ドライフラワー屋さんで働いています。

このアナベルをください。

お買い上げいただいたのは、
柔和な印象のおばあちゃんだった。

「これをね、短く切ってこんなぐらいの器に
入れて飾ろうと思って…一本で足りるわよね?」

彼女は、両手でお椀の形を作りながら語った。

「はい。アナベルはボリュームもありますし、
おひとつでも十分だと思います。」

「そうよね。」

そう言って嬉しそうにお会計される。

「あのね。ここのこと知ってて、今日は御影から来たの。」

「そうなんですか?
わざわざありがとうございます。」

電車であれば乗り換えないと来られない位置だ。お花が好きなようだった。

「ありがとうね」

そう言って立ち去ろうとしていた彼女は、
ふと、花瓶挿用のブーケが目に入ったようだ。

「これいいわね。秋らしいわよね。」

手に取ったのは
シックな紫色のバラと、
白っぽいアストランチア、
細く分けられたパンパスグラスの
シンプルなブーケだった。

「これ、フランス製の口の細ーい花瓶に
入れようと思って。」

お家にある花瓶を思い出し、
ぴったりだったようだ。

「バラが好きでね。家中バラだらけなの!」

うふふ。と声が聞こえそうなほど
うきうきした様子で語る。

「素敵ですね。」

バラのブーケも手に入れた彼女は
嬉しそうにお店を出て行った。

柔らかな日差しの入る部屋で
お気に入りの器やお花に囲まれ
満たされた表情の彼女を想像する。

またのお越しをお待ちしております。


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