見出し画像

大人のための恋愛小説~「時雨の記」

こんにちは、ぱんだごろごろです。
私、ぱんだも人生の秋の時期を迎え、物思うこの頃です。
昨年末、和歌山の白浜で、パンダの赤ちゃんが生まれた、実は雌だった、などというニュースが流れていましたが、新しい生命の誕生は、文句なしに嬉しいことですね。

さて、人生の先輩として、皆様のお役に立つ情報をお届けしたい、と、このブログを書き続けております。
今日は、人生の黄昏の時期に、恋に落ちた二人の男女の物語です。

この50代の男と、40代の女の物語から、まだお若い皆様に、何を汲み取って頂きたいか、と申しますと、人生の伴侶を大事にしましょう、ということです。

「時雨の記」~主人公二人の背景

会社社長の壬生孝之助は、二十年以上前に、一目会っただけの、堀川多江に再会します。

その昔会った場所は、会社関係の人のお通夜の席、再会した場所は、知人の息子の披露宴の席でした。
場所は、戦後の帝国ホテルで、それだけで、読む人には、壬生と多江の社会的な地位がわかるようになっています。

後半、壬生が心臓病で入院し、退院した後に、多江と二人で食事に行くシーンがあります。
レストランでメニューを見ながら、食べるものを決めている時に、壬生が、「あんたは、ガルガンチュワ気味だから」とからかうのに対して、多江は、「ひとぎきのわるい」と返します。

これは、両者ともに、「ガルガンチュワ」が、フランソワ・ラブレーの、「ガルガンチュワ物語」から来ている名前で、大食らい(大食漢)を意味していることを知っているからこそ、成り立つ会話です。
さりげない会話の一部分ですが、ここからも、二人の持つ教養・文化が共通していることがわかります。

一方、壬生の妻は、頑なで思いやりがなく、自己中心的な女性です。
作者は、この会話を挟むことで、二人が、惹かれ合ったのは、仕方の無いことだったのだ、むしろなるべくしてなったのだ、とさりげなく主張しているようです。

二人の恋

さて、その昔一目会っただけで、惹かれたが、ひとの奥さんということで諦めざるを得なかった。
今は、どういう境遇にいるのかもわからないが、とにかく声をかけ、次の日に会いに行くことを決めてしまう。
壬生の行動は素早いものです。
早速、多江の住む大磯まで訪ねてきた壬生を、多江はあきれながらも、招き入れます。

この時、壬生には妻子がいます。
妻とはわかり合えない間柄、この妻は、作者の中里恒子の筆によって、徹底的な俗物として描かれています。
多江は夫と死別した未亡人で、お茶の教授をしながら、生計を立てています。

壬生も多江も、「気位の高いひと」達なのですね。
壬生はとにかく多江を手に入れたい、でも無理はしません
多江は、壬生と付き合い始めてからは、壬生の存在を頼りにするようになりますが、それでも彼にもたれかかるようなことはしません。
壬生から与えられるものは、気持ちよく受け取るが、それで自分を明け渡すこと、相手を縛るようなことはしないのです。

お互いに、恋に落ちていることはわかっていながらも、現世でのしがらみがある。
この後、壬生は心臓病で、多江の家で亡くなります。
一度も男女の仲になることはなかった。
抑制の効いた、恋でした。

でも、その後、訪ねてきた、壬生の妻から、二人の仲を疑うような言葉を聞くと、多江は、いっそのこと、そういう仲になっておけばよかった、と思うのです。

この物語を読むと、泣けますね。
若い時分から、何度も読み返していますが、夫と結婚してからは、この小説を読んだ後は、夫が生きていてくれるのが嬉しくて、夫を大切にしようと思うのです。
皆様も、それぞれの伴侶を大事にして下さいね。

ドラマ化作品について~丹波哲郎の格好良さ

この小説はTVドラマと映画になっています。
私が見たことのあるのは、丹波哲郎と山本富士子が、壬生と多江を演じたTV版でしたが、このキャスティングが素晴らしくて、他のバージョンを見る気になれませんでした。
何と言っても、丹波哲郎が良い。
おしゃれな優男でありながら、柔道五段でのびのび育ったたくましさもある。
私にとっては、理想的な壬生孝之助なのです。

子供心に、丹波哲郎は格好いいと思って、育ちました(「キーハンター」や007の映画など)。晩年、ああいう方向へ行かれたのが不思議でしたが。

てんぷら問題

不思議と言えば、一つ言いたいのが、初めて多江を訪ねていくシーンで、壬生は土産にてんぷらを持って行くのです。
病人がてんぷらを食べたがっているから、と休みの日のてんぷら屋に無理を言って、作らせた、と説明するのですが、病人にてんぷらはないでしょう。
余計に病気が悪くなりそうです。

てんぷら屋さんも、ただの言い訳だ、と気付いていたかもしれませんね。

しかし、この小説の影響か、えびのてんぷらを見ると、多江のまねをして、お塩とレモンで食べるようになりました。

まとめます。

中里恒子著の「時雨の記」は、大人の恋愛小説です。
大切な人が生きていてくれることの喜びを、存分に味わわせてくれるこの小説を、是非一度、お手に取ってみて下さい。




サポート頂ければ光栄です!記事を充実させるための活動費, 書籍代や取材のための交通費として使いたいと思います。