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汽笛(上演台本)

まず「あ」としよう。その「あ」が、引き起こす物語。

あ こんにちは。僕は、ここに昨日から立っているとして、僕と言う人間が、どんな人間だか、皆さんは想像つきますか。真剣に考えて。真剣に、考えてくれましたか?ありがとうございます。ま、大抵の人が、ステージプラスの人かな、と思ったのではないでしょうか。まあ、これは冗談で。多分、皆さんたくさんの事を考えたと思います。僕と言う人間がどういう風に見えるか、僕には想像もつかないので、さあ、果たして皆さんが、どんな風に思われたか、僕には想像もつきません。いま、心の中に浮かんだ、皆さんの想像が、合っているのか、違っているのか、この物語を最後までご覧になって、答え合わせをしてみてください。では、汽笛というお話をご覧ください。

幕が開く。
台が組まれた舞台。

あ 蒸気機関が発明されるずっと昔。地球人類が誕生するよりも昔、地球はガスとマグマと泥の塊でした。それがどんどん冷えてきて。海ができました。海の底では、ガスを吸って呼吸する、太古の生き物が生まれました。この生き物は、地球で初めて生まれた生き物です。やがて、嫌気呼吸と言って、硫黄などを吸って酸素などを出す、別の生き物が生まれました。海の底に住んでいたその生き物は、長い時間をかけて、地球の大気を少しづつ、作っていきました。そして

あ、つかつかと歩んでいき、

あ 君、これは何ですか。こんなものを学校に持ってきてどういうつもりですか。没収です。何ですか、先生に向かってその口の利き方は。

本で頭を叩き。
教壇に戻る。

あ 皆さん。皆さんは来年で卒業です。この学校にも、もういられなくなります。そうすると、大人です。大人は働かなくてはなりません。大人は、常に100点を求められるものです。意味の無いように思えた勉強も、非常に価値あるものだったと、後で後悔しないためにも。やることはやりましょう。別に先生は好きなことをするなとは言っていません。ただ、こうして、目の前にあることを、一生懸命やるということは、大変に価値のあることだと言っているんです。一生懸命やってください。一生懸命やると

ぽー、と汽笛。

あ 来週はこの続きからです。ワークは32p。忘れずにやってくるように。日直、号令。

職員室。

あ 困りましたよ。生徒がこんなものを。ええ、多分地下街のものだと思うんですがね。空想ばかりして。外の世界へ行きたいだなんて、言い出さないといいんですが。

汽笛

あ 日直、号令。はい、お願いします。今日は続きから。蒸気機関が生まれ、世の中は激しく動き出しました。人口爆発と言って、人類が、世界中で増え出したんです。その頃、地球はだんだんと人間の重さに耐えられなくなっていきました。皆さんもよくご存知かと思いますが、地球上から、大地が消失したのです。海に沈んだ大地から、人間たちは逃げ出し・・・。

と、本を閉じ。

あ え。あ、えっとですね。はい、えー、まあその、ここは実はとてつもなく大きな蒸気船の上という設定で、子供たちはそんな世界から日々逃げ出したいと頑張っていると、で、まあこの主人公がですね、そんな生徒にほだされてこの心境の変化というか、その、え、ああそうです。一緒に手作りの船で逃げ出すっていう、まあ、そのありきたりかもしれないんですけども、その中に、友情とか、師弟愛的な、人間同士のストーリーも入れやすくなると思うので、え。あ、いや、ありきたりだと思いますよ。思ってますよ、その、本当の物語の肝はもっと別のところに。その、あの、なんて言ったらいいんでしょう。いや、ありますよ、あります。思いついてますよ。設定は、そんなに、お、面白くないと、思います。別に意地はって、ないですよ、はい、はい。すみません。もっと別の方法を、はい。

自動ドア。

あ うう、うう。ぐす、ああ、才能、ないのかな。おれ、才能ないのかな。センス、ないのかな。センス、欲しいな。いいと思ったんだけどな。見渡す限り、海だけの世界。大きな島みたいな船が、煙を吐きながら、ゆっくり地球を旅してるんだ。少年たちは海と風に心を洗われて、綺麗な目を持ってるんだ。いつだって、心を遠くに、まだ見たこともない、巨大な大地に置き去りにして、

クラクション、車の通り過ぎる音。

あ すみません。・・・。謝ったって、聞こえてないけどね。おなか、すいたな。

ピロリロ。コンビニへ入る。

あ おにぎり、100円だ。ラッキー。シーチキン、明太子、昆布、明太マヨ、チーズおかか、梅、鮭、蒸気機関車、汽笛の音、男は身体を真っ黒にして、摂氏50度にもなる機関室で、喚呼の大声を上げる。

汽笛
と、窓から顔を出し、

あ 速度よーし。

と、座り。

あ 男は50才です。もう日本中で消えかかっている蒸気機関車を運転し続ける寡黙な機関士なんです。彼には昔愛した女性がいたのですが、彼女は死んでしまって、今は誰も彼を慰める人がいないんです。でも、彼には最愛の機関車、デコイチがいるので、誰にも頼らず、一人で炊事洗濯をしながら、静かに暮らし続けているんです。そんなある日、彼の家に一通の手紙が届くんです。死んだ彼女からの手紙です。彼女は、彼が50歳になる誕生日の日に合わせて、手紙を書いておいたんです。彼は、その手紙を受け取って、しばらくは読まずにいるんですが、同期の退職を機に、その手紙をつい、開封して読むんです。その内容は、一人で暮らしているであろう彼を心配する手紙でした。洗い物にはお湯を使ってください、あかぎれがさすと、仕事に触りが来ますから、とか、そんな、日々の細々とした心配が、つらつらと書いてあるんです。彼は、自分の手の節々にできてしまったあかぎれを眺めながら、感傷に浸って、若き日の事を思い出します。で、回想シーン。でまた現在に戻ってきて、しばらくすると、今度は51歳の誕生日にまた手紙が来るんです。で、手紙を読んで、感傷に浸って、回想シーン。これを60歳になるまでの10回、繰り返して、その中で、彼と彼女の若き日の10年間を追っていくんです。そして
ついに60歳になる日、定年退職をした彼は最後の手紙を読みます。読み終えると、彼女は彼の前に立っていて、二人は彼の運転するデコイチで、旅立ってくんです。実はここで、彼は死んじゃってるんですけど、これは、長年の激務に体が耐えられなくなったからなんです。蒸気機関車って、本当に運転する人の負担がすごくて、本当に早死にする人が多かったらしいんです。だから、いまはほぼ無くなってしまった蒸気機関車ですけど、なくなるべくしてなくなったというか、カッコよくて魅力も多い乗り物ですけど、それだけじゃなかったんだっていうのを、彼が死ぬということで、最後メッセージとして伝えられたらなって、おもってます。

あ だめですか。

あ そ、そうですね、まあ、たしかに派手ではないですけど。え、あ、いや10回が多かったら減らしますし、そこは簡潔にしてもだいっ丈夫かなとは、おもいます。や、そうですね、そうですね、伝えたいことは、その、いや、機関車の話というわけではないんです。あ、いやそうですね、もちろんその機関車の悲しい事情も伝えたいんですけど、それはあくまで一要素というか、その、なんて言ったらいいんですかね。その・・・。

自動ドアの音。

あ ・・・。

電話。

あ あ、もしもし。ばあちゃん、うん。元気だよ。いまね、出版社の人と話してた。すごくないよ。あ、仕送り、ありがとうね。ばあちゃんの梅、すっごい美味しかったよ。あれがあるから頑張れるよ。うん。うーん。なんかね、あんまり才能ないみたい、僕。なんかね、出版社の人がね、天才と話してる時は、何を言ってるか全然理解できないんだって。でも、かけたものはすごい面白かったりするんだって。いや、僕は、逆だよ。何を作ろうとしてるかだいたいわかるし、実際にできたものも想像通りだって。言われちゃってさ、正直図星なんだよね。自分で読んでも、面白くないって思うしね。うん、うん、でも頑張るよ。うーん、どうだろ、そのうち帰れると思うけど。

あ、座って考えてみる。

あ うーん。思いつかない。派手な話、よくわかんない話、なんだろう。天才っぽく書こうとしたって、ぽいものしかできないわけだし。うーん。天才だと思って書いてみるかな。俺は、天才だ。

汽笛。

あ ぴ、ボタンを押す。

汽笛。

あ ぴ、ボタンを押す。

汽笛

あ ぴ、ボタンを押す。

汽笛

あ ぴ、ボタンを押す。

声 おはよう
あ てん、てん、てん。ぴ、ボタンを押す。
声 おはよう。
あ ぴ
声 おはよう
あ ぴ
声 おはよう
あ ぴぴぴ
声 おはようおはようおはよう
あ ぴぴぴぴぴぴぴぴぴ
声 おはようおはようおはようおはようおはよう・・・

と、続く。

あ とまんなくなっちゃった。
声 操舵室より機関室へ、操舵室より機関室へ、出発準備はいいか。
あ たいへんたいへん

と、ボタンを押してみる。止まらない。

声 銀河系鉄道トゥエンティーナイン、発車まで40秒前。機関室、準備はいいか。
あ どうしようどうしよう。

ボタンを連打する。

声 なに
あ あ、止まった。
声 なあ、
あ え
声 なにて
あ いや、あの
声 体調悪いんか。
あ え。
声 大丈夫か。
あ あ、
声 薬持ってるか。
あ もってない
声 おして
あ え
声 おして
あ はい

押す。

声 ぴっ

声 え。
あ え、
声 何。
あ なんでもない。
声 連打して。
あ え
声 連打して。
あ うん・・・。

あ、連打し始める。

声 ぴ、ぴ、ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ

目覚ましの音に変わる。

あ うわああああ。

と、時計を見て。

あ はあ。

あ、立ち上がる。工場。
頭巾とマスクをつける。
シールを貼っている。

あ それで、機械が壊れちゃって、ぴぴぴぴぴぴって。うん。怖かった。天才になろうとおもっても無理だね。ちなみにどう思う。このお話。え、ジャンルは、SFかな。そうだよね。僕もそう思う。うん、帰ったら書くよ。今日も。見てくれる人もいるしね。ごめん、かねないし、締め切りもやばいから、また今度。悪い悪い。書けたらまた行こう。うん。じゃ、お先。

と、給料をもらう列へ。

あ はい。1日払いで。はい、はい、あ、そうですか。はい。

と、茶封筒をもらい。

あ はいー。

外に出る。港。
ぶおお、と汽笛の音。

あ おっきい船だなぁ。あの船はどこに行くんだろ。アメリカかな。いいな。僕もアメリカ、行きたいな。

出版社

あ それでですね、銀河系鉄道トゥエンティナインは、勇壮な汽笛の音と共に、宇宙へ旅立っていくという、お話です。どうですか、よくわかんないでしょ。はい、はい、はい、はい、はい、はい・・・。いや、まだ諦めたくないです。僕は、まだ出発地点にも立っていないと思うんです。だから、ついつい、逃げてしまうんだと思います。もう、いい加減腹をくくりたいんです。だから、もう少しだけ、書かせてください。きっと面白いもの、書いてきます。

自動ドア、閉まる。

あ とか言って、書けないんだけどな、きっと。面白いモノ
って、どうやったら思いつくんだろう。
い 簡単だよ、面白いもの、たくさん見たら良いんだよ。
あ なるほどな。一理ある。
い 見なよ。
あ 時間がないからさ。
い 時間は作るもんだよ。
あ なるほどな。一理ある。
い 作りなよ。
あ そのうちね。
い あ、わかったぞ。おまえ、勇気がないんだな。
あ え?
い 勇気がないんだよ。この海に飛び出していく
あ 飛び出したいと思ってるよ
い 思ってるだけ。でも、怖いんだよ、想像以上にね。
あ 怖い、ね。たしかに。
い 行けよ!もう、汽笛はなってるぞ!

船の汽笛の音。
機関車の汽笛の音。

あ どっちの汽笛もなってるんだよ。まるでさ、どっち選んでも正解って言うみたいに。
い でも、進まなきゃ、どっちかに。
あ そうだね。
い 海も、綺麗だし、山も、綺麗だよ。
あ 岸辺にずっと、佇んでいたいな。
い でも、もう、汽笛はなってるよ。
あ うん。
い 行かなきゃ。
あ とりあえず
い とりあえず?
あ 幕を下ろそう。
い うん。これはお前一人の問題だからね。
あ みなさん、ここまでこのお話を見てくれて、ありがとうございました。キイロイコボネ企画は、次回を持って、月一の開催を終了します。最初の一回を除いて、毎回お客様からテーマをいただいて公演を重ねてきたこのキイロイコボネ企画ですが、次回は、自分たちでテーマを決めました。次回のテーマは『キイロイコボネ』。4月22日を予定しています。これからは、小骨座は小骨座。黄色団は黄色団で邁進して参りますので、その様子を見守っていただけたらなと思います。またお会いできる日を、楽しみにしています。それでは、失礼します。

風の音。
あ、幕を締める。
大地の汽笛と海の汽笛が同時になる。

ぶおおおん。

音楽。

おわり。

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