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パリと、北欧と、それから。

思い立ったが吉日、先日年下の友人と1年ぶりに飲みに行った。この友人は、僕に原田マハさんを教えてくれた、その人である。

彼はいま大学生。スポーツ堪能で、水泳、自転車、クライミングにボートと、いろんなスポーツを嗜んでいる。今はもっぱらクライミングと、そしてアルバイトに明け暮れているらしい。というのも、どうやら来年留学をするようなのである。そのための資金を、コツコツとためているというわけだ。彼の留学の目的地は、パリ。そう、たゆたえども沈まない、あのパリである。「たゆたえども沈まず」を読んでから、僕の中のパリへの思いがふつふつと沸き上がっている。

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思い出してみると、僕は高校の入学試験で、今どんなことをしてみたいかと言われて「フランス語を学びたい」と話していた。きっかけは忘れてしまったけれど、当時僕はフランスにかなりの憧れを抱いていた。大学生になってもその憧れは続いていて、実際に第二言語ではフランス語を選択したし、カバンにエッフェル塔のキーチャームをつけてみたり、新婚旅行ではパリに行ってルーブル美術館に入り浸りたいと公言したりしていた。けれど、結局パリにはまだ足を踏み入れたことがない。パリに行く前に、北欧の魅力に取り憑かれてしまったのだ。

きっかけとなった大学4年生の夏、僕はひとり、北欧にいた。周りの友人らが、韓国やら東南アジアやらを旅行に行っていて、なんだか羨ましくなった僕は、一人で海外旅行をしてみようと思い立ったのだ。行き先はなんとなく、ヨーロッパがいいと思っていた。そのころ、ヨーロッパではテロが何度か起きていて、なるべく安全そうな街を探していた僕が行き着いたのが、北欧だったのだ。

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ほとんど英語が喋れないくせになんとかなるだろうと、今思えば無謀な冒険に出たものだと思う。でも、北欧の街はそんな僕もそっと見守ってくれた。

フィンランドでは、かもめ食堂に行こうとバスに乗っていたら、地元のおばさまが話しかけてきた。
「あなた、日本の人?かもめ食堂に行くの?」
イエスと僕が答えると、「よく、日本から見に来る人がいるのよね」と、降りる停留所を教えてくれた。おばさまのおうちはかもめ食堂の近所らしく、一緒にトラムから降りると、「こっちの通りよ」と場所まで教えてくれて、そしてひらりと手を降って去っていった。
マリメッコのアウトレットでは、同じく一人旅中の女性にあって一緒に本社の食堂でランチをした。アパートを借りていて、そこに友人も来るそうだ。ツアー会社のパッケージプランで旅行をしていた僕よりも、一歩先を行く姿が格好良かった。関西の人らしく、あのとき連絡先を聞いておけばよかったなと、今でも後悔している。

スウェーデンでは、ホテルへ行き着かないかもと思うことが起きた。旅行会社から渡された地図では、電車に乗ってホテルのある街まで行くようにと書かれていたのに、なんと、その電車が廃線、もしくは、ストライキでもあったのかも。とにかく、動いていなくって、どうにもならなくなってしまったのだ。困り果てた僕は、片言の英語で案内所のお兄さんに話しかけたのだけれど、忙しいようで相手にしてもらえなかった。ストックホルム中央駅を歩きまわって、空いている案内所を見つけてお姉さんに助けを求めると、バスに乗るようにと教えてくれた。
バス停までなんとか行き着くと、ちょうど目当てのバスが来ていた。どうやら郊外のベッドタウンの方に行くバスらしく、大勢の人が乗っていた。本当にホテルまで行きつけるのかしら、と不安に押しつぶされそうになっていたとき、隣から日本語が聞こえてきた。
「あなた、一人なの?」
そちらを見ると、子連れの夫婦のうち、奥さんのほうが話しかけてくれていた。顔を見ると、あぁ、久しぶりにみるアジア系の顔。日本からスウェーデンに嫁いできた方だった。僕のスーツケースのベルトに、日本語で名前が書いてあったのに気がついて、話しかけてくれたという。事情を話すと、「降りるバス停が来たら、教えてあげる」と言ってくれて、僕は無事、目的地のバス停に降りることができた。

***

あぁ、英語が話せるようになった今だったらもっと楽しく北欧を回れるのになぁと思いつつ、でも、そうであったら出会えなかった人がいる。今は子供が小さいから難しいけれど、またいつか一人旅をしてみたい。厳しさと優しさに触れて、僕はまたあしたを頑張れる気がする。

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