30世紀梨

拝啓、21世紀に生きる君へ、

僕はこれから、長い眠りにつこうと思います。

僕はこれから、君に30世紀梨を持って帰ってきて食べさせるために、約1000年の長い眠りに付こうと思います。

理由は、君がもう20世紀梨の味には飽きただろうと思うからです。

こんなツラい世の中じゃ、到底目新しくて楽しい事なんて期待できないから、せめて30世紀梨でも持って帰って、楽しんでもらえたらなんて思います。

突然の連絡となってしまい、驚かせてしまっていたらごめんなさい。

思えば、いつも迷惑で身勝手な人間でしたね。

今回も、そんな僕の身勝手で、君に美味しい30世紀梨を持って帰りたいなんていう独りよがりな思い付きで、これから長い眠りに付こうと思います。

大丈夫、長い眠りだけど、きっと永い眠りじゃないと思うから。

必ず、近いうちに君のもとに戻ってくると約束します。

なんていうのも身勝手でしょうか?こんなことを言って、君が吐き気を催していないか心配です。

30世紀に向かう僕に、何かリクエストはありますか?ほかに欲しい物とか、確認してほしいこととか。

ニューヨークにいる自由の女神はまだ存命なのか、とか。

スフィンクスが砂で埋もれていないか、とか。

世界各地の大都会が、海底遺跡と化していないか、とか。

そもそも人類はちゃんと生き残っているのか、とか。人工頭脳に乗っ取られてしまっていないか、とか。

21世紀よりも生きやすくなっているのか、僕らの命はまだ命らしく保たれているのか、とか。

どんな文化が生き残っていて、どんな娯楽を楽しんでいるのか。

30世紀ではどんな流行語が流行っているのか、とか。

そもそも言葉なんて人類にしか使えない役立たずなものがまだ生き残っているのか、とか。

もし気になっていることがあれば言ってくださいな。

特に興味はないかな・・・?

でも、それでもいいんです。

僕は、君に30世紀梨を持って帰ろうと思います。

21世紀ではダメダメな僕も、30世紀だったら心機一転、頑張れるんじゃないかなって思って。

そんな風に考えているのが僕のダメな所ですね。自覚してます。

いくつ欲しいですか?両手じゃ溢れるくらい、いっぱい持って帰ってきても良いですか?

ただ、30世紀梨は君に飽きてほしくないので、程々に、程々にしようと思います。

これ以上、君に不満を言わせるわけにはいかないなと思って。

見た目とか匂いとか味とか、想像つきますか?全く想像がつかないと思います。僕だって全然ついてないです。

そもそも、

そんなものがあるのかどうかさえ定かではありません。

でも、それでもいいんです。

僕は、君に30世紀梨を持って帰ろうと思います。

そう思ったんです。

だから、これから長い眠りにつきたいと思います。

これから人工冬眠装置の中で約1000年、眠りにつきたいと思います。

こんな寒い装置の中で眠り続けたら、そのまま安楽死することになってしまうかもしれません。

でも、それでもいいんです。

僕は、君に30世紀梨を持って帰ろうと思います。

21世紀よりも素晴らしい時代なのでしょうか?

君はどう思いますか?あんまり興味ないですか?

まあ、結構先だから仕方ないですね。

30世紀に興味を持っているのって、おそらくこの時代では僕1人ぐらいですからね。

君は変わらず、君と一緒にいてくれる人たちを大事にしながら、何も間違わずに生きていくのでしょう。

たぶんそのうち、君のもとを去った僕の事を忘れていくのでしょう。

でも、それでもいいんです。

僕は、君に30世紀梨を持って帰ろうと思います。

君に教えてもらった音楽を、人工冬眠装置の中で何度も忘れないように口ずさみながら、長い眠りに付こうと思ってます。

また会えた時は、その曲の曲名を教えてくださいな。

君に教えてもらった小説のお気に入りのフレーズを、人工冬眠装置の中で何度も忘れないように口ずさみながら、長い眠りに付こうと思ってます。

また会えた時は、その小説の題名を教えてくださいな。

あ、そうだった、30世紀梨のお話でした。

楽しみにしていてくださいね。

覚えてくれている限り、楽しみに。


それでは、

21世紀に生きる君へ、

おやすみなさい。


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