風邪


元気なだけが取り柄なのに。


よく食べ、よく遊び、よく寝て、よく怪我はするけど体調を崩すことはあまりない。

子供の頃に一度だけインフルエンザになった時だって、ハンバーグをもりもり食べてポテチをもりもり食べて食後のアイスだって嗜む元気があった。


なのに。

それなのに。

喉の違和感から始まりあっという間に。
朝起きたら声は出ないし体はだる重いし頭もずきずき。
『風邪』というもの自体数年ぶり、多分社会人になってからまともに風邪を引いたのは初めてだと思う。
それくらい、無駄に健康なこの体。

だから私も自分の免疫力の高さには相当な自信があった。
だってバカは風邪ひかないし。
と思ったけど夏風邪はバカが引くんですよね、ことわざの勉強になりました。バカから脱却する日も近そうです。


風邪じゃさすがに休めないけれど、38度を超えていたら休もう…と熱を測ると37.7度。私の人生いつもこう。
生まれたての子鹿くらいぷるぷるしながら出社した。
この日の業務はお金の取り扱いがメインだったので絶対にミスできない。
人生で1番集中したと思う。

喉が剣山でじょりじょりやったみたいに痛むので、お昼はコンビニでお粥を買った。
お粥って美味しいのね。知らなかった。
前回風邪を引いた時はサムギョプサル食べたのに。
お粥は飲みすぎた次の日に、調整のために食べるものだと思ってたけど、そうじゃなかったらしい。
またまた賢くなった。

へろへろになりながら午後も頑張った。賞賛されたい。
駅前に私の銅像とか作って後世に語り継いだほうが良さそう。小学校の校歌に織り込んだり。

明日の私に仕事を託し、定時ですぐに帰った。
げほげほ咳き込む私を見ていたので、先輩も上司も早く帰りな!と私の背中を押してくれた。
助かる。


絶対にご飯なんて作れないので、帰りにぷるぷるしながらコンビニでアイスを買った。
たまにはいいよね。うん、いいよ。

帰宅後熱を測ると38度。
絶対今じゃない。

とりあえずシャワーを、、、と思ったけどお洗濯をしないと明日以降のタオルがない。
這いつくばりながら洗濯機を回して干した。

普段元気だからこそ、あぁもう私はこのまま死ぬのね。
そう思った。心がどんどん弱るのがわかる。
シャワーを浴びて、早々にベッドへ。
体が熱い。熱いのに寒い。
余談だが、私はこのように自分の中に選択肢が生まれた時、頭の中に住まわせているきんに君に毎回筋肉ルーレットを行わせている。
熱いのかい!寒いのかい!どっちなんだい!

お昼にドラッグストアで買ったお薬を思い出して、とりあえず何か胃に入れようと先ほど買ったアイスを食べた。
アイスはどんな時でも美味しい。

泣きそう。
というか少し泣いた。
心細い。
私このまま死んじゃうんだ。
こんなことなら、会社のおじぴにもらったシュークリーム無理にでも食べとけばよかった。
こんなことなら、ラーメン半チャーハン餃子セットに生ビールもつけて、牛丼大盛りも、ケーキ1ホールも、ベンティサイズエクストラホイップブレべミルクのフラペチーノも、そういうの全部食べて飲んでおけばよかった。
598円のさくらんぼ、やっぱり買えばよかった。
死を意識してなお、食べ物のことばかり考えている自分の食い意地にちょっと情けなくなった。

心細さのあまり、誰かに連絡しようかな、と思っても声も出にくいし、風邪引いてる時に連絡しても迷惑だよなぁと、誰にも言えない。

人から連絡が来てもそんなこと思わないのに、自分だとどうしてもそんなふうに考えてしまう。

38.3度。
このままじゃ私のタンパク質が固まってしまう。
せめて、Aぇ! groupのデビューツアー行った後が良かったなぁと同じ空の下、今日もプリティーキュートなお顔で生きている佐野くんに想いを馳せた。


頭痛と喉の痛みと悪寒と不安と心細さがどこまでもついてくる。
眠れない。スマホやテレビを見る気力もない。
でも眠れない。時間が過ぎてくれない。
たまにインスタとかで冷えピタ貼った自撮りとか、体温計の写真載せてる人いるけど、みんなこの状態であんなことしてたの?
精神力がすごすぎる。私はあんなにぴーぴー泣いてたのに。


なんとか頭痛からでも逃れたくて、意味なく寝返りを打ち続けて10分ほどした頃、電話がかかってきた。

ろくに画面を確認しないまま出ると、遠く遠く東北へとお仕事で行ってしまった知人からだった。
そういえば既読をつけるだけで返していなかったことを思い出した。

いつもより掠れた元気のない声を聞いて「風邪?」と聞いてくれて思わず「助けて〜」と泣いた。
熱は?他の症状は?ご飯食べた?お水飲んでね、無理したらダメだよ、とひとつひとつ優しく言ってくれて、私は顔をどぅるどぅるにしながらお返事をした。


声を聞くと少し落ち着いたのでシュークリームを食べればよかったと半泣きで伝えると
「食べたかったねぇ、元気になったら食べようねぇ」
と、まるで小児科の先生のような言い方。
私も私で弱っているので、うんうんと泣いて返事をした。

アイスしか食べていないことを話すと、それはご飯じゃないよと少し叱られ、近ければご飯作りに行くのにと言ってくれたその言葉で、もう少し私の頭が良かったらあの場でどこでもドアを作り上げていたと思う。
ご飯作る気力はないけど、どこでもドアを作り上げる気力はある。偏差値が少し足りない。


東北はまだ涼しいのかなぁとか、今日あったしょうもないけどちょっと笑ったこととか、私が眠るまで電話を繋いでくれていた。
咳は出るしうなされるしうるさかっただろうに。
人の優しさに触れ、半泣きで寝た。


翌朝、37度まで熱は下がっていた。
ちなみに私の平熱は35.8度。
全快ではないけど、ぐっすり寝たおかげでずいぶん楽になっていた。


1番忙しい時期を、信じたくないほどの体調不良で過ごし、無事に週末を迎えた。

ちょっとしんどいことあっても、私はまだやれる!という変な意地を張れちゃう経験値を積んでしまった。


とはいえ私は結構、強い子なのでね。
大丈夫なんだけどね。


結構、頑張れちゃう。


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