火葬場で何かを待つ夢
田舎に住む、父方の祖母の家で留守番をする。私ひとりである。
祖母の家は古い木造家屋だが、過去にあった実際の祖母の家とは違っていた。
私はしばらく留守番をするが、やがて用事ができてでかけることになる。
玄関を出て木戸に閂をかけていたら、笑顔の祖母と後ろに続く祖父や伯父たちも帰ってきた(今思えばみんな故人である)。
祖母はお菓子やお土産を買ってきたと言う。
私も休んでいくように誘うが、やはり用事があるので家の前で別れる。
場面が変わる。
私は独り、田舎道を歩いて火葬場へ向かっていた。
祖母を送るためである。
今度は母方の祖母であった。
痩せて枯れて、高齢の割にはまだ元気だったのに。
さっきまで、普通に話せていたのにな。
親戚一同は、ピンク系に塗装された貸切バスに乗っていったらしい。
私は乗れずに、ひとり火葬場への道を歩いていった。
途中でバスが私を追い抜いていった。
火葬場は遠くない。
歩いてもほどなく着いた。
そこには木造の屋敷を樹木などで飾った、メルヘンチックな建物群があった。
ジブリっぼい雰囲気もあり、なにかのテーマパークのように見えた。
しかし立ち込める匂いは、火葬場である。
なんとも言えない、脂の焼けるような甘い感じはそれ以外ないと感じさせる。
不思議と線香の匂いはしなかった。
私はあまり吸い込まないようにして、一番大きな建物に入った。
不案内なのでよくわからないが、みんなはこの大きな建物の中にいるのではないかと思ったのだ。
広間があった。
そこで多くの人が膝を抱えて座り、何かを待っている。
服装は、普段着や寝巻きのようなものを着ている。葬儀というより、お風呂に入る前のような感じだ。
何を待っているのか不明だが、お骨が焼けるのを待っていると思われる。
私はその中で、知った顔を探す。
妹がいた。
祖母を送る前に、新品のレッグウォーマーをプレゼントした。
祖母が使ったかどうかわからないが、少し高価で良いものだから形見にもらうといいのでは。
そんな話をした。
周りを見ると、どこかで見たことのある顔がある。
眉が濃くて、背は高くない。
髪型は前髪を真ん中分けにしている。
筋肉ムキムキで、まだ若い。
サーカス団の人やアスリートのようにも見えるが、彼は俳優らしい。
親戚なのかどうか、よくわからない(今にして思えば、それも故人だったかもしれない)。
私はさらに、知った顔を探した。
母の顔を見つけた。
濃い目に化粧をしていて、少し若い。
母もラフな格好で、パステル調の迷彩柄のレッグウォーマーを着けていた。
それは男物でゆるく、脛からずり落ちそうだ。紐を縮めているから着用できるけれど。
おばあちゃんのレッグウォーマー、もらったら良かったんじゃない。
私は言うが、母は眉をひそめながら微妙な表情をする。
縁起が悪いと思ったようだ。
私もそんな気がする。
今にして思えば、現在の母は亡くなった祖母に近い年齢ではないか。
この顔は随分若い。三十代か四十代くらいの母の顔だ。
窓から向かいの建物を見る。
小さめの建物がいくつかある。
その一つは、ソフトクリームスタンドである。
火葬場で、そんなの食べる人いるのかな。
私は思うが、待ち時間が長いからいるのかもしれない、と思い直す。
幾分大きな建物には調理設備があるのか、唐揚げや何かをトレイに乗せて持ってくる様子の人たちがいる。
…終わったら、広間に持ってきて食べるのだ。
終わったら。何が終わったら?
焼くのが終わったら?
少し怖い。
だって祖母は少し前まで元気で、病気の様子もなかったから。
どうして急に、火葬場に行くことになったのか。
誰かが私に教えてくれた。
母のような気がする。
亡くなった伯父のような気もする。
「いつ来てもいいって、言われていたから」
「え?」
「夏は火葬場が空いているから、大歓迎だ」
「えっ、え?」
「八月になったら、いつ来てもいいって」
「……あの…、ちょっと待って。安楽死させてから、焼くってこと? それとも生きたまま……」
不気味な沈黙。
びっくりして目が覚めた。
象徴夢なら、悪い意味ではないようだ。
自分の中の何かに整理をつけて、終わらせる意味がある。
怖さや不安を感じた場合は、自分が変わることにまだ抵抗を感じている。
そうでないなら……
数日前にも母の夢を見たので、首の後ろがざわざわする。
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