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Nomadlandノマドランド、さようならは言わない 「see you down the road」

ザ・ライダーのマジックアワー&ブルートーンのクロエ・ジャオ監督のノマドランドは2020年ベネチア国際映画祭金獅子賞・トロント国際映画祭観客賞・Rotten Tomatoesで97%Freshに加えて、ゴールデングローブ賞作品賞・監督賞・そして2021アカデミー賞にもノミネート中という爆進中の最新作。

追記
2021アカデミー賞、作品賞・主演女優賞・監督賞受賞!

ザ・ライダーの個人の暮らす世界観や静かなストーリー進行は継承されつつ、前作ほど眠気が来ないというか作品としては編集や展開がより上手くなり、監督の個性を失わない程度に上手にメジャー化している。(マーベルの「エターナルズ」はどうなるんだか・・・)主人公のフランシス・マクドーマンドの言葉少なに目で語る強い存在感もこの映画をぐっと押し上げているように思えた。

前作と同様、本人を本人役で使うという監督の「半ドキュメンタリー」的要素は色濃く出ていて、途中であれ・・・これドキュメンタリー映画??みたいな不思議な感覚に引き込まれて行く。「ノマド」と言われるハウスレスな放浪する人々ほぼ全員が俳優ではなくホンモノの人達、そこに俳優が入ると上手なはずなのに、この人俳優だなと気が付いてしまう位ホンモノの人達の言葉や台詞はリアルに迫ってくる。

※以下見てない人にはネタバレになります。

スワンキーというノマドの暮らしを送る高齢の女性が主人公ファーン(マクドーマンド)に自分のカヌー旅の思い出を語るシーン。「ツバメの大群の影が水面に映ってその中にいると自分も空を飛んでいるようだった。孵化した卵の白い殻が沢山流れて来て、本当に美しくてこのまま死んでも良いと思ったの・・・」と目の前にその風景を見ているかのように語っているシーンで、台詞を覚えて喋っているようにはあまりにも見えなかったので彼女が実際の体験を話しているのだと気が付きました。(実際にそうだったようです。しかも片腕を手術した後でアームホルダーをしていたのも実はリアル・・・)他にも「同僚が退職の10日前にホスピスで亡くなってしまって、仕事を定年した後に乗るつもりだったヨットが家の前にそのままだった。彼は私に「時間を無駄にするな」と言ったの、だから私は会社をすぐに辞めて、砂漠に自分のヨットで旅に出たの」など胸に刺さるリアルな台詞がグイグイ出て来ます。大手が入っている映画にしてはとんでもなくエンドロールが短く(お金をかけた映画はエンドロールはスタッフが多くて長い)おそらくノーライトだなというシーンばかりなのですが、ある意味時間はたっぷりかけて作ったと思います。このスワンキーさんも全く映画に出るのに興味なかったようですが監督が時間をかけて口説いたのだとか。ファーン役のフランシス・マクドーマンドもリアルノマドの人達に混じってしばらく生活したような記事も見ました。荒野で用をたすシーンも妙にリアル・・・!とフィクション&リアリティの狭間な演出に目がいってしまうけど、ちゃんと物語の核は残っていきます。監督の手腕だなぁ。

冒頭、夫との荷物が詰まった貸し倉庫の前で旅に持ち出すものを選ぶファーンは、夫の服を抱きしめその匂いを嗅ぎます。特に多くを語らず回想シーンも一切出てこないけどギュッと胸を締め付けられるように夫を失ったファーンの悲しみが伝わって来ます。ノマドの人達もどこか心に喪失や悲しみを抱えた人が多く、その中の一人、息子を自殺で失ったというノマドの砂漠の集いの主催のボブ(もちろん本人役)は最後の方にファーンに自身の話をしながら「ノマドはさようならは言わない、またどこかで再会するから。see you down the road.私はまた息子に会える気がするんだ」と語ります。ファーンは何かを感じたような瞳で黙ってこれを聞き、また旅に出て最後に夫と暮らした街・家にたどり着き、そこから再び荒野に歩き出します。

本来、人間は移動しながら暮らす生き物だったと本で読んだことがあります。定住したのは農耕するようになってからだとか。移動し、思い出や大切な物は自分の身体に持ったまま、過ぎ行く季節や風景を感じつつ、厳しく美しい自然の中に流浪の民として生きていたと。ファーンもまたそんな原始の人間の暮らしのように、自分らしさや心の在りかを見つけていったようでした。
この映画はある面から見ると、リーマンショック以降のアメリカの社会的側面も捉えていて、大企業が撤退したことで郵便番号も抹消された街や中高年になってから職を失った人々、貧富の差、自殺に追い込まれた低所得層の人たち、amazonのクリスマス商戦で働く日雇いの人々、その中の一人がファーンだったりします。けど、それを単純に悲観的に写すのではなくそんな状況においても自分の居心地の良い生き方を模索し、高齢でも一人、たまに仲間と助け合いながら自由を生きる人達の誇らしさや逞しさが描かれていて、登場人物の言葉を借りると「馬車馬のように働いて」物を沢山持ち、都会に定住する自分が窮屈に思えるような感覚にもさせてくれました。

今回真面目に書いてしまったけど、まぁ久しぶりに大人が感じられる映画だったなと1日経ってしみじみしています。エヴァも鬼滅も人の好みはそれぞれなんですけどね、たまにはこういう映画で人生を考えてみるのもいいなーと思います。喋りすぎ説明しすぎなんだよな最近の映画って全部。余韻がない余韻が・・・。と思っている人はぜひ映画館でノマドランド観てください。

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