。

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ただ、今回ピックアップした事例は、その中でもフィジカルワールド(物質世界)との対比が強く表れていると思った。

「The Uncensored Library」では、政府の情報統制が厳しいフィジカルワールドを避けてバーチャルワールドで情報を公開した。
「The Birth of Gaming Tourism」では、フィジカルワールドでの旅行が困難になったコロナ禍における新たな楽しみとしてバーチャルワールドでの旅行を提案した。

ふり返ってみると、近年めざましいVTuberの活躍や、コロナ禍を通して一気に進んだテレワークへの移行、そしてブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン)によるデジタルコンテンツ市場の活況など、私たちの生活におけるフィジカルワールドへの依存度はどんどん下がってきている。

この流れの行き着く先には、いつか人間の脳の仕組みが解明され、脳の機械化や意識のデジタル化に成功したら、人は肉体を手放してバーチャルワールドで半永久的に生きるなんていう時代が来るのかもしれない。


続きはClubhouseで

毎週月曜12:00から小一時間、「最近気になった広告的な何か」というテーマについてClubhouseで話し合っています。


最後まで読んでいただきありがとうございます。 この記事が何かのお役に立てば幸いです。