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三首以上の連作短歌

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藤春葵花が投稿した連作短歌のうち、三首以上の連作短歌をまとめたマガジンです。まだ、『春生まれではない(四十首)』の記事しかないです。今後増える予定です。
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#現代短歌

連作 風だから(十首)

繰り返し叩かれて強くなる鉄のようで君から引き出した色 野良猫のような訛りを聞きながら急勾配の坂道を往く ハンガーにコートを掛ける体温を残してくれない雪解けの君 水星の有刺鉄線のような眼で髪型変えたと尋ねてくれる 君だけが知っていればいい癖のこと終末みたいなルーフバルコニー 雨だって駆けだしていくうれしさで君の怒りに揺れる手を見る 好物が似ていないのがほんとうに他人って感じ パフェのさくらんぼ 手のひらが寄せては返す波ならば一億年後も笑わせている なにもかも知っ

連作 春生まれではない(四十首)

まなうらの息のできなさ 恋と愛 悲鳴のようにネイルがずれる ままごとのよう心臓に感情を覚えさせたくなかった夜明け 中指のブラックリングが揺らいでる海の深さで窒息をする 隣室の住人みたいに遠ざかる星 なにひとつ手に入れられない 深々と抱きしめられる 黎明のような毛先でわらってくれるな 君という感情 春の階段を上がった先に靡かない骨 直立のうつくしいひと 頑なな鎧のようで最初の萌芽 落涙の跡をぬぐっていくような低い声から生まれる酸素 リネンでも拭き取れなかった横顔の君をあらわす数