見出し画像

隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)

久万高原町出身の全国区の有名人というと、残念ながらほぼ皆無といっていいと思います。あえて上げるとするなら初代『仮面ライダー』を演じた俳優の藤岡弘さんでしょうか。
ただ彼の場合はお父さんが警察官で、久万高原町東明神の派出所勤務だったため、転勤でに引っ越してきて、小学生時代を過ごしたということです。

藤岡弘(環境省より公開された肖像写真)

他にいないかなと調べていると、いました、いました。しかも全国区が一人、いや一匹というべきでしょう。
それは「隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)」です。
この名前を聞いてもぴんとこない人もいるかと思いますが、たぶんほとんどの人は、一度や二度はこの名前を耳にしているはずです。

ジブリ映画作品の『平成狸合戦ぽんぽこ』で、新興住宅地の多摩ニュータウンに、神通力によって百鬼夜行を具現化させた後、力尽きて死んでしまったあの狸です。

1994年(平成6年)にスタジオジブリが制作したアニメーション映画作品。

他にも『ゲゲゲの鬼太郎』や『ぬらりひょんの孫』などの妖怪物のアニメにも多数ゲスト出演しています。
知る人ぞ知る超有名狸なのです。

みなとさかい交流館に設置されている巨大イラストボード(鳥取県境港市)


隠神刑部とは

隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)は、伊予国松山(愛媛県松山市)に伝わる化け狸で、『証城寺の狸囃子』『分福茶釜』と並んで日本三大狸話の一つに数えられる『松山騒動八百八狸物語』に登場する神通力をもつ狸です。

松山市街(中央右が松山城)

『松山騒動八百八狸物語』
享保の大飢饉に際して起こったお家騒動が1805年(文化2年)に実録物語『伊予名草』と題して書き下ろされ、さらに江戸末期、講釈師の田辺南龍により狸や妖怪の要素を加えた怪談話に仕立て上げられ、これが講談として広まったものである。そのために講談師の切口次第で複数のバリエーションがあるが、話の大筋は以下の通りである。
四国は狸の民話・伝説が多いが、特に松山の狸は天智天皇の時代に端を発するほどの歴史を持ち、狸が狸を生んだ結果、その数は808匹にもなった。その総帥が隠神刑部である。隠神刑部は久万山の古い岩屋に住み、松山城を守護し続けていたという化け狸であり、808匹の眷属の数から「八百八狸(はっぴゃくやたぬき)」とも呼ばれる。四国最高の神通力を持っていたともいう。
名称の「刑部」とは松山城の城主の先祖から授かった称号であり、城の家臣たちから信仰され、土地の人々とも深い縁を持っていた。松平(久松)隠岐守の時代にお家騒動が起こると、隠神刑部は謀反側に利用され、子分の狸たちに命じて怪異を起こして謀叛側に助力した。
しかし怪談『稲生物怪録』で知られる藩士・稲生武太夫が、宇佐八幡大菩薩から授かった神杖で隠神刑部を懲らしめた末、隠神刑部は808の眷属もろとも久万山に封じ込められた。その洞窟は、山口霊神として今でも松山市久谷中組に残されている。

Wikipedia『隠神刑部』より
山口霊神(松山市久谷)

『松山騒動八百八狸物語』について、他にもネットに上がっている話の概要を追ってみると、勧善懲悪ものの単純なおとぎ話ではなく、本筋は善悪入り乱れた非常にリアリティのある話だと分かりました。

「乗っ取り」だの「ハニートラップ」だの、何やら物語の中の登場人物や松山藩の状況が、現在日本のおかれている状況に酷似しているなと思い、もっと詳細を知りたくなり、出版物になっていないかなと色々探しましたが、古本も含めて販売されているものはありませんでした。

ネットでいろいろ検索するうち、国立国会図書館に講談本として『奇談松山八百八狸』がデジタル化されて残っているものがありましたので、早速ダウンロードしてみました。

松山奇談八百八狸

出版が明治29年ということで、仮名遣いも現代語とはちがい、印刷状態もよくありませんが、目下兄の協力を得て随意現代語訳中です。
完成しましたら、note に上げてみたいと思います。

この物語の中のお家騒動というのは、実は江戸時代に実際にあった「久万山騒動」というのにヒントをえているそうです。隠神刑部も久万山の岩屋生まれということで、原作者もなにか久万山に関係のある人だったのかな?

隠神刑部が住んでいたとされる岩屋(久万高原町古岩屋)


「久万」つながりということで、「久万山騒動」も追って記事にしてみたいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?