アンティークベア
古時計が明日を告げる。
僕は今日もここで君を待っている。
大人になった君は、
僕のこと、忘れてしまったのかもしれない。
でも僕はちっとも寂しくなんかないよ。
だって、君と僕の思い出は、
今日も空に瞬くこの星の数より、
もっともーっと、
たくさんあるんだ。
桜の公園に空高く舞い上がるブランコ。
突然の雨、銀杏の木の下で雨宿り。
金木犀の香りに誘われ、
風を切って進む自転車から見た、茜色の夕陽。
さようならの体育館で、
君が奏でたグランドピアノ。
海沿いのドライブではしゃいだ、
オレンジレンジ。
テールランプのキャンドルと、
夜空を彩る遠花火。
瞳から溢れた大粒の涙。
こんな僕にも
君に出来ることはあったのかな…。
やがて、結ばれた赤い糸。
旅立つ君を、
僕はここで見送った。
僕は君と一緒ならいつも幸せだった。
思い出のひとつひとつが色褪せず、
この胸でキラキラ光るんだ。
みんなを幸せにする、
君の笑顔が大好きなんだ。
だからね、僕はちっとも寂しくないよ。
でも、いつか、
いつかもしも、僕を思い出したら、
またあの頃みたいにギュッと抱きしめてほしいんだ。
ポカポカの心で、僕も君をハグするからさ。
風待 栞
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