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【小説】執着ゆえに友情

私は、入学式で初めてその人に出会いました。誰かと群れないと、と焦る人々を置いて、1人でふらりと帰られた後ろ姿が、とても印象的でした。多くの人と関わることを良しとした私とは、まったく違う生き方の御方。

彼女と仲良くなりたい、と思った私は、少しずつ情報を集めながら、親密になっていくことにしました。こっそりと知った、同じ講義を取り、隣の席に座ります。

彼女は、突然現れた私にも、穏やかに挨拶を交わしてくれました。ただ、彼女は私の丁寧すぎる物言いに驚かれたようでしたので、他の方々の真似をして、フランクな口調に変えてゆきます。

毎日、根気よく声をかければ、少しずつプライベートな話もしてくれるような仲になりました。

もとより、人に話を合わせるのは得意ですから。ましてや、好きな方が好きなものについて、嬉しそうに、楽しそうに語ってらっしゃるのです。興味がわかないはずがないでしょう。

知らなかった話題は、帰ってからすぐに調べます。その日のうちに、実際に遊んでみたり、読んでみたり。私の知らない世界が、どんどんと広がっていきました。毎日のように、話しても話しても、まだ足りません。

しかし、その幸せな日々も長くは続きませんでした。忌々しい。目に見えない、生物とも言えないものに、翻弄されるなど。彼女が生命の危機に陥る可能性があるのですから、仕様のないことですけれども。会えない日々を、一つずつ塗りつぶすような生活が始まりました。

彼の人からは、会えない日々でも、丁寧に連絡が来ます。砕けたような、気さくな文面でありながら、心地よい距離感の、素敵な人柄が溢れ出てらっしゃいます。すぐにでも返信したい気持ちを抑え、時間をかけ、こちらも丁寧に返します。

何より、私以外とは連絡を取っている人がいなくて、寂しいなんて、可愛らしいことを聞いてしまえば。すぐにでも家に行き、抱きしめてしまいたくなります。お家の住所を存じ上げないので、実際にはできないのですが。

これほど、仲良くしていたいと思う方は、私の人生では初めてです。きっと、この関係こそ、親友なのでしょう。なんて、美しく素敵なものなのでしょうか。

そうして、久方ぶりの登校日となりました。今日は何を語りましょうか。どんなお話がいいでしょうか。ウキウキしながら、教室で声をかければ、彼女はなんだか、いつも以上に楽しげで…。誕プレ?本当に!?

この、忙しくも大変な時期に、私のために誕生日プレゼントを用意してくれていただなんて、なんて、優しい方なのでしょう。しかも、塗り絵なら長く楽しむことができます。卒業しても、連絡をとっていいということでしょうか。

いえ、親友同士なのです。たとえ、環境が変わろうとも、いつまでも、仲良くしているはずです。

「嬉しい!ありがとう!大事に使うわね!」

私の言葉に、彼女はとてもうれしそうに笑ってくださりました。


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