匿名劇壇『10年分の短編集』はどのステージを見たらいいか
匿名劇壇『10年分の短編集』は、全部で6パターンのステージがあります。
ちょっとパターンを作り過ぎたので、どれを見たらいいのかわからなくなっていると思います。
そこで、「このステージの作品はこういう傾向があるかな」というのを書くことにしました。個人の独断と偏見ですが、選択の参考にしていただければと思います。
※ネタバレというほどではないですが、「どういう作品か」という話は書いています。短編という性質上、「○○という話です」と書いてしまえばまあ、内容的にはそれ以上でも以下でもないので、何も仕入れたくない方は今すぐスマホを投げ捨ててくださいね。「浦島太郎が竜宮城に行く話です」といった程度のことは書いています。
まず、11月6日(土)のステージです。
Aステージ
『コミュニケットボール』『夢の忘れ物』『Ctrl+H』
会話劇が好きな方にオススメできる回かなという気がします。
セリフ回しというか、「言葉」を駆使しているタイプの作品群ですね。
『コミュニケットボール』は三人の会話劇です。
バスケットボールを知らない二人の少女が、バスケットボールを知っている一人の男に詰め寄るという変な話です。それなりに笑えるところを散りばめつつ、「コミュニケーションって難しいよね」という普遍的なテーマを描いているつもりです。
『夢の忘れ物』は、友人の探し物を手伝っていたら、友人が「夢の中にまで手伝いに来てくれてありがとう」と言い出す話です。ここが夢なのか現実なのかゴッチャになっていく系の。見ていてややこしい系の作品だと思います。
『Ctrl+H』は、『君の名は。』的な感じで入れ替わってしまった8人の男女たちが、『ソウ(SAW)』みたいな脱出ゲームをさせられる話です。なんちゅう話や。これは頭を空っぽにして楽しめる系だと思います。人を笑わせようとしかしてない作品です。
おしなべて、登場人物がアレコレくっちゃべってる系の劇ですね。
しゃべくりが見たかったらコレ、という感じがします。
Bステージ
『一人だけ芝居』『チェーホフの銃』『ライトノベルが止まらない』
よくできてる系の話が好きな人にオススメできるかなという感じがします。
伏線回収型というか。
『一人だけ芝居』は、死んでしまった相方の幽霊と、倉庫みたいなところで漫才みたいなことをしている話です。相方に憑依とかしてもらいながら、一人芝居を演じます。結構笑えるところがあると思います。
『チェーホフの銃』は、台本を書く男と、その劇中劇が交互に繰り返される系の話です。男が書いた台本を、その恋人がガンガン書き換えるので、劇中劇がヘンな感じになっていきます。基本コメディですが、最後ドン引きする感じの短編です。
『ライトノベルが止まらない』は、ライトノベルあるあるみたいな設定を大量に詰め込んだ作品です。僕らの世代的には『涼宮ハルヒの憂鬱』が「宇宙人とか未来人とか超能力者とか、ライトノベルあるあるを詰め込んだ作品」という印象があります。そのライトノベルの集大成ともいえる『涼宮ハルヒ』に、ハリーポッターも足してるしサマーウォーズも足してるし、みたいな作品です。一応伏線回収型ですが、だいぶ難解です。
全体的に、話の「構造」がよくできているタイプの作品群と言えそうです。
ラーメンズとか好きな方はこのあたりな気がします。
Cステージ
『Shovel』『リーディング・ハイ』『めくれる察し』
「笑える」以外のエモーションを感じたい人向けかなと思います。
この3作品になかなか共通点は見出せませんが、「笑い」を第一目的にしていない回ではあるだろうと思います。
『Shovel』は人を殺しといて、その死体の近くでめちゃくちゃ喋る話です。くくり的には「Aステージ」に入っててもよさそうな雰囲気の作品。ひたすら喋ります。ルック的には笑いに特化してる感じですが、笑わせたいだけじゃなくて、描きたいことがちゃんとあるタイプの作品です。
『リーディング・ハイ』は男女二人のリーディング劇です。リーディングといいつつ、いろいろと動きますけども。これも伏線回収型なので、くくり的には「Bステージ」に入っててもよさそうな雰囲気の作品。構造がよくできているタイプです。
『めくれる察し』は新作、編集プロダクションに勤める男4人の会話劇です。コロナ禍の話です。2020年7月あたりの。会話劇ですが、口数が多いというよりか、じっくりと空気感を楽しんでもらうタイプの作品だと思います。沈黙の時間も多いです。
こう書いてみると、Cステージはバランス型という感じがしましたね。
ドカンとした笑いを狙う瞬間があまりないので、「暗い話とかいらんねん」という方はここじゃないかも。「そんなにゲラゲラ笑いたいわけじゃなくて、芝居を見せてくれ」という方がこの辺りな気がします。
では、11月7日(日)のステージです。
劇団員以外の役者に出演いただいている作品はこの日も上演するので、重複が発生しています。たった1ステージのために呼ぶとほら、ギャラとかほら、アレなんで。その辺はうまいことアレしていただけると幸いです。
Dステージ
『伊藤丸あい子のめくるめく願望』『Shovel』『ライトノベルが止まらない』
劇作家・福谷のちょっとアレなところをお試しで見るならここ、という感じがします。
『伊藤丸あい子のめくるめく願望』はエロをテーマに作った作品です。劇中でスカートめくりをします。ただ下心を持って観劇に来たところで、その下心には答えられないかもというタイプのスカートめくりですが。勃起不全とか、そういう話をします。
『Shovel』『ライトノベルが止まらない』は前述した内容ですね。
『伊藤丸あい子のめくるめく願望』のアレな感じを、『Shovel』『ライトノベルが止まらない』で中和してるタイプのステージになる気がします。
「匿名劇壇の初期作品を見たいけど、安心できるクオリティのモノも見たい」という方にオススメです。
Eステージ
『救世主』『ハイパーフィクション』『Ctrl+H』
これはだいぶ人を選ぶタイプのステージだと思います。
作劇の初期衝動がえげつないタイプの、ちょっと鋭すぎるナイフを振り回している系の2作品を上演しちゃっている回です。
『Ctrl+H』は前述のとおり、人を笑わせようとしかしてない作品なのでさておき。
『救世主』『ハイパーフィクション』ともに、人をどうしようと思って作っているのか、非常にわからないタイプの作品です。「この頃の俺は、人を傷つけることに必死だったのか?」とさえ思います。
若手学生劇団が上演してたら、なんというか、結構アツいものがあると思いますが、10年目の劇団でやるには、あまりに若いテーマ、若いセリフがたくさんです。
しかもその若いっていうのが、「輝け青春!きらめけ未来!」的なタイプの若さじゃなくて、「ナイフ、血、命、俺、生きる、意味」みたいなタイプの若さです。キツめです。
が、劇作家としての初期衝動にはあふれています。
もう二度と上演しないと思いますので、そういうのに興味がある方はこれかなと。
Fステージ
『チェーホフの銃』『奇跡と暴力と沈黙』『ハッピーバースセンチュリー』
匿名劇壇を知ってて、いくつか見たことあるという人でも、「この3作はどれも知らない」という人が多いステージのような気がします。
まあ一つは書き下ろし新作なので当たり前ですけど。
『チェーホフの銃』も、もともとバンタムクラスステージの上演ですしね。
『奇跡と暴力と沈黙』は、台本にト書きしかない、全編アドリブ芝居です。アドリブと言っても、稽古で固めているんですけどね。セリフはないですけど、全然役者も喋ります。要は1分に1回暴力を振るえ、というような指定があるので、それを実現するために右往左往するという話ですね。どうなることやら。
『ハッピーバースセンチュリー』は、そうですね。じゃあこれは空けてビックリ玉手箱システムで、なんにも言わないことにしておきましょうか。台本が書けてないわけじゃありません。書けてるけど言わないだけです。書けてます。あとは印刷するだけです。静かにしてください。
ので、このFステージは福袋とか、何が出るかわからない「?」マークのガチャガチャとかが好きな方向けという感じでいかがでしょう。
あ、ちなみに全ステージの最後だから何か特別な価値がある、というようなことは考えていません。A~Fまでの6ステージは、順番は関係なくフラットな感じで判断してもらってオッケーかなと思います。
まあ、最後のお辞儀が少々エモーショナルになるとか、その程度のことはありそうですけど。
***
さてさて。
各作品に「笑える度」とか「泣ける度」とか、ジャンル的に「ミステリー」とか「ファンタジー」とか書こうかなとも思ったんですけど、意味なさそうなのでやめました。
そんで、一応こうしてサジェストを振り分けてみたものの、結局は「どれも匿名劇壇っぽい」ので、「匿名劇壇っぽい」というカテゴリからはみ出しているステージはないです。
そういう意味で言うと、ほんと目をつぶって指さした回にくればいいと思います。
ではでは。
(了)
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