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喜界島草舟プロジェクト

喜界島で草舟制作を実施!

2022年3月23日、24日の2日間、喜界島で草舟の制作が行われました。今回はイベントの様子を盛りだくさんでお伝えします。


「喜界島草舟プロジェクト」
日時:2022年3月23日(水)、24日(木) 9:00~17:00
場所:喜界島スギラビーチ
主催:喜界島サンゴ礁科学研究所
後援:喜界町、喜界町教育委員会、文部科学省科学研究費助成事業・新学術     領域研究(研究領域提案型)2019年度~2023年度「出ユーラシアの統合的人類史学‐文明創出のメカニズム」‐研究計画「人工的環境の構築と時空間認知の発達」
全体参加人数:約50名


 
そもそもなぜ喜界島サンゴ礁科学研究所が草舟を作ることになったのでしょうか?国立科学博物館が台湾~沖縄間で行った『3万年前の航海徹底再現プロジェクト』では、人類が日本の南西諸島に南から渡ってきたことを実証する実験が行われました。その際に草舟の実験に関わっていた冒険家の石川仁さん(以下、仁さん)と南山大学・後藤明先生が喜界島に来てくださることになったのです。仁さんは今後、太平洋航海のプロジェクトを控えており、その前の準備の一環としてサンゴ研と一緒に活動していただけることになりました。自然科学に限らず様々な分野で研究・教育・普及の活動をしているサンゴ研とKIKAI College、今回は草舟制作を通して島の歴史や人類学、資源などの学問に興味を持ってもらえるきっかけを提供したいという願いのもと、イベントが実現しました。

喜界島のススキ

まず行ったのが、素材や道具の検証と設定です。どんな実験を行うのかをサンゴ研の様々な研究者と学生、仁さん、島の方々で議論しました。喜界島には刳り舟に使えそうな大きな木材は存在しないため、太古の時代に草舟が利用されていた可能性も考えられます。しかし、様々な植物がある中で何が使われていたのでしょうか?ススキ、荻、ネピアグラスなどがある中で、おそらくススキは古くからこの島に自生しており、資源として利用されていただろうという結論になりました。ススキは昔から集落の共有財産として土地に植えられていたり、ススキ箒を作ったりという話が上がったり、島にはススキを使ったシバサシーという祖先行事もあります。一方で荻やネピアグラスなども立派で繁殖力が強いため、その後の時代に資源として導入されたことがうかがえます。太古の時代がどうだったのか、本当の詳細は誰にも分りませんが、喜界島の資源を使って舟づくりを実証することで何か見えてくるかもしれません。

刈った草を束ねるルーカス

材料が決まれば後はひたすら草を刈っていきます。仁さんから課された量は、直径20cmの束を60束。屈強なルーカスでも悲鳴を上げます。しかし、現代はカマやビーバーがありますが、当然太古の昔は、カマはおろか鉄器もなかったはずです。実際にサンゴや貝殻、火成岩を石器と見立てて草を切ってみる実験もしました。

想像以上に切れ味があることはわかりましたが、それにしても舟になるほどの草を刈るのは大変です。昔の人は、そこまでして海に出る理由があったのでしょうか、それとも今に劣らない技術を持っていたのでしょうか。謎が深まります。また、竹の皮は素材として強度があることや、昔は芭蕉の葉をため池に浮かべて舟にして遊んでいたことなど、準備が進むにつれて地元の方からも様々な知識や感覚が集まってきて楽しいです。

草を刈ったら、浮力を確保するために3週間ほど乾燥させます。スギラビーチも大量の草が干してある異様な光景になっていました。

こうして材料の準備が整い、イベント当日を迎えました。まだこの草が舟になって海に出られるということは仁さん以外、誰も想像がつきません。今回はイベントで2艘の舟を制作します。1つは学術的視点に基づいて西アメリカのセリ族が使っている古代舟の再現を目指します。もう1つはデザインを公募し、喜界島バージョンとして双胴船タイプのものを作ることになりました。初日は仁さんから草の縛り方を教わり、2つの草束を1つにしてそれをいくつも束ねてという作業の繰り返しでしたが、慣れてくると参加者の皆さんもいつの間にか、昔から舟を作っていたように手際よく草を束ねていました。

参加者で力を合わせます

そして2日目、初日は曇りのち雨で肌寒かったのですが、この日は快晴で草舟日和となりました。この日も朝からみんなで、急ピッチで作業を進め、そしてお昼を前に1つ目のセリ族の舟が完成しました。

完成した1艘目の舟
先生方も楽しそうに記念撮影

もう1艘の舟も昼過ぎに作り終え、進水式を行っていよいよ乗船開始です。果たして喜界島のススキを束ねて作った舟は海に浮かぶのでしょうか。結果は、見事浮きました。しかも安定感抜群です。草を束ねて海に出る夢のあるプロジェクトに大人も子供も大はしゃぎでした。ちょうどスギラビーチの奥には奄美大島がくっきりと見えており、このまま渡りたくなってしまいます。天然素材100%の舟は海に浮いている感覚が心地よく、自然の一部になれたような気がして自然と笑顔があふれてきます。

山崎先生と後ろで漕いでいる冒険家の仁さん
舟は3人乗っても安定感抜群
海もきれいで快適です

完成した舟は、私たちが親として生み出したものであり、作って終わりではなく舟のその後を考えることも大切だと仁さんは話します。サンゴ研では作った舟を中間集落のカレッジの土地へ運びました。舟が土地の一部として、また中間の土地がいろんな人や知恵が集まる場として機能するようになればいいと思います。


舟は現在、中間集落のCollegeの土地にあります。

今回もたくさんの方にご協力をいただき、みんなで力を合わせて草舟を作ることができました。イベントは大成功です。今後はこのプロジェクトを『古代船プロジェクト』と称して、草舟に限らず様々な舟を試して実験していきます。また、学術的な意義を深めるために、果たして本当に刳り舟になるような木材がなかったのか、どのような形状の草舟が使われていたのか、どれくらいの年代を想定するのかなどを検証する必要があります。奄美のような山が発達した島とサンゴの島では資源の利用の方法が違った可能性もあります。次はどんな舟でどこを目指しますか?この記事を読んでいるみなさん、挑戦者募集中です!

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