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365短歌(2022)

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2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
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2022年4月の記事一覧

連作 半分に聞く

桜貝みたいな舌を秘めきみは僕の話を半分に聞く 目が合えば好きだと言える月光に雲雀を追ってきみの瞳は 窓の外に烏揚羽が見えたから八秒前で止まった時計

連作 扉から洩れるひかり

滲まない赤い口紅塗り終えてまだ変わりたいとつよくおもった 心から愛してみたくて鏡像とはじめて深く目を合わせている 扉から洩れるひかりの前に立つ開ける勇気が出るまで待って。

連作 花から逃げる

花からは逃げてきたような人生でそれでもきれいになりたいよ春 化粧水のましろい匂い くちびるが舐めてはだめと唱える鏡 長袖しか着られなくても夏が来る 醜いわたしに直射日光

連作 ひとりの夕焼け

ふじやまと呼ばれる遊具に腰掛けてひとりの校庭ひとりの夕焼け 夕焼けを滲ませてゆく画用紙にこぼした水はいつもつめたい またねってやまびこみたいに言ってみてやまびこみたいに消えていく影

連作 海と火とかみなり

ぼくを呼ぶかつての友だちだった声海は寄せたら返すのはなぜ どうかしているのだ胸のまん中が苦しくて火に近づける腕 かみなりが落ちるものならなぜぼくを恋に落としてくれないのですか

連作 祈りはとうめい

約束がひらめく曇りの昼下がりぜったいなんてないことを知る 叶わない約束でもいい 生きていて、そう願うたび息が苦しい 不織布のマスクのなかでくちずさむ祈りはとうめいグロスの匂い

連作 心もとない火

すこしずつわたしを切り離してゆけばひとつくらいは詩になる肉片 恋愛ができる自分をかんがえる裸のこころは透明でした しけってるマッチの心もとない火みたいにだんだん孤独に慣れる

連作 今日は晴天

ジャケットのすそを直して君はまだ遠くへ行こうとしている気配 助手席から見える変哲のない景色8mmフィルムのように観ている 潮風になるスポーツカーあおいろのクレヨンに似て今日は晴天

連作 あたらしいTシャツ

忠告のように止まれの標識がわたしの恋路のあちこちに立つ 君という蝶々を追うわたしさえ地球で惑わされている春 あたらしいTシャツを着てわたしだけ視界がスプラトゥーンみたいだ

連作 ショートヘアー

百均の鋏でざっくばらんに切るショートヘアーは似合わせるもの ハッカ飴舐めたみたいな首筋を涼しいだけの風がふれてゆく 僕のこの空いたうなじを君の手で絞めてくれ春色の希死念慮

連作 妄想⇔現実

妄想であなたと一度目が合った、トマトソースを煮詰める真昼 インストをリピート再生していたら終わりが見えない宇宙みたいだ 現実で逢えるのはいつになるだろう とりあえず食う二人前の麺

連作 八合目まで届きたい

好きな目に、好きな容姿に、好きな声 無限につづく君のかけ算 君のいる八合目まで届きたい人より丁寧に結ぶ靴紐 いつかとは叶えるために言う言葉 いつかは君のために取っておく

連作 塗りたてのベンチ

死にそうになる両胸で弾んでく鞠のかたちの桜の花たち えいえんは指を絡めた塗りたてのベンチにふたり、マウントレーニア 立ちあがれば夜空に近くなる君のくちびるがそっと月にぶつかる

連作 ライラック

ライラック あなたが好きな紫の麦わら帽子を被った女 嘘をつくときだけあなたはドラム式洗濯機だけ回してくれる 花束はすこし萎れていてきっとわたしのようにじき捨てられる