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#001 ドージャ・キャットは悪魔に魂を売ったのか( Doja Cat / Paint The Town Red )

やっほ、キイテミです。
「これ、聴いてみ?」のノリでおすすめの音楽を紹介します。

さっそく紹介するのは、先日リリースされたばかりのドージャ・キャットの新曲『ペイント・ザ・タウン・レッド』です。

キーワードは「悪魔」です。



ドージャ・キャットは悪魔に魂を売ったのか

おっと。
いきなり「悪魔」とか「魂」とか、なんとも怪しいですよね。
でも、きょうの重要なテーマなんです。とりあえず話を前に進めますね。

ドージャ・キャットはアメリカ・ロサンゼルス出身のシンガーソングライター・ラッパーで、キャッチーな楽曲や、ユーモラスな言動で人気を集めています。グラミー賞を受賞していることからもわかるように、その実力は折り紙つきです。

そんなドージャ・キャットにまつわる都市伝説的なウワサ、それが「悪魔に魂を売ったのではないか」ということです。


悪魔との契約とは・・・

え?
「悪魔」とかいきなり言われてもピンとこない?
おーけー。そんな人のために少しだけ話を脱線します。

悪魔との契約のイメージ図

おれには悪魔なんてカンケーないやいと思うかもしれませんが、周りをよーく見てみると、悪魔に「たましいをあげるかわりに、つよいちからをもらう」という話はそこらじゅうに存在しています。

日本でいちばん有名なのは、スタジオジブリの『ハウルの動く城』でしょうか。

ストーリーの途中で明かされるのですが、ハウルは空から降ってきた流れ星を飲み込んで、特別なちからを手にいれます。

まさにこれこそハウルが悪魔と契約を結んだシーンです。契約相手はカルシファー。かわいらしくデフォルメされていますが、彼はその名前があらわす通り、悪魔(ルシファー)なのです。

世界一かわいい悪魔


音楽と悪魔

そして、音楽と悪魔にはふかーい関係があります。

古くからの言い伝えで、悪魔は人をとりこにする音楽を知っていると考えられているからです。それゆえ、アメリカの音楽業界で商業的に成功すると、かならず「悪魔に魂を売った」と世間からウワサされることになります。

かつてのスターたちは、そういったウワサを笑い飛ばしたり、否定したり、ときにはうまく利用したりしてきました。

ドージャの場合

それでいえば、一気にスターダムをかけあがったドージャ・キャットに「悪魔との契約」のウワサがついてまわるのも、当然といえば当然かもしれません。

ただ、ドージャの場合は、腕や背中にいれた悪魔的なモチーフのタトゥーがそのウワサに拍車をかけていた、ということもあるのですが。

ドージャの腕のタトゥー


『ペイント・ザ・タウン・レッド』 はそのウワサに対するアンサー

やっと本題に戻ってきました。
きょう紹介するドージャ・キャットの新曲『ペイント・ザ・タウン・レッド』は、そんなウワサへの痛快なアンサーになっています。

もうたまんない。これは最高のひとことに尽きます。

すでに曲を聴きたくてうずうずしちゃってる人は、もうこの先は読まなくても大丈夫です。どうぞ、こちらのことはお気になさらず。

もっとこの曲のことを知りたい、と思った人は、あと少しだけお付き合いください。

3つの「らしさ」

『ペイント・ザ・タウン・レッド』のどこがいいのか。

これを語りはじめたら、止まらないのですが、あえて言い切るとすれば、ドージャ・キャット「らしさ」がみっちみちに詰まっているから、でしょう。

3つのドージャ「らしさ」

ドージャ本人が制作しているので、「らしさ」もなにもないだろ、と思うかもしれません。たしかに、そう。

しかーし、「悪魔と契約して、最近のドージャ・キャットって変わっちゃったよねー。昔のほうが好きだったわ」なーんて抜かしている「自称古参」に対する、皮肉たっぷりの痛烈な一撃になっているんです。

ビート、リリック、ミュージックビデオの3つの観点から、さらにくわしく解説していきましょう。

(1)「甘✖️辛」なビート

今回のビートは、1964年にリリースされたディオンヌ・ワーウィックの『ウォーク・オン・バイ』という楽曲をサンプリング(注1)しています。

(注1)サンプリングとは、音楽用語で、ある録音された楽曲や音源の一部を切り出し、それを新たな楽曲の一部として用いる手法を指す。

現代美術用語辞典より

何度もくりかえされるディオンヌ・ワーウィックの甘いメロディと、鼓膜を揺らす重低音のビートがなんとも心地よいのです。

この「甘✖️辛」ミックスなビートがドージャの真骨頂です。もしこれが焼肉のタレなら、めちゃくちゃ米に合う感じ。

あーこれこれ。このビートがドージャなのよ、と古参ファンも手のひらをくるっと返します。

(2)攻撃力の高いリリック

さて、そんな甘いビートにうっとりしていると、右頬に痛烈なパンチをくらいます。

見てください。この攻撃的なリリック。

Mm, she the devil
(彼女は悪魔
She a bad lil’ bitch, she a rebel
(それに悪女で、おまけに反逆者)

『ペイント・ザ・タウン・レッド』

これはヘイターからドージャに向けられた言葉でしょうか。それともドージャ自身の言葉でしょうか。

そして、今回いちばん注目してほしいリリックがここ。

Money really all that we fiendin’ for
(お金は人間を悪魔に取り憑かれたみたいに夢中にさせる)
I’m doin’ things they ain’t seen before
(まだ誰も見たことがないことをしようとしてるだけなのに)
Fans ain’t dumb, but extremists are
(ファンがバカって言ってんじゃないの、過激なやつらがバカって言ってんの)
I’m a demon lord
(わたしは魔王なんだけど)
Fall off what?  I ain’t seen a horse
(だれが落ち目だって? まだにも乗ってないけど)

『ペイント・ザ・タウン・レッド』

こーんな体重を乗せたパンチをくりだされたら、ちゃんと受け身をとらないとケガしますよ。

英語は苦手でピンとこない?
おーけー。解説します。

Money really all that we fiendin’ for
(お金は人間を悪魔に取り憑かれたみたいに夢中にさせる)

『ペイント・ザ・タウン・レッド』

この馴染みのない「fiendin'」の部分。もともとこの動詞はありません。「fiend」という「悪魔や中毒者」を意味する名詞をむりやり動詞にしたものです。悪魔(に取り憑かれた)みたいになるくらいのニュアンスでしょうか。

「fiend」はドージャがよく使う単語のひとつ

グーグルという名詞が「ググる」という動詞として使われるのと似たような感じです。

つまり、ドージャは「みんなわたしのことを悪魔だとか言うけど、お金を前にしたらみんなそうなんじゃないの?」と語りかけているわけです。

I’m a demon lord
(わたしは魔王なんだけど)

『ペイント・ザ・タウン・レッド』

そして、ドージャはみずからを「demon lord」、つまり「魔王」であると言い切ります。この魔王という言葉があとからじわじわと効いてくるのでおぼえておいてください。

Fall off what?  I ain’t seen a horse
(だれが落ち目だって? まだにも乗ってないけど)

『ペイント・ザ・タウン・レッド』

「fall off」は落ちるという意味ですが、有名人に対しては「落ち目になる」という意味でよく使われます。つまり、人気のピークは過ぎていて、あとは落ちていくだけだという意味です。

「fall off」のイメージ図

ドージャは自分のことを落ち目だと揶揄するヘイターたちに向けて、わたしのキャリアはまだこれからですけど? と中指を立てているわけです。

さて、なぜここで馬が出てくるのでしょう?
さきほどの「魔王」という言葉を思い出してください。

ゲーテの『魔王』とかけ言葉をして楽しんでるんですね。
中学生のときに音楽の授業で習ったアレです。

こんな夜に風の中でを走らせているのは誰だ
それは父親と子ども
(中略)
おとうさん、おとうさん、聞こえないの?
魔王が小さな声でぼくに話しかけていることが

ゲーテ『魔王』より抜粋

ドージャはヘイターたちをつよい言葉で攻撃しながら、知的でユーモラスなかけ言葉を楽しむ余裕っぷりを見せつけているのです。

これは、まさに悪魔の所業。

(3)目が離せないミュージックビデオ

予定よりリリックの解説が長くなってしまったので、ミュージックビデオについては駆け足(馬だけに)で説明しましょう。

ドージャのミュージックビデオはいつもセクシーで自信に満ちあふれているのですが、『ペイント・ザ・タウン・レッド』も例外ではありません。

惜しげもなく魅力的なカラダを見せつけているので、ぜひ自分の目で確かめてください。途中、ほんとすごいので。

そして今回のテーマが「悪魔」ということで、宗教的なモチーフもたくさん登場します。
正直わからない部分もあったので、専門家の方や、解説しているブログを見つけた人がいたらぜひ教えてください。


ドージャは最高のアーティスト

彼女の才能が生まれ持ったものであろうと、悪魔にもらったものであろうと、正直どうでもいいよねっていうのが結論です。

だって、ドージャは最高だから。

ヘイターたちや、ネガティブなウワサへの怒りを原動力にして、これからもドージャ・キャットには最高の音楽をつくり続けてほしい。言われなくても、そうするだろうけどね。

よかったら、これキイテミ。
それじゃ、また。

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