珈琲とナポリタンのお店。3杯目

いらっしゃい。

今日はどこかで買い物かい?
…個展?へぇ、アートに興味があるなんて知らなかったよ。
誰の個展を見に行ったんだい?

んー、、知らないなぁ。
ごめん、実は絵は全然分からないんだ。

店に飾ってあるのも妻が買ってきてくれたものなんだ。
植物くらいしかなくて寂しいから、ってね。
お陰で殺風景な喫茶店にならずにすんだよ。


はい、おまたせ。
それと、お砂糖とミルク。どうぞ。

目当てだったアーティスト以外との出会いか…。
なんだか素敵だね。
その人はどんな絵を描いてるんだい?

とても綺麗で繊細な、でもドンっと大きな意思を感じる絵か…。
確かに、君が好きそうな絵だね。

ん?アハハ、絵だけじゃなく、描いたその人も好きになっちゃったのかい?
フフフ、なんとも君らしいな。

なに、好きになった事を悩んでるのかい?なぜ?

んー、一生懸命描いた絵よりも本人に気が行ってしまった、か…。

その人に気が行ったとして何も不純じゃないと思うんだ。
だって君は、絵に込められた魂に惹かれて入って行ったんだろう?
絵は描いたその人そのものだ。本人を好きになったって不思議じゃない。

絵を見て欲しくて個展を開いてるのに、その人ばかり見てたら嫌われてしまう?
そうだねぇ。
じゃあ絵を観ればいいじゃないか。
君はその人の魂を絵から感じられたんだ。そして惹かれた。

その人の絵を知ることはその人自身を知ることにならないかい?
自分の表現したものを好きになられて、嫌な人はいないと思うけどね。

まあ、まずはその人の活躍を願って応援し続けられたら、君の魂も相手に伝わるんじゃないかい?

…本当に伝わるかどうかは分からないけどね。

いやいやゴメン。冗談だよ。


そろそろ帰るかい?
うん、頑張って。また次来てくれるの楽しみにしてるよ。



…おや、今日はいつもより砂糖とミルクが減ってる。

フフ、恋だねぇ。


#短編 #小説

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