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ChatGPTによるGoogleの緊急事態宣言

ChatGPTのあまりの人気ぶりに、Googleが「Code Red」を宣言したとNew York Timesが報じました。Code Redとは、「厳戒警報」、「火災警報」などの意味があります。要するにこれはGoogleにとっての「緊急事態」なのだと。この記事がTwitterやRedditで取り上げられ、様々な憶測が飛び交いました。

そして、ChatGPTを発表したOpenAIの背後にはMicrosoftの存在が見え隠れします。広告収入に頼るGoogleとそうでないMicrosoftと競争。MicrosoftはOpenAIを武器にチャットボットのスペースでGoogleとどう戦うのでしょうか。考察してみました。

ChatGPTの脅威

「チャットボットの新技術がこれまでのサーチエンジンを置き換えたらGoogleにとっては主要な収益を失う最大の危機だ」というのがChatGPTの脅威の真髄です。誰もGoogle検索を使わなくなったら広告を売ることもできません。

以前の記事で紹介したように、ChatGPTに聞けば知りたいことを直接答えてくれるし、会話を通して深掘りしたりもできる。何より経験として楽しい。しかし、ChatGPTの回答には事実に反することが含まれていることも多々あるのでGoogle検索を今すぐに置き換えることは不可能です。

ただし、将来的には可能になるでしょう。技術は進歩するものですから、特に近年のAI技術の進歩度は目を見張るものがあります。ChatGPTの後ろにMicrosoftのBingを置いてみてはどうでしょうか。たちまちChatGPTの返答に関する信憑性が上がるでしょう。

New York Timesの記事によると、Googleのある幹部は「新しいチャットボットの技術はGoogleの生き残りに関わる問題だ」と述べたそうです。

また、GoogleからOpenAIのChatGPTやDALE-EのようなキラキラしたAI技術が現れてこない印象が固定化するのも不安材料でしょう。エンジニアや研究者の働き先としての魅力を失うと優秀な人材を得られないだけでなく、人材流失にも結びつきかねません。

しかし、Googleも何年ものあいだチャットボットの開発をしています。それもかなり優秀なものであることは間違いなさそうです。なぜ公開しないのでしょうか。

ラムダと広告収入ビジネス

今年の夏頃に話題になったラムダ(LaMDA、Language Model for Dialog Applications、会話のための言語モデル)は、エンジニアのBlake Lemonieが「感覚を持つ」とまで主張することでニュースになりました。彼はBloombergでテレビ出演してその主張を広げましたが、最終的には認められずGoogleから解雇されました。

しかし、そこまで優秀なチャットボットを開発しておきながら、なぜそれを検索に応用しないのでしょうか。チャットボットとGoogle検索を組み合わせればかなり優秀なデジタル・アシスタントになりそうですが。

一つの理由としては、Googleの幹部が従業員に対し述べたと報告されているようにチャットボットが嘘の情報やヘイトスピーチなどを通じて風評リスクの原因になることをあげています。それに関する記事が発表されたのは12月15日ですが、上述のNew York Timesによる「Code Red」の記事は12月21日のものです。一週間の内にChatGPTの人気はますます上がるばかりでした。表面上は平静を装って内心は穏やかではないのかと勘ぐりたくなります。

本当の問題は、チャットボットに広告をうまく載せる方法がまだ見つかっていないためかもしれません。つまり、チャットボットを公開することで自らのビジネスにダメージを与えることを恐れている。

Google検索ではキーワードに関連した記事を表示する上に広告の記事が表示されます。また、多くのウェッブサイトは、Googleによる広告が貼られているのが現状です。ところが、チャットボットを使うと全く広告がありません。少なくとも、ChatGPTの現状はそうです。そんなライバルと戦いつつも広告を載せるのは可能でしょうか。

例えば、チャットボットとの会話の中に広告を挟んでいくのはどうでしょうか。ユーザー経験の観点からすると不自然でしょう。昔見た映画の「トゥルーマン・ショー」を思い出しました。テレビの番組の中で育てられたトゥルーマンの妻が突然ある商品の宣伝を始めるシーンでトゥルーマンがびっくりして「なんでそんなこと唐突に言い出すんだ」と目を見開く場面。

まとめると、おそらくGoogleはチャットボットをどう利用すれば良いのかまだ決めかねている。同時に、チャットボットを公開することで広告収入に影響が出るのを懸念していた。そこへ、ChatGPTが登場し旋風を巻き起こした。

反して、OpenAIはより良いAIの技術をサービスとして提供しており、そこには広告収入に頼るビジネスモデルはありません。Google検索を不要にするほどのより正確な事実を返答できるチャットボットを作れる可能性はあります。そこにMicrosoftが絡んでいるとしても不思議ではありません。

Microsoftの視点

もう一つの観点として、Microsoftの存在もあります。Githubを所有するMicrosoftはOpenAIと協力してCopilotというプログラミングの援助機能を提供しています。非常に優秀なコード生成能力を持ち、私も料金を支払い使用しています。以前よりGoogle検索に頼ることがだいぶ少なくなりました。今ではなくてはならないツールの一つです。

MicrosoftがOpenAIと手を組んでいるということは、Microsoftの検索機能であるBingにChatGPTのような会話型チャットボットを組み込むことが考えられます。Microsoftにとって広告は主な収入源ではありません。また、Microsoft Officeに組み込んでも良いでしょう。

実は、Microsoftは2016年にチャットボットで失敗しています。タイ(Tay)という名のチャットボットはTwitter上で公開されましたが、一部のユーザーによって不適切な会話をするように調教されてしまい、最終的には公開が取り下げられてしまいました。

さらに遡ると、Microsoft Officeにはペーパークリップやイルカのデジタルアシスタントがありました。これらは会話型ではありませんが、インタラクティブなものを目指していました。つまり、彼らのビジネスにとってインタラクティブなヘルパーはユーザー経験の向上に役立つ機能になる可能性を秘めているのです。

これまであまり成功して来ませんでしたが、OpenAIと連携したCopilotの成功体験やChatGPTの凄まじい人気を通してMicrosoftがさらに大きな獲物を狙っていてもおかしくはありません。

チャットボットをBingと組み合わせ素晴らしいユーザー体験を提供できれば、Google検索の牙城を崩すチャンス到来になります。Microsoftとって宣伝すべきは、自社のクラウドサービスや製品群なので問題ありません。さらに、Officeなどに組み込んでシームレスな経験を提供できれば尚更でしょう。

次の一手はどこから?

来年2023年5月のGoogle I/Oで新しいチャットボットの発表があるかもしれません。それともGoogle検索に徐々にチャットボットの機能を加えていくのでしょうか。もしかしたら、デジタルアシスタントとしてGmailに組み込まれるのかも。

ビジネスの大部分を占める広告事業の基盤の検索エンジンを大幅に変更することは考えにくい。よって、徐々に言語AIの技術を取り入れて改善していくのは真っ当な道です。ただし、それで競合と立ち向かえるのか。そこがリスクでもあります。

もちろん、こんな予想をしてもあまり意味はありませんが、Googleからなんらかのサインが出てきた時に注目してまた考察してみたいと考えています。

そしてMicrosoftがどう動くかにも注目しながら、OpenAIの挙動も見守っていきます。

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