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【小説】友情もしくは執着


私と友は、大学に通い始めてからの友人である。たまたま、講義の席が近かったから話してみれば、驚くほど趣味が合ったのだ。

高校まで、ゲームも漫画もアニメも音楽も社会の見方も、何もかも噛み合わない友人が多かった私には、衝撃だった。彼らもまた、良い友人ではあったのだが。

友と仲良くなるのに、時間はかからなかった。毎日教室で顔を合わせ、笑い転げる。そんなに話すことがあるのか、と思うほどに、次から次に話題が溢れ出て止まらなかった。

しかし、ある日突然、顔を合わせることができなくなった。私の世界は、私とネットの向こうの先生の2点を結んで完結した。

仕方のないことだ。今は我慢のときなのだ。友は今日何をしているのだろうか。授業を受けていたら、電話は迷惑だろう。お互いに筆まめとは言えないから、何度もメッセージを送るのも悪い。

毎日話し合ってたのが嘘のように、ぱたりと連絡を取れなくなった。

私は、とても焦った。この友を手放したくない。親友とは、この人のことを言うのだ。ずっと仲良くしていたい。

それでも、半年も経てば、ちょうどよい連絡のとり方を理解した。返信を焦らず、今までのようにくだらない話を。でも、会話ではなく、お互いの近況報告のようだった。少しの寂しさを抱えつつ、連絡が途絶えるほうが恐ろしかった。

久しぶりに、近所の本屋まで歩く。ふと、とある本が目についた。そういえば、ちょうどもうすぐ友の誕生日だ。登校日も、確かすぐ近くにある。直接渡せる。これなら、長く友を縛れるのでは…。

会えない寂しさが、執着となっている。でも、気がついたところで、今更立ち止まれない。物理的な閉じ込めじゃないから、まだ犯罪じゃない。そんな言い訳を、誰に聞かせるでもなく、呟く。

『久しぶり。1年くらい?まじ、信じられない!』教室は、久方ぶりの再開に賑わう。隣り合って座る事のできない、前と少し変わった教室。むしろ、お互いの声を届かせるために、いつもより騒がしいほどだった。

「おはよ、ほんと久しぶりね。」

良かった。友は何も変わっていない。ほっとして、私も昔のように笑った。

「ね!めっちゃ久しぶり。あ、そうだ。誕プレ。」

はい、と渡せば、驚かれる。こんな時でも準備してくれてたの?なんて反応に、私は、悦に浸っていた。友は、すぐにガサガサと開き、中身を取り出す。それは、塗り絵だった。

「確か、色鉛筆たくさん持ってるでしょ?それに色彩センス抜群だし。外には行けないけどさ、楽しんでほしいな。それで、塗れたらついでに、私に写真送ってよ。」

押し付けがましくなく伝えられたはずだ。私の、浅ましい策略など、気づかれない。大丈夫。

「嬉しい!ありがとう!大事に使うわね!」

ほら見たことか。この塗り絵はそこそこ量がある。なんなら、来年以降も塗り絵を送ればいい。1年、2年で終わらないように。

そうすれば、友は塗り絵を見る度に、私のことを思い出す。物大事にする友なら、きっと終わっていない塗り絵を処分しないだろう。そうすれば、何年後であっても、私に連絡をくれるはずだ。

心の底から嬉しそうな友を見て、1年ぶりに私も心の底から安心した。

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